調べないでよ
「カシューナッツって、どうやってできるのかな?」と聞かれました。
アートディレクターの細谷巖さんは、尊敬するクリエイターの一人です。前職時代に、よく飲みに連れて行ってもらいました。その日にご一緒したのは、銀座にあるバーテンダーが蝶ネクタイを占めているような地下のお店でした。昭和の香りが漂うオーセンティックなバーで、その当時に細谷さんが気に入っていたお店です。
カクテルか何かを頼んだあと、小皿に盛られたミックスナッツがおつまみとして提供されました。他のメンバー達が合流するのを待ちながら、細谷さんと二人でそのミックスナッツをつまんでいました。
「カシューナッツですか?」「そうそう、カシューナッツ。これさ、変な形だよねえ。これ、どうやってできるのかな?」と、子どものような無邪気さで聞いてきます。
ちなみに、細谷さんは「縄文人だから」という理由で携帯電話を持ちません。会社の総務部から支給された携帯電話は、「これ、渡されたんだけどイヤなんだよね」と言って、会社のデスクの中に電源を切って入れっぱなしにしていました。夕方以降に細谷さんと連絡をとりたい人は、行きつけのバーに連絡をするシステムでした。スタイルを貫く主義の方なので、いまも携帯電話は机の中に入っているように思います。
「本当に変な形ですよね。どうやってできてるんでしょうね?」
私は自分のiPhoneを手元に出してgoogleを開き、カシューナッツ 木、と検索窓に入力しようとしました。すると細谷さんは。
「もう、やめてよ。すぐ調べないでよ。こんなの、どんな風にできてるのかなって考えるのが楽しんだからさ。」と言ったのでした。
明確でない答えを探す旅
1+1=2、2×100=200。では、1927469×9715の答えは何でしょう。
鯛の読み方は、たい。鰻の読み方は、うなぎ。では、鯊はなんと読むでしょうか。
調べればすぐ答えが出てくるような問題ばかりなら、人生もお仕事も簡単なはずです。調べれば良いからです。自分で調べるのは早いし、google Homeに聞くのも便利。気になる方もいるかもしれませんので、この件は私が責任をもってお答えします。1927469×9715=18725361335です。鯊は、ハゼと読みます。
「赤と青ならどちらが好きですか?」「地球に優しい会社のモチーフは、笑顔の地球や笑顔の子どもが人気です。この2種類ならどちらがお好きですか?」などのシンプルな質問の先にロゴデザインができあがるのなら、人がやっても機械的に処理してもさほど変わらないです。最近は、質問に答えていくとロゴデザインができあがる便利なアプリがあります。
クリエイティブワークをはじめ発想が必要とされる仕事では、答えは検索してすぐに出てくる訳ではありません。お客さんからいただいたお題の最適解を見つけるために、あれこれ考えまくります。正面から見てみようか、横から見てみようか、上から見たら面白いかも、斜めも流行ってるよね。なんなら小分けにしてみようか、潰してみたら新しい発見があるかも?この際だから真下から見てみる?どうなのかな。こうなのかな。あれやってみたらどうかしら。やっぱり違う。行ったり来たり、また行ったり。一周まわって結果ここに戻りました、もある。
カシューナッツは、一つずつなっているのか。数個ずつ仲間になってくっついているのか。連なっているのか、それとも横に並んでいるのか。外皮に覆われているのか、それともむき出しなのか。あの有機的な形を見ながら、答えを見ずにあれこれ考えをめぐらせてみるのは、時間の無駄なんでしょうか。そうかもしれませんね。では、時間の無駄を一切排除した生活は豊かになるのでしょうか。そうだとしたら、あなたは今このページを読むより、Kindleで「すぐに使える!●●術」の本を買って読んでいてもおかしくないですよね。それでも、ためになる実用的な本を差し置いて、このページを読んでくださってありがとうございます。
先日Twitter上で「だから僕は、ググらない」という文字を見ました。麻生鴨さんの著書でした。私は読む前から本の内容を想像し、共感してしまいました。
出かける用事の時間になったので、最後に一言だけ。
ググらないのも、風流で良いです。