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他人の運命を変える女

大野幸子さんは、他人の運命を変える女です。

私は彼女を、ユッコさんと呼びます。初めて会ったのは、2020年のコロナ渦。当時ではじめのオンライン会議。とある会社のブランディングプロジェクトのメンバー同士として、私たちは出会いました。今でも、ユッコさんと初めて会ったときを覚えています。

そこに集まった10人以上のメンバーが、画面のなかでズラッと無機質に整列していました。小さな枠内におさまったユッコさんは、そこからオーラを放っていた記憶があります。相槌を打ったり、ニコニコと反応したり、発言しないあいだも、かわいらしく動いていました。

「できましたー!」
ユッコさんは、企業の理念を言葉にする専門家として活動するコピーライターです。先日のクライアント企業へのヒアリングと、制作メンバーとの軽い打合せを経て、さて徐々に制作に取りかかろうと思うや否や、数日後にポーンと彼女から案が出てきました。え。はや。早すぎませんか。私は、広告業界に10年いましたが、こんなに仕事の早いコピーライターには会ったことがありません。

早いから、精度はどうなのかというと。その企業のブランド戦略を設計した阿部成美さんと、そのプロジェクトでデザイン制作を統括した私が、見た瞬間に「これです」と即答する内容でした。たとえば、その企業の魅力と戦略を凝縮した短文に、タグラインがあります。ユッコさんの作ったタグライン「火種を炎に。」はお見事で、この企業の存在意義と提供価値を言い表しています。2020年につくったこのタグラインが納品先の企業ホームページの真ん中に今でも使われている事実を考えると、非常に品質の高い納品物であるといえます。(参考:インビジョンhttps://www.invision-inc.jp/)

ユッコさんの作ったタグラインを武器の一つにして、その後このインビジョン社が未来を切りひらいていったことを考えると、ユッコさんがこの企業の火種を炎にしたのでは、とロマンチックな考えが生まれてしまいます。たぶん事実。

「ぴらゆうさーん!遊びましょー!」
このプロジェクトでお近づきになってから、私はユッコさんとつるむようになりました。彼女はいつも明るく、ノリがよく、ニコニコしています。楽しくおしゃべりしているだけだとまるで、女子高生のようなエネルギッシュで初々しい印象。おしゃべりしているだけで、楽しい。明るい気持ちになる。でもね。彼女の恐ろしいのはここから先です。

「ぴらゆうさんは、もっと自分の変態性を自覚したほうがいいんです。」
急に、確信的なことを言ってきます。表現としては、ぶっこんでくる、がしっくりきます。グイグイきます。ガンガンきます。たたみかけるかのようにキラキラと目を輝かせながら、自分の意見を言ってきます。めちゃめちゃ鋭い。的確です。

「ぴらゆうさんの良さが、もっと世の中に伝わってほしいんです」
やめない、やめない。私が「うーん」と思っても、ユッコさんはずっとしゃべっている。相手が納得していなくても、彼女はあきらめない。相手の輝きの金脈、ここにありと思うと、勝手にグイグイその道を切りひらいてくるのです。すごい力。なんてパワフル。ものすごくおせっかい。

ちなみにユッコさんは声が高くて、ユッコさんのしゃべりは、鈴の音がチラチラとなっているよう。鈴の音というと、静かに穏やかに鳴るようなイメージですが、ユッコさんは頭の回転がとんでもなく早いので、その鈴のような可愛らしい声で、しゃべくり倒してきます。彼女の純粋で迷いのない性格そのままに、湿度を感じないカラッとした高い声。鉄琴の高めの位置で、気持ちのいい音楽が奏でられているような感覚です。

彼女に言われた通りにすると、人生があれよあれよと展開していきます。彼女のテーマは「命、芽吹く瞬間をつくる」だそう。私の場合は、完全に、芽吹いている。芽吹かされている。人の命を芽吹かせるための彼女の根気とエネルギー、すごすぎます。

