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法安鐔① 車透

今まで鉄鐔といえば成木一成氏(現代)の物にしか手を出していなかったのだが、比較的手頃な価格で鉄質の良さそうな鐔を見つけたので手元に置き鑑賞してみる。
鉄鐔に手を出さなかったのは「良く分からないから」の一言に尽きる。
現代の錆付けも非常に巧妙な物があり、古い物との区別、または古いものに新しく錆付けを行っているかなどの判断がなかなか難しい、という事が理由である。こうした鉄鐔の良さを分かるようになる為には実際に良い物を買って手元に置き、日々触りながら鑑賞する事で頭に入れ込むしかないのは分かるのだが、1番最初の取っ掛かりが難しい。
昔1枚の鉄鐔に手を出した時は鋳造であったし、その次は鍛造の物だったが今思えば鉄質はそこまで良くなかった。
まぁ値段も数万円であったしそこに上質な鉄質を求めるのは酷である。
勿論目の利く人であれば数万円で鉄質の良い鐔を手に入れる事は出来るかもしれないが、そうした物は数寄者が早々に手に入れるので初心者が手に入れられるかと言えば確率論で言ってもなかなか難しいのではないか。
そしてその結果が自身が初めに選んだ2枚なのではないだろうか。

そのような中において成木鐔は他にはない独特な鉄味、現代ながら鉄鐔作りに人生を捧げた作家人生などに惚れた事に加え、しかも現代作で偽物がまだ少ない&安い(物によるが)事から初心者でも手を出し易かった、というのはあった。
そしてその鉄質のベースを知りながら後世に巧みに錆び付けされた物も手元に置く事で錆を付ける事でどのような変化が鐔に起こるのか、というのも少しは知識として溜まってきた。
また桃山期かそれより前の鐔を色々と手元に置いてみて鑑賞していく中で、櫃孔や切羽台の作り、茎孔を寄せる鏨の跡なども何となくであるが傾向が見られその辺りも僅かながら知識が溜まってきた。
そんな折に鉄質の良さそうな時代鐔を見つけたので手を出してみようと思った次第。
それが以下。

横75×縦75×切羽台厚5.5mm

写真は日光下

無骨な感じで耳にはいわゆる鉄骨が現れている。



錆はしっとりしており、あからさまに卑しく黒くギラギラと光り輝くような1種の錆付けの色はしておらず、また別の錆付けで見られるような丸い粒粒も表面に見られない。
透かしの断面を見ると、これまたいびつな形をしており、いわゆるレーザーで開けたような綺麗な断面はしておらず時代の古さを感じる。

そもそもこうした隆起を伴った黒錆を現代の錆付けで付けることはなかなか難しいと思われるがどうだろうか。(こうした肌に黒錆を付けた場合もう少し凹部の溝に赤錆が付着しそうにも感じる)
そんな事も無いのだろうか。この辺りはまだ言い切れるほどの知識がない。

隆起を伴った黒錆

鑑定書では焼き手腐らかし(紋様部に耐酸性の塗料を塗っておき、その他の部分を腐食させて紋様を浮き上がらせる手法)を用いた法安鐔、となっているが伊藤三平氏のブログなどを見るに、法安鐔の在銘品を見るともう少し表面がツルツルしており、紋様などが浮き出たような作風をしているものも多い。法安鐔の車透の作風を見ても切羽台は楕円形になっている事から果たして法安鐔なのか?という疑問は浮かぶ。

一方で法安兼信などの在銘品はいわゆる尾張鐔のような正円左右上下対称の構図をしている様子。

また以下の在銘の法安鐔には先の「隆起を伴った黒錆」のところで挙げた写真と似たような肌が見られる気もする。

画像出典:丸形肉彫鉄鐔 銘法安 文化遺産オンライン


浮き出したような紋様でいえば、以下に僅かにみえる阿弥陀のような線くらいだろうか。

このように摩耗による為か殆ど目立って見えない事から個人的には尾張鐔のようにも見えたが、そもそも法安鐔は尾張の鐔工なのでこのあたりどういう判断なのかいまいちまだ良く分からない。

因みに切羽台の責金跡を見ると、尾張鐔にまま見られるようなUの字型を上下に配したような形をしている。

ただ尾張系によく見る気がするというだけで、虎徹などの鐔にも見られるので、江戸時代頃のトレンドなのかもしれない。


話をこの法安鐔に戻して、直射日光下で見ると赤がかった錆のようにも見え、光に当てると砂浜の砂がキラキラと光るように表面がキラキラ光る。これがいわゆる「うわばみ肌」と言われるものなのだろうか。良く分からないが。
先に書いた目を凝らして見える阿弥陀鑢のようなものを紋様とするのであればやはり法安か。

また暫くして知識がたまるまで、もしくはより良い鉄質の鐔が手頃な価格帯で見つかるまで手元に置いてみようと思います。
多くの鉄鐔愛好家を見ても突き詰めるときっと信家などに行きつくのでしょうが、その良さを真に理解するには色々な鉄鐔を手元に置いてみて鑑賞、という段階を踏む必要があり先はあまりに長い。
長いですが取りあえずどこかでスタート地点に立たなければ先には進めないので…。
あくまで桃山以前の古鐔を主体に集めつつ、鉄鐔はほんの時々、というスタンスで楽しもうと思います。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

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