吉川英治の名作『鳴門秘帖』を読む📖隠密虚無僧☆法月弦之丞!
吉川英治作、長編時代小説『鳴門秘帖』とは。
大正15年8月から翌年の昭和2年10月まで、354回にわたって大阪毎日新聞に連載された、吉川英治の前期の代表作のひとつ。まだ大衆娯楽機関のあまりなかったその頃、「鳴門秘帖」のたぐいない面白さに、夕涼みのお内儀さんから使い走りの小僧さん、また花柳界の女性まで夕刊を待ちわびて愛読したそうな。
主人公は、多情多恨の青年剣士である法月弦之丞。
あらすじ
宝暦事件とは、
物語は、上方の巻、江戸の巻、木曾の巻、船路の巻、剣山の巻、鳴門の巻、と構成されている。
次から次へとピンチが続き、助かったと思えば捕らえられ、逃げたと思えばまた捕まり、最後まで全く心の休まらない長編小説。
ここでは虚無僧がどのように描写されているか取り上げていきたい。
まず最初の虚無僧登場の場面。
最初のこの場面に、尺八、虚無僧、一節切、普化宗、ぼろんじ、寄竹派、と概ね尺八用語が登場している。
法月弦之丞が吹いていたのは一節切。
「宗長流」の宗長とは、柴屋軒宗長のことかと思います。
室町時代後期の著名な連歌師で、尺八愛好家。「體源鈔」の著者豊原統秋とも親交あった。
江戸時代後期の故実家・栗原信充著「先進繍像玉石雑誌」(1843)に柴屋軒宗長(1448-1532)が愛用した頓阿作の尺八「老人(おいびと)」の模写図あり。
一節切の歴史というのは謎の部分が多いのですが、流派が出来るのは江戸後半。
江戸の神谷潤亭とその門人伊能一雲の共著である一節切教則本『糸竹古今集』(1805年)の系譜では、一節切の伝承は、蘆庵から宗佐、高瀬備前守、教院、安田城長、大森宗勳、そして指田一音に至り、指田流一節切伝が記述されている。
宗長流というのがあったのかは今のところ不明。
さらに詳しく、虚無僧の容姿はこう書かれている。
「一節短い一節切」
これは語呂がいいからこう言っただけなのかと思っておりましたが、
並べてみたら、ホントに一節短かった。
どの映画を観ても主人公が持っているのは一節切じゃないのがちょっと残念。
「尺八は近くがよく、一節切は遠音がいい」のかな?
虚無僧の情景が目に浮かぶようです。
いつか一節切で虚無僧してみたい…。
そして法月弦之丞が得意な曲は一節切「山千禽の曲」とのこと。
一節切関連でもう一つ、
先日、虚無僧研究会で上杉謙信愛用の一節切というものを見させて頂いた。
戦国時代!
古い!
そして、一節切奏者の相良保之先生、大山貴善氏による一節切の演奏を聞かせて頂きました。
綺麗な音色でした…。
最近、尺八から一節切に興味が移行していく人々の気持ちが何となく分かるようになりました。
やっぱり行き着くところは一節切なのでしょうか。
さて、話は『鳴門秘帖』に戻ります。
弦之丞は、当初は隠密の為ではなく、許されぬ恋の為に虚無僧になったのでした。
アツイな。
江戸に舞い戻ってきた弦之丞は、火事となった甲賀組の屋敷の焼け跡に書き置きを残す。
下谷は寛永寺(現上野公園)の東側一帯をさし、台地であった上野に対する名称とのこと。「普化宗関東支配所」という名称は初めて聞くのでこれも創作なのでしょうか。
一月寺の番所は浅草広小路(浅草東仲町、現在の台東区雷門一・二丁目)にあった。
法月弦之丞は一月寺の江戸番所に身を寄せる。ここでは番所という名称が使われる。
法月弦之丞は寄竹派のものとなっており、都合に依って泊めさせてもらっているということになっている。
虚無僧寺は風呂屋をやっていたということまで調べていたという吉川英治は、やはり改めてすごい。
「絢爛たるロマン」
司馬遼太郎が、歴史という既成の素材を借りずに純粋に空想の世界を構築したのが「鳴門秘帖」であると絶賛している。
岩田専太郎挿絵『鳴門秘帖』
中央公論社から出版された『鳴門秘帖』のあとがきには、
なんて書いてありますが、岩田専太郎の挿絵の臨場感はスゴイ。
この美男子ぶりは少女マンガのよう…。ピアズリー風であったり、80年代のポップなイラストをも彷彿させたりと岩田専太郎の挿絵は現代のイラストや漫画に先駆けた作品であったのではと想像する。
映画、ドラマ化された『鳴門秘帖』
長谷川一夫主演の『鳴門秘帖』は登場人物も少なく、小説とはかなり違っていて(そもそも2時間ばかりであの長編小説を映画にするのは不可能かも知れないが)多分、小説を読んでから観た人はガッカリしたのではないかと思う。
その他、鶴田浩二主演の『鳴門秘帖』や、NHKでテレビドラマ化され放映された田村正和主演の『鳴門秘帖』が有名。田村正和主演のドラマはけっこう面白かったらしい。若い頃の彼ならはまり役だったかも知れない。
先日虚無僧研究会に参加した時に発見。
個人的な感想としては、
法月弦之丞よりも、この人に人生を振り回される健気でしたたかな三人の女性たちが印象的。最後の最後、なんだよ弦之丞!と、言いたい。
その他の登場人物、お十夜孫兵衛はじめ弦之丞の宿敵である蜂須賀家の人々の強烈なキャラクターは、ハラハラしながらも一々楽しませてくれるし、また普段時代小説を読まない私にとって、使われている言葉や単語、江戸時代の人間関係や職業が明るみになり大変勉強になりました。
ただ、「女性は男性より劣る、弱い」的な描かれ方は今の時代には流行らないだろうなと改めて感じます…。
あと、
この『鳴門秘帖』のもう一つの楽しみ方は、江戸巡りでしょうか。
江戸の古地図で、お綱や弦之丞などが辿った道筋をまた訪れるのも楽しそうです。
弦之丞が江戸の番所に身を隠していた場面などは、江戸の地名が随所に出てきて、古地図と照らし合わせるとまたその頃の風景が浮かび上がって面白い。
地図好きにはたまりません。
そんなことをしていたら、人生あっという間に終わりそう。
それにしても、
吉川英治の「隠密である虚無僧」という虚無僧が描かれた小説の影響は大きいですね。
多くの人が虚無僧は隠密であったと思っているかもしれない。
はたして、実際ホントに隠密してたのか?
岡田冨士雄著『虚無僧の謎 吹禅の心』には「隠密虚無僧」と題して考察されており、またいつかじっくり検証したいと思います。
この『鳴門秘帖』は、幕府側である隠密虚無僧。同じ吉川英治作で後年発表される『虚無僧系図』では虚無僧が逆に倒幕、尊王側になるお話。
また次回、こちらもじっくり読んでいきたいと思います♪
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