地下道のライバル現る☆コム活日記
久々に新宿某地下道の端っこに陣取り、さて、吹き始めようと息を入れたら音が出ない。
最近練習も怠っているし、とうとう劣ってしまったか!
一瞬焦りましたが…、
地下道から吹いてくる強風のせいだった。
コム活の一番の大敵は風。
ここは風が強いと分かっちゃいるが排除されない安心な場所。どっちを取るかなのだ。
せっかく来たので意地でも吹いてやろうと風に負けないようにとこちらも吹いてやる。
その日は法身寺で虚無僧研究会があり、マット・ギラン氏の講演「真実と虚構の狭間で 中里介山と高橋空山の交流と『大菩薩峠』に見る尺八の表象」の中で、映画『大菩薩峠』の一部が上演され、高橋空山演奏する「虚空」を聴いたばかりだった。
いやはや、カッコ良かった。
高橋空山師最後の弟子であるという藤由越山師もこの日に来ており、高橋空山からの手紙を展示されていた。
高橋空山というと、あの痩せた横顔で端正な性格なんだろうかと勝手に想像していましたが、とても厳しい人であったことで有名だそうだ。藤由師への手紙も、「イマドキの若者は」的な厳しい表現がされていた。
しかしあの「虚空」には我の強さみたいなものは微塵も感じられず、まさに虚空に消えていくような音色に聞こえた。
よし、今日は「虚空」でしょ。
高音は風に強いし。
この線路下の列車の大轟音など気にもせず、大菩薩峠にでもいるような気分で吹いてみる。
すると、
地下道の中からギター弾き語りの声が響いてきた。
珍しい。
この地下道で路上演奏の人がいるのは初めてだ。
聞こえてくる歌詞は、フォーク系を感じさせる内容だ。自分の気持ちをギターのメロディーにのせて歌っている。もし、虚無僧をしていなかったら、立ち止まって聞いてみたい。
いやいや、
虚無僧は何千、何万の亡き虚無僧たちの怨念、いや信念を背負っているのだ!
今の君の気持ちに同情している場合ではないのだ!
と、
私も躍起になって吹く。
心の中では(ちょっと静かにしてくんないかな)なんて思いつつ…、
これでもか、これでもか、
と吹きまくり、
虚無僧の怨念の塊になっていたところ…、
虚無僧研究会の会合帰りで、新宿思い出横丁に向かう神田可遊師らが前を通りかかってくださり…
その後、神田師と二人の大物大先輩方と横丁の狭い飲み屋に収まり、皆さんの奥深い尺八談義に(いつか理解出来る日が来るであろうと)耳を傾け、きっと明治時代でも江戸時代でもいつの時代でも、尺八愛好者たちは、こうして尺八談義に花を咲かせていたに違いないと、まるでタイムスリップしたかのように夢心地な時間を過ごしたのでした。
ギター弾き語りの君よ、
またいつか!