痛客Ｔとセクキャバ嬢の75日間戦争①
本当につい最近、一人のお客様との連絡を一方的に終えることにした。ナイトワークをはじめてから様々な痛客を目にしてきたが、こいつはほかの痛客とは一味も二味も違う。この話は、たった二か月半の短いようで長い壮絶なガチ恋痛客との戦争を綴った涙の備忘録です。
全てが強烈！ 謎の自信に満ち溢れた男・Ｔ
根拠のない自信ほど信用できないものはない。ノー勉のまま挑むテストの前の「なんかいけそうな気がする」みたいなアレは、自他ともに信用ならない一番ダメな自信だ。それと大差ない漠然とした自信を抱き入店してきたのが、痛客・Ｔである。
彼は25歳、独身、職業は話を聞く限り恐らく日雇い作業員。金があれば店に入り、なければフロントに立つボーイにしつこく話しかけ、2時間ほど絡んで帰っていく困った客だった。ただ、店にとってたとえ少額でも、必ず月に何度か現れてお金を使っていく客、つまり常連さんは大事なようで、特に出入り禁止にもならずにいた。Ｔはもともと指名替えの多い人ではあったが、私が入店してすぐはずっとNo.２のキャストを指名していて、時々シャンパンも注文していたこともあって、まったくお金がない人ではないのかなという印象があった。だから、自分を指名してきたときも、まさかこんな困った人だとは思わなかったのだ。
セクキャバを婚活パーティーと勘違いする25歳・独身
スナックではお決まりだった冗談のTOP３には入るであろうセリフ「結婚しよう」。私はよく「明日印鑑持ってくるから、あなたは本指名で婚姻届けを持ってきてね！」と返事をする。これを言ってくるのはたいていオジサマが多く、「生ビールください！」くらい軽いノリの方がほとんどだったし、私も、当然明日印鑑をもって出勤するつもりもなければその客が婚姻届けをもって本指名で来るとも思っていない。
そしてＴも例にもれず、同じボケを私に振ってきた。ご挨拶をして名刺を渡してすぐ、「結婚していただけませんか」と話しかけてきたのだ。おいおい、一発目からそれかい、と思いつつ、フリーのお客様だし、ドリンクだってもらいたいし、盛り上げるためにお決まりのあの返事をすると、Ｔは突然俯き「マジか……マジか……」とつぶやきだした。マジなわけがあるかい。そんな奇妙なことはあったものの、その後の時間は平和に過ぎ、その後１セット延長指名をもらったので、1.5セットをＴと過ごした。連絡先を交換したためお礼のメールを送ろうとしたとき、一件のメールが入っていた。
何事なの？
先ほども申し上げた通り、私とＴは1.5セット（60分）しか時間を共にしていない。たった一時間でキャストにほれてしまうならまだしも、駆け引きまでしだすのは純粋にすごい。この圧倒的勘違いパワーに圧倒され、私は丸一日返事をことができなかった。だが、Ｔには素晴らしく優しい（？）一面もあったのだ。
返事をスルーするとＴも一緒にスルーしてくれる
この手の返信は「で、昨日のあれはどうなの？」と追及されることが多いので、あくまで困ったメールの返信を考えるための時間稼ぎとして、関係ないメールのみ返信するという方法をよく使う。が、なぜかＴは一緒になってあの質問をスルーしてくれたのだった。これならきっとこの先何か嫌な質問が来ても、一日経ったらリセットされるシステムが作動すれば割と楽に営業メールができるのではないか。そう思った私は、Ｔへの営業を続けるという誤った道に突き進む。
「格言」という単語をググってほしかった五月一日
かく‐げん【格言】 の解説
人生の真実や機微を述べ、万人への戒め・教訓となるような簡潔にした言葉。金言。 ――goo国語辞書より引用
お前がググってくれないなら、と思い私がたった今調べた『格言』の意味がこちら。人生の真実や機微を述べ、万人の戒めとなるような～……なるほど。ではこの意味を踏まえた上で、こちらをご覧ください。
万人への戒めの前に自身の戒めはどうしたんだ
彼は、自分の考えたちょっとよさげな言葉を格言とし、ノートにまとめて店のボーイやキャストに配っていたのだった。前に指名されていたNo.２のキャストは、酒に酔いながら「ケツを拭く紙にもならねぇな！」と言いながら燃やしていたそうだ（店長談）。そんな明らかヤバいノートを、私はこれから託されなければならないのかと、毎日冷や冷やしながら出勤した。
そして数日後、ボーイを通じてあのノートが手元にわたってきた。正直、マジで来るなと思っていた。なぜなら私は人の格言をそもそもそんなに信じない主義なのに、知らない25歳の男が15歳から書き溜めた格言に、価値が見いだせるとは到底思えなかったからである。中身は案の定、すごかった。
天が私を生んでくれた以上、必ず世の中の何らかの役に立つ為である
一行目から日本語にバグが発生する格言集ってある？
仕事というのは辞めなければ本物になる。
続ければ、必ず物になる。
お、ちょっとまともじゃん。いいよいいよ。
仕事とは何？
今語ってた仕事論１ページで忘れたんだね。
この世にストレスになることはない
今まさに人生最大のストレスに襲われたのですがこれは
上記はノートのたった一部だが、ノートにはこのような格言がびっしりと5ページほど書かれていいた。私はこれに絶句し、Ｔからのメールを返す気力も失くした。しかし、書き手とはやはり誰しも読者の反応が欲しいようだった。
日付を見るとわかる通り、これはコロナ感染拡大防止のための自粛中に送られたメールである。その時点で明らかに、店が混んでいるはずがない。なんなら私も出勤日数を半分以下に減らし、バックヤードでひたすらうがい手洗いを繰り返すだけの日々を送っていたのに。しいて言うなら、この時私はＴのメールを見ると体調が悪くなる病気にかかっていた。
とまあこんな具合で、序盤からかなり飛ばして書き記しては見たものの、正直2、3回じゃ終わる気がしない。そして深夜にこのメールを見返したら、無性に煙草が吸いたくなった。まだ雨は降っていない。今のうちにメビウスオプション5ミリを求めてコンビニへ旅立とうと思う。続きはまた後日。