「ぴらゆうさんは、生け花をやったほうがいい。絶対に合ってる。体験だけでも来てください」
ユッコさんは、10年ほど生け花を経験しています。彼女が現在お稽古に通っているのは、草月流という華道の流派。 草月流は、1927年に勅使河原蒼風(てしがわらそうふう)が創始しました。新しい花材や花器を用い、従来の生け花にとらわれない、造形芸術としての生け花の創造をねらいとします。

ユッコさんは、この流派の特徴、生け花がいかに人の美意識を育てるのか、自分が描いた形を自らの手技により形作る楽しさを、私に説明します。ふだん、法人ブランディングの仕事で頭を使う時間が長く、抽象的な世界にひたりがちな私だからこそ、手を動かす必要があるというのです。そうなんだーと聞いていると「はい。ぴらゆうさん。いつ行きますか?ご一緒しましょうね」と言って、日程をつめてくる。自分のカレンダーアプリをひらいて、キラキラした目で私を見つめてきます。もう、言われるがままでしょう。

そうしてご一緒させてもらった生け花の体験レッスンで、やはり私は生け花の楽しさを知るのです。習いはじめて半年というもの、毎週のように通っていることを考えると、彼女の、人と物事をマッチングさせるセンスが、どれだけ精度の高いものか分かります。こうして、私の人生はひらかれていくのでした。

「私、空手習ってたんですよ」
昨年11月に、千葉の荒行ツアーに一緒に行きました。マタギ活動家の家にお世話になり、焚き火を囲みながら集まったメンバー同士、空手の型に興じていました。すると、ユッコさんが言うのです。私は学生時代に、空手を習っていたと。華奢なユッコさんが、ニコニコしていた状態から真剣な表情になったかと思うと、鋭い動きで相手に突きと蹴りをお見舞いしていました。もう。なんなん。何から何までできれば、気が済むのか。頭もセンスも良く、美しくて、運動神経もいい。神様はユッコさんに与えすぎではないのでしょうか。多すぎませんか。いや。きっと、ユッコさんは、自分の才能を育てる達人なのです。

関わる人は、みんなユッコさんの魅力に魅せられる。ユッコさんはまわりを魅了していきます。天使なのか才女なのか、分かりません。両方か。共通して言えるのは、ユッコさんと関わると、大なり小なり、運命が変わっちゃうということです。各人が、ユッコさんに感化され、自分の魅力と美意識の可能性に気づいてしまうからです。

そんなユッコさんは、抽象画家です。

「個展、やりまーす!大きい会場を借りました!」 ある日、ユッコさんが言い出しました。この人は、思いきりがいい。

「今回は、過去最大の広さとなる650平米超を使っての展示となりました(ちょうど、体育館くらいの大きさでしょうか。ドキドキ...)。新作26点、旧作20点、合計約50点の作品で皆様をお迎えします。」会場、広すぎないかと思います。さすがです。

アートの発表の場として、グループ展や個展があります。グループ展は、複数名が特定のテーマに対して作品を寄せ合い開催します。個展は、一人のアーティストが開催します。個展は本人の作品づくりや自分の色を出しやすい分、アーティストの負担が大きい。それでいくと、今回のユッコさんは、個展です。準備が大変。しかも、なんだかとてつもなく大きな会場を借りた。スポンサーがついている様子はないので、自己負担でこのサイズを借りたのでしょう。とんでもないスケールの人です。

「個展の準備、誰か手伝ってください」
とある日、彼女が投稿しました。すぐに連絡をしました。先ほどいくつか書いたように、そして書いていない話がこの10倍はあると考えると、私は、ユッコさんに、どれだけ世話になっているか分かりませんから。ここぞとばかりに「やれることあったら何でもやりますよ」と返します。どうも、私と同じような人が、ざっと10人いたようです。どれだけ多くの人に、多くの場面で価値発揮してきているのか。やはりこの人、ハンパないです。

