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丸櫃孔の鐔③ 書かれた文字を解読

丸い櫃孔を有したちょっと変わった鐔には文字が金象嵌のような感じで書かれています。
この文字を個人的にも調べていたのですが、正直全く分からず…。

こんな時は以前鐔の文字解読に役に立った崩し字アプリ「miwo」を試してみる。
しかし…金象嵌であるからか、そもそも文字を認識してくれず断念。



・「ココナラ」で崩し字の翻訳を依頼

という事で専門家に翻訳を依頼しようと思い、辿り付いたのがcoconala(ココナラ)
「スキルのフリマ」という言葉がぴったりで、色々なエキスパートに仕事を依頼する事の出来るサイトです。
反対に己のスキルを売る(仕事募集する)事も出来ます。

ここで崩し字翻訳を生業にされている「蛙堂のznzi」さんという方に、鐔の文字解読を依頼。

https://coconala.com/users/881456

作業時間は1週間ほど見て欲しいと言われた物の、なんと1日で解読…!
以下の様に丁寧にまとめて下さいました。


・鐔に何が書かれていたか?


鐔の表には中国唐の文学者白居易(772~846年)の漢詩の一部が、そして裏には平安の歌人である紀貫之(872~945年)の和歌が書かれていました。
いずれも「和漢朗詠集」の「春 三月尽」に収録されていたものらしく、いずれも春の終わりを惜しむ歌との事です。

書かれた文字:「惆悵春帰留不得 紫藤花下漸黄昏」
中国唐の文学者白居易の漢詩の一部。

現代語訳:悲しいことだ。春が帰っていくのを引きとめ得ないことは。紫藤の花の下に行く春を惜しみつつ眺め暮らして、次第にたそがれ時になってしまった。
書かれた文字:「花も皆ちりぬる宿はゆく春の 古郷とこそ成りぬへらなれ」
平安の歌人である紀貫之の和歌

現代語訳:春の花がすべて散り尽くしたわが家の庭は、春が立ち去った後、春にとっての思い出深い故郷ということになってしまうだろう。


現代語訳を更に私なりに解釈すると以下のような感じでしょうか。

(鐔表面)
紫の藤の花が咲く木の下に立ち眺めていると、気が付くと黄昏れ(夕暮れ)時になってしまっていた。 
春が去り行くのを止められないのが口惜しい。

(鐔裏面)
花も皆散ってしまった我が家を見ると、美しかった春の情景を思い出し、過ぎ去った春にただただ思いを馳せてしまう…。

こんな感じでしょうか。


・終わりに

藤の花の咲く場所にこの鐔の作者、もしくは持ち主は住んでいたのでしょうか。
悠久の時を経てこうしたメッセージを通して当時の情景や感情が現代にまで伝わってくる事は、非常に心に来る物があります。

和歌と漢詩も実に洒落た取り合わせをしているようにも思いますし、こうした言葉を鐔に入れるというのはやはり相当教養のあった人物ではないかとも思うのです。
そしてそのような人がこうした和歌なり漢詩を刻むという事は、春を惜しむという直訳以上に何か裏のメッセージが隠されているような気がしてなりません。
このあたりは結局想像の域を出ないのですが、和歌や漢詩の前後の内容を勉強したりする事で何か分かってくることももしかしたらあるかもしれません。今後自分なりの解釈を積み重ねて楽しんでいきたいと思います。

鐔の解読をして下さった「蛙堂znzi」さん、この度はありがとうございました!!

正直この鐔に呪いの言葉が描かれていたらどうしたものかとも思っていたのですが、そんな事は一切なくとても素敵な内容で心が温まると同時にどこか切なくなりました。

という事で今回はここまでです。
丸い櫃孔や茎孔の大きさなど、鐔の形状についての考察は以下にまとめていますのでよろしければご覧ください。


今回も読んで下さりありがとうございました!
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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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