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刀の偽物コレクター

もう半年以上前のことだろうか。年配の方と話した時の事である。
その方はいわば大銘物の「偽物」ばかりを集めているコレクターのようで、物を見せてくれながら「まぁこれは偽物だけどね。こんなもの買っちゃ駄目だよ。安かったけど。」と笑いながら愛刀を見せて下さった。
全体的に地刃は冴えたものが多く出来も良く感じられたので偽物にはある一定以上の出来をした刀が用いられるのだろう。
考えてみれば銘だけ似せても上の出来が伴っていなければ偽物としても機能しづらい。
刃でいえば沸がバサけたような箇所があり本物であればそのような出来は許さないだろう。銘は本物と比較すると鏨が妙に太く文字同士の間隔や縦方向のずれなどが目立つ。
本物であればもっと繊細な細い鏨でバランス良く切っているし、目釘孔と銘の位置関係も常に見るものと異なり疑問が残り、なるほど、となったわけであるが、地刃そのものは冴えており変に状態の悪い刀ばかりを買う位なら、偽物と知った上で出来の良い物を安く集めるという方法もアリなのではないかと感じた。
当の本人が偽物として分かった上で買っているかは不明であるが。

そこで別の年配コレクターの方が小耳に入れてくれた。
あの人は「偽物ばかり集めているコレクターだから関わらない方が良いよ」と。
そして「目利きになりたければ刀屋をしっかり選んで本物の出来の良い物を沢山見せてもらう事が大事だ。偽物を見ると目がどうしても無意識に引っ張られる」とも。

後者は全くその通りに思うのだが、今回の件で言えば偽物を本物として言い回っているわけでもなし、あらかじめ偽物と断った上で拝見させて頂けたので、それはその人の趣向を垣間見ているだけであり特に問題があるわけでもないと思ったのであるがそんな事もないのだろうか?
それとも偽物と分かって見ているつもりでも尚無意識に目が引っ張られてしまうからそもそも偽物は見ない方が良い、という事なのだろうか。
真意は不明であるが、ここ1年程は個人的にそこまで偽物は毛嫌いしていないのでこう感じた次第。
3年ほど前は偽物というだけで非常に憎悪感を抱いていたが。

しかしいくら偽物が安いとはいえ、手元に置いておくのは少し怖い。
見る時間が圧倒的に増え自分の中での刀に対する判断基準がブレてしまいそうだからだ。
手元に置くならやはり本物が良い。
人様の刀を見せて頂くなら別に偽物であっても、偽物である旨を知った上で見せて頂けるのであれば特に気にならない。
自分の意見をまとめるとこんな所だろうか。
皆さんはどう思われますか。

そういえば拵についても何十万石の大名家伝来という物を見せて頂いた。
その方はそれは本物と仰っていたが…。
何と言うか金具が安っぽく、具体的に言うなら赤銅の色が薄く、金の深みがなく鍍金のような明るさをしている。
全体的に妙に状態が良く、一言で言えば「新しい」印象を受けた。
鐔や切羽にもガタツキがあり、大名家の物でそのような仕事が許されるとも思えない。そんな所から個人的には偽物に感じた次第。
何十万石の大名家の拵はもっと細部に至るまで作り込まれていて、遠目から見ても品格高く感じるものに思うがどうだろうか。
流石に面と向かってこれも偽物では?などとはマナー的にも言えるはずもなく、「○○家伝来ですか!凄いですね。」としか言えなかったが…。

こちらは一橋徳川家伝来の名品



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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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