個展をするには、展示物である作品を会場に運び込み、事前に準備をします。この会場準備を、設営といいます。彼女が横浜で借りたその大きな展示会場を、華奢なユッコさんが一人で設営を完成させるのは、どう考えても不可能。会場を借りた時点で、周りのみんなが集まり会場を完成させる展開をユッコさんは分かっていたはずです。それを見越して、あんな体育館みたいなサイズの場所を借りたのです。そして実際、彼女が一度声をかけただけでさっと10人、まる1日、彼女のために動くと決めた人たちが、集まるのです。これだけ愛されている。そして、その愛されているのを自覚している。きちんと支援を求めるのも、一緒のユッコさんの才能です。

「素敵な人ばかりが集まりましたね!私がそれぞれを紹介しますね!」
設営手伝いの日、開始する前に、ユッコさんは来た人同士を引き合わせました。一人一人の魅力を、ニコニコ端的に語ります。こんなに他人を紹介するのがうまい人は、なかなかいません。いつも思いますが、お見事です。ユッコさんの紹介により、いる人が全員、たちまち魅力的に思えるようになる。ユッコさんは手伝いにいく人にも、こうしてハッピーを与えます。手伝わせるだけなんて、つまらないことはしません。手伝いですら、参加者全員にとって、実りある1日にしちゃう。どこまでも、生産的な人です。

設営チームは、全部で4部屋ある展示室を、それぞれ手伝い、作っていきました。驚くべきは、ユッコさんの事前準備の周到さ。

全ての部屋を埋め尽くすテーマごとの作品たちを描き上げたのはもちろんのこと、ポスター、部屋ごとの企画説明展示物、配る用のポストカード、それ以外の持ち帰るもの、設営のための道具や消耗品まで用意していました。大から小までとんでもない種類の作品や関連物が、設営の朝に乗り付けられた車から、出てくる、出てくる。この量の準備を、どうやって一人でこなしたのか、謎すぎます。ユッコさんの身体には、元気の発電機が内蔵されているのかな。自家発電式なのかな。さらに驚いたのは、せっかくだから花と花器まで用意していたことです。生け花の作品も、この場でつくろうとしています。

展示室ごとに、テーマが決まっています。

「生々流転。全てのものは絶えず生まれては変化し、移り変わっていくことだと味わってほしいです」
この部屋では、2×10mの大作を、4点展示しています。ユッコさんはその書道の腕前もこれまた素晴らしく、その筆を持ってしてこの大作を一気に仕上げています。設営メンバーが、一番泣いた部屋です。作品のすばらしさはもちろんのこと、設営が大変だったという意味です。是非、多くの人に、この文章で説明しづらいオーラある空間を味わってほしいです。

生々流転。迫力がものすごい


「ここは見立ての間です。この展示室では、見る人に作品を見立ててもらいたいのです。作品の見方に正解はないって伝えたい」
ユッコさんは、あの手この手で展示を見る人の心を動かし、創造の芽を息吹かせようとします。

見立ての間。見た人が自分の考えを書き残せるよう、作品ごとにノートが置かれている

ここが最大のポイントです。ユッコさんの作る個展は、アーティストの一方的な作品作りと発表の場ではありません。ここでは見る人が徹底的に心を使い、自ら参加することを求められます。参加する人にも美意識のポテンシャルがある。その命を芽吹かせる。ユッコさんは、見る人に宿る感性の可能性を信じているのです。

今回、この会場の準備に立ち合って、改めてユッコさんという人が、1人でも多くの人に、感性を磨く喜び、生きる楽しさを伝えようと本気なのが分かりました。自ら大きな個展会場を借り、見事に準備を整えて、本気で多くの人の人生を変えにきているのです。この人は、そういう人です。本当に、稀有な人です。

さて、そんなユッコさんの個展の詳細です。
「I'm here 未来への現在地」
https://www.yukiko-ohno.com/post/solo2024

【個展会期】
2024年4月30日(火)〜5月5日(日)

【開廊時間】
4月30日 13:00-18:00
5月1日〜5月4日 10:00-18:00
5月5日 9:00-15:00
※作家は全日程、全時間在廊予定

【会場】
神奈川県民ホールギャラリー(神奈川県横浜市中区山下町3-1)
第1〜第4展示室

私は5月3日の午後に、この個展に伺います。もし現場でお会いしたら、ぜひ声をかけてくださいね。

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