中国安全保障レポート2021③
第3章 サマリー&所感
1 宇宙活動の長期目標と軍の位置づけ
習近平政権発足後、宇宙活動は「中華民族の偉大な復興」を実現する手段と位置付けられている。『2016中国の宇宙事業』(宇宙白書2016)においては、広大な宇宙を探査し宇宙事業を発展させ中国を宇宙強国とすることは中国が追求してきた夢であると記述されている。
二大国営宇宙企業の1つ、中国航天科技術集団公司(CASC) の雷凡培会長曰く、中国が2030年にはロシアを抜いて世界宇宙強国に仲間入りし、2045年には米国と並び世界宇宙強国としての地位を確立するとの見通しを立てている。
ちなみにこの雷凡培という人物、中国が空母建設のための新企業(造船企業2つが合併)中国船舶集団という企業のトップでもあり、習近平に近い存在とされている。
宇宙事業は必ずしも軍事利用に直結しないとしながらも、第2章までに記述あったように、軍民融合により宇宙領域による軍事利用への展開は明らか(そもそもその境界線自体が不毛な認識になっている)。これは他国にも言えることで、弾道ミサイルを基に衛星打ち上げロケットを開発した点も、米ソなどと同じである。宇宙の平和利用には非侵略的な軍事利用も含まれるということが国際標準の解釈であることから、中国が平和的開発を掲げつつ軍事利用を行っていることは特異なことではない。
2 宇宙活動の現状とその軍事的意味合い
中国は宇宙予算を公表していないが、ユーロコンサルの見積もりでは58億ドルほど(2018年)。これは米国の約409億ドルに次ぐ規模で、ロシアの約41億ドルよりも多い。米の規模が桁違い・・・
中国が運用する衛星の数は着実に増加し、2020年3月末時点で363機。全世界で運用する衛星は2,666機で、米国は1,327機、ロシアは169機。
現状、中国の民間宇宙企業は黎明期にあるため、企業が開発した技術やサービスを軍が活用するという段階にあるわけではないと考えられる。しかし、軍民融合戦略に基づく政府・軍の後押しにより、将来的には軍の側が民間の技術を導入したり、サービスを利用したりする時代が来ると見込まれている。
3 宇宙領域をめぐる国際関係
中国にとって米国は世界一の「宇宙強国」であり、戦略支援部隊が米国の戦略軍を模範として創設されることになったとの指摘もある。
米国もまた、中国による宇宙活動の活発化を受けて強い危機意識を持つようになった。トランプ政権は2019年2月末に宇宙軍(Space Force)の創設法案を提出し、同年末に宇宙軍創設規定を盛り込んだ2020年国防授権法が成立し、宇宙軍が発足した。
これに対して、日本も航空自衛隊の部隊として「宇宙作戦隊」という部隊を発足。
さらに宇宙開発戦略推進事務局が米宇宙軍との宇宙連携強化に対するコミットメントとしての覚書に調印なども行っている。
これまで見てきたように、中国の宇宙開発に対する位置づけは非常に重要視されており、軍事利用に対する影響も大きいと考えれる。対して日本も、同盟国である米国との連携も、宇宙という領域において実務的に進んでいることも覚えておきたい。