「圧勝」とは何だったのか。
裏サンデー、マンガワンを知っている人ならば、「圧勝」について知らない人はいないだろう。
その内容の薄さにもかかわらず、なぜか打ち切られないで連載が続いていたことから、コメント欄には誹謗中傷を始め、ファン(?)とアンチの壮絶な殴り合い、果ては全く関係のない他の漫画の感想が書かれる、買い物メモにされる等、Twitterのような雑多な書き込みであふれるようになった。その結果、運営によってコメント欄が閉鎖されてしまうという異例の状況を生み出した漫画だ。
わたしも連載を追っていた人間である。コメントを書き込みこそしなかったが、正直更新が来る度に「どうしてこれが打ち切られていないんだ」と疑問に思っていた。
その「圧勝」が、つい二か月ほど前に最終回を迎えた。その最後もあっけないもので、何の余韻もない最終回だと感じた。
しかし、おそらく「圧勝」は、週刊連載のペースで読むより一気読みしたほうが、発見もあって面白い漫画だと思えることができるのではないかと、そう思ってしまった。
「圧勝」は全13巻。連載期間は4年であったからそんなものかと思った。まだギリギリ手を伸ばそうと思える巻数だ。値段は電子で8000円強した。わたしは「圧勝」に8000円強を投げ捨てることにした。
さて、結論から言おう。
「3巻で風呂敷は広がりきっている」。
つまりのこりの10巻はただの虚無であった。つらかった。
・作画に関して
まず「圧勝」の内容の薄すぎる原因としては、作画と構図とセリフ回しにあると思うのだが、特にキャラたちに動きがなさすぎるため迫力が全くない。向かい合って立っていたキャラが次のコマには何の前触れもなく片方が地べたに押し倒されていることもよくある。
普通なら間のコマに引っ張ったり押し倒そうと突き飛ばしたりする描写を入れるものであるかと思われるが、「圧勝」は行間を読める読者を対象としているのか、それとも、環境に優しい省エネ主義なのか、そのような細かい描写は一切ない。
・内容に関して
内容的に考えると、おそらく作者は、「性感染症」を擬人化させた「吉田」という女の子を中心に「恋愛とは何か」ということを描きたかったのだと思う。
恋愛に悩む若き男女が吉田を中心に次々と亡くなっていく……のだが、その恋愛に悩む描写が薄すぎる。
具体的に述べたいところであるが、本当に薄いので述べる部分がない。何巻でどの話があったのか、なども全く覚えていないし読み返す気力もないので、申し訳ないがこのあたりの説明は省かせていただく。
とりあえず「若い男が吉田とセックスして発症(後述)して自分の彼女や他の人を巻き込んだ末死ぬ」が基本的な流れであった。というかそれしかない。発症後にただ暴れる、発情するだけでなく、そこでようやく「気づき」を得られるが時すでに遅し、という流れがあれば面白かったな、と読者としては思った。
さらにつらいのは、主人公の「篠原」にも全く感情移入ができなかったことだ。
彼は吉田に惚れているので、吉田中心に起こっている事件の捜査の手から吉田を守ろうと奮闘するのだが、その奮闘の仕方に知性を感じない。肝心の吉田の魅せ方が薄すぎるのも相まって、他に事件を解決させようと動いている登場人物たちの邪魔をしているようにしか見えないのだ。
吉田と同じ力を持つ「上野」も言っていたが、真っ先にこいつが死んでくれればよかったと思う。
上野の話をしたので触れておくが、吉田以外にも、本人の望まない性交渉が行われた際に相手が死ぬ(暫くすると周りの人間に対し暴力的になり、散々暴れたあと力尽きる)ような防衛機能を備えている人物は、上野と他に「サンゴ」という女性がいる。
しかし正直吉田以外には不要だと思った。重要人物を分散させてしまっているのが非常にもったいない。吉田一人をひたすらに掘り下げてほしかった。
しかしその吉田への掘り下げも最終回手前あたりに突然始まったし、それまで痴呆のような人間だった吉田が刑事相手にいきなり饒舌になり始めたのでこれには非常に驚いた。
一人ひとりの行動動機の謎さ、会話の不自然さ、心情の不安定さから見て、基本的に「圧勝」に出てくる人物は人間でないと思った方がいい。
吉田含めて全員宇宙人くらいに眺めておいた方が多少はストレスが和らぐ。おそらく舞台も地球ではなく、地球によく似た惑星であるに違いない。
・結局「圧勝」とは何だったのか。
わからない。
・最後に。
「圧勝」全3巻、読んでみてください。