妊娠したら味覚がアップデートした話
うなぎによる受胎告知
まだ検査薬も反応しない妊娠超初期。私に受胎を告げたのは鰻丼だった。
ある日の昼休み、職場近くのスーパーで鰻丼を買った。値段に見合って小ぶりなそれは、普段からよく食べる私からすれば、物足りないはずだった。が、食べ終わった途端、胸焼けがしたのだ。もしかして…?と感じた5日後、産婦人科で妊娠が発覚した。
数日後には、北海道での研修が控えている。北海道グルメが楽しみだったが、トキソプラズマや食中毒の危険を考え、レアな肉や海鮮丼は涙を飲んで諦めた。いつもより食欲は落ちてはいたが、幸いつわりというほどのものはなかった。無難にスープカレー等を食べ、次に来たときこそは海鮮を山ほど食べてやるという誓いを立て、帰宅した直後のことだった。
味覚初期化
帰宅して数日も経たないうちに、 本格的なつわりが始まった。北海道の食をそれなりに楽しめたのが信じられない。なんと空気の読める赤ちゃんだろう。
つわりには、吐きづわり(食べられない)、食べづわり(空腹が気持ち悪い)、眠りづわり(とにかく眠い)などがあるらしい。
私は吐きづわりが中心で、残りの2つも日によって出現した。人によってつわりの現れ方は千差万別だろうが、私の場合、味覚が幼少期に戻ってしまったように感じられた。つまり、味覚の初期化である。
例を挙げるとすれば…
① 味が混在するものが食べられない
卵なら卵、トマトならトマト、豆腐から豆腐、単一の食材の料理なら食べられる。でも、肉野菜炒めとか、ごった煮とか、いろんな食材の味が入り混じった料理が気持ち悪くなった。これは味覚が過敏な幼児が、ご飯を拒否する原因の一つとして聞いたことがある。
② 苦味への過敏さ
私は小学校の給食で、ほうれん草がとにかく苦手だった。大人になるにつれマシになり、ほうれん草の白和えなんかは、好んで食べるまでになった。しかしここに来て、いつも食べていたはずの白和えが苦くて苦くて食べれなくなってしまった。このことも、野菜を嫌がる幼児が多いのは、毒や腐ったものを避けるべく、苦味に敏感になっているらしいという話を思い出させる。
③ 特定の匂いへの過敏さ
幼稚園〜小学校の頃、私が何より嫌いだった匂いは、椎茸を炊いている匂いだった。どれくらい嫌いかというと、家の外からでも嗅ぎ分けられ、ひとたびキッチンに入ったら鼻呼吸ができなくなるほどだった。だが成長につれ匂いは気にならなくなり、自炊を初めてからは、積極的に料理に使うまでになった。なぜあんなに嫌だったのかも思い出せなかったのに、今になって再びあの匂いがNGになったのだ。しかも今度は、しめじや舞茸の匂いすらアウト。幼児一般にいえることではないだろうが、私にとっては嗅覚も初期化したような感じだった。
味覚ver2.0へ
こうした状態はしばらく続き、体重は4キロ近く落ちた。入院まではいかなかったが、ケトン体が上がり、何度か点滴に通った。
つわりがマシになり、上記のような「初期化」がおさまると、今度は不思議な出来事が起きた。一言でいうと、味覚がアップデートされた感覚になった。
そもそもうちは共働きで、料理は当番は交代制にしている。お互い一人暮らし歴があり、自炊はそれなりにできる。美味しいものや食べ歩きは大好きだが、日々の食事は時短・コスパ優先で、こだわりはない。そのため、「名前はないけど、なんか美味しい中華風の炒め物」とか「冷蔵庫にあるもので作った美味しいパスタ」をよく作っていた。もちろんオリジナルで、調味料は目分量。特に私の場合、特にレシピを見ずとも、勘でそれなりに美味しいものを作れることを、こっそり得意に思っていた。
それなのに、つわりが収まって以降、この「なんとなく料理」が受けつけなくなったのだ。せっかく旦那が作ってくれたのに悪いと思うが、そんな料理が出た日は少し残してしまった。
凝った料理じゃないといけないわけではないが、方向性・テーマ性が定まってないと、舌が「うーん」と唸る感じなのだ。例えば、鶏肉と玉ねぎと卵で作った親子丼は美味しく食べられるが、豚肉とキャベツとしめじと椎茸と卵で作った丼は、食が進まない感じ。栄養的にはいろんな食材が入ってた方がいいんだろうけど、味がぶれてしまうような。食材に「君たちチームだけど、同じビジョン見えてる?」と問いたくなるような感じである。
料理をちゃんとされてる方からすれば、「そんなの当たり前でしょ。元が味音痴だっただけじゃない?」と思われるかもしれないが、私にとっては不思議な変化だった。
夫婦格差とその後
だからといって、もちろん旦那の味覚まで自動アップデートされるわけではない。しばらくの間、突如生まれた夫婦間味覚格差に悩んだりしたが、しばらくすると旦那もバージョンアップした舌に対応した料理を作ってくれるようになった。ありがたや。
現在、アップデートから約五ヶ月が経った。産休に入ってからは、「今日の料理」を図書館で借りて新たな料理に挑戦することが、日々の楽しみになっている。相変わらず凝ったものは作らないけど。
考察
このような味覚の初期化→アップデートという道のりを全ての妊婦さんが辿るわけではないと思う。というか、私の経験が特殊なのかもしれない。
なぜアップデートしたのかは分からないが、これから母として子に料理を作ってやる上で、必要なアップデートだったのかもしれないと、なんとなく思う。(あくまで私の場合は、という話)
赤ちゃんが食を楽しめるようになったら、この新しくなった舌を使って、なにか美味しいものを作ってやりたいな。それで1つでも子にとってお気に入りの「おふくろの味」ができたらいいな。
初めての妊娠。自分は生き物であって、意思だけではどうにもならないこともあると感じることが多かった。他の不思議な経験も覚えてるうちに書き残しておこうと思う。
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