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四代目歌川広重による『江戸府内絵本風俗往来』の普化僧(こもそう)
某日、西荻窪の古本屋で『江戸府内絵本風俗往来』という文庫本を見つけた。
(四代目広重なんて人がいたのねぇ)
なんて思いながらパラパラとめくって見ていると、虚無僧の絵があるではないか。
この風俗絵本には江戸の年中行事から日常風景、商売人や路上の人々がその説明文と共に生き生きと描かれている。
明治38年に刊行された本だ。
時代の激変ぶりに差異がありすぎるかもしれないが、ちょうど今頃に昭和の風俗絵本を刊行するくらいな時代差だろうか。
四代目歌川広重という人は、1849(嘉永2)年生まれ。本名は菊池貴一郎。菊池容斎にまなぶ。そして、明治44年四代歌川広重をついだ。大正14年に亡くなったので、江戸〜明治〜大正と生き抜いた人だ。
藤懸静也著『浮世絵 増訂版』によると、
三代広重の歿後、その画系は全く絶えたが、曩(さき)に三代の未亡人、清水晴風氏等相図りて、豫て安藤家と親しかった菊池貴一郎翁を推して四代広重とした。菊池氏は書道指南などに従事して居たが、もとは版画を製作し、武者絵などを多く画いた人である。大正四年、余の編纂にかかる「木版浮世絵大家画集」を京橋渡邉木版画舗より出版した節、その題簽は翁の筆になったのである。
…と、直系ではないが、周りの人々に推されて広重四代目となったとのこと。
激動の時代に生きたと想像するが、彼の描いた絵は、癒し系というか、なんだかほんわかしている。
こちらが虚無僧。
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『江戸府内絵本風俗往来』
国立国会図書館所蔵
なんかこう、ザックリした虚無僧。六部も一緒に描かれている。
虚無僧の天蓋は小さいし、ヒョロリと背が高いが、六部はやけに小さい。大男と子どもたちのようだ。
六部についてはこちら↓
『江戸府内絵本風俗往来』には絵と共に、説明書きも書いてある。
普化僧
普化僧の事は、曩に風俗画報の中に悉く載せられしかば己れ蘆の葉は其以前見し所のものを茲にいはん当時の様をうつして残したりしも其居動態度に至りては失せて跡なきも是非なし普化僧は前にいふ九段目本蔵が拵打の如く葦といふ艸にて編たる深く面を覆ふへる笠を白き木綿衣類(天保以前は絹を着たるよし)に絹の丸ぐけ帯を前に結び黒き絹布の袈裟をかけ繻子或ひは緞子袋に笛なるか刀なるかを納めて帯にさし白足袋に黒塗り下駄を穿て門口に来り立止りて少しくそり身になりて笛吹鳴す様は此方には尋常の物貰虎化子を断るが如く出ないョといふことを得ず手より手へ手の内に銭を渡すか左なくば五無用ですと言葉を丁寧に改めて謝絶するといふ態度を粧ひたり併し普化僧の偽物ありて来る其偽物に至りては普通の化子と異ることなかりける
「曩に風俗画報の中に悉く載せられしかば」とある『風俗画報』とは、おそらく明治時代に刊行された雑誌のことと推測する。
風俗画報(ふうぞくがほう)
明治・大正期のグラフ雑誌。発行所の東陽堂は吾妻三郎が設立した印刷・出版業。1889年(明治22)2月創刊,1916年(大正5)3月が最終号。西洋のグラフィックやイラストレイテッド・マガジンの影響をうけ,画報を名のった最初の雑誌。江戸時代の風俗の考証,東京新風俗や地方風俗の紹介を主眼とし,博覧会・災害・祝典・戦争などの際には頻繁に特集号が出された。
創刊時は政府の推進した極端な欧化主義への反省期にあり、その編集方針は、江戸時代の風俗の考証や、東京ならびに地方風俗の記録というものであったとのこと。
残念ながら『風俗画報』に詳しく書かれているという「普化僧」の内容は今のところ分からない。
説明書きにはさらに、門付けに来たときの対処法、偽物もあるとまで書いてある。「江戸時代の風俗の考証や、東京ならびに地方風俗の記録」のためということで、明治時代になり激変している世の中に対し、消えゆく江戸の風習を書き残さねばという思いが、菊池貴一郎にはあったのでしょうか。
その他、『絵本風俗往来下編』には、江戸の町中、路上の人々が多く描かれている。
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目次
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「りょうごくッえこういイん仏しゃうーーー」
と叫びながら僧侶達が仏餉していた
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載せだしたらきりがないのでこれくらいで。
あとは、国立国会図書館デジタルコレクションでも見られるし、現代語訳付きの本も売っているので、ゆっくり江戸散歩が楽しめますよ。
いやはや、
江戸の町は路上に色んな人がいたんですなぁ。
江戸府内絵本風俗往来 上編
江戸府内絵本風俗往来 中編(2コマ〜)、下編(86コマ〜)
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