11-5 クリハラ10番勝負!5
――福岡ファイターフルメンバーに、ナミさんササハラさん、総勢13人が、高宮八幡宮に集まった。
「……戦う順はクリハラがそのつど指定。審判はこのコミネがつとめさせてもらう。以上だ」
「……………………」
いよいよだ。おれと仲間全員との、ガチンコスパーリング『クリハラ10番勝負』……。
「クリハラ……」
シンジローが心配そうに見ていた。
シンジロ「……おまえ、おれたち全員と戦うなんて、本気かよ? 無茶だぞ。属性の三すくみ、忘れちまったのか?」
クリハラ「いいや……本気だ。属性のことだって忘れちゃいない。
それも含めて、本気でみんなに挑みたいんだ。そうすれば、なにかがつかめるかもしれない……」
「…………ちょっと焦りすぎじゃないのか……?」
「焦ってるよ! 決まってるだろっ」
自分より先に真のアリバに目覚めたシンジローの声に、おれは苛立ちを隠せない……。
シンジロ「…………クリハラ」
まだ何か言いたそうなシンジローに背を向け、おれは、皆が集まる境内の中央へと向かった。
「……では、はじめるとしよう。クリハラよ。最初の相手を選ぶがいい……」
「まずは、カムラ。お願いします!」
「げえええええ!! いきなりおれかよっ! こ、こころの準備ができてないっつーの!」
「カムラよ。クリハラ10番勝負は全員との総当たり戦……遅いか早いかの違いでしかないぞ?」
おれとカムラは、福岡ファイターが作る広い円の中に入る。
まずは手始め。最下位のDランク・カムラとの戦いだ。
先は長い。風属性のおれにとって有利な相手である氷のカムラやカワハラは、一気に突破したいところだっ。
コミネ「それでは。クリハラ10番勝負第一番。はじめ!」
コミネさんの合図と共に、カムラとのスパーリングが始まった!
おれはカムラと相対し、ファイティングポーズをとった。
と思ったら、いきなりカムラが土下座して……?
「ま、待ったーーーー! やっぱおれの負けっ。ギブアップ! つーか、風のクリハラと氷のおれが戦ったって、どうせ負けるのは目に見えてるっつーの!」
ペコペコ土下座するカムラ。おれはため息をついて構えを解いた。
くるりと背を向ける。まったくあっけない……。
そのとき!
「ウソじゃボケェェェッ!!」
ごいん! 後頭部に痛烈なショックを受け、目に星が散った!
フラフラ振り返ると、棒きれを持ったカムラが、邪悪な得意顔で立っていた。
「一本! そこまでっ!」
「ま、待ってくださいッ! いまのは油断しただけで、おれはまだっ……」
コミネ「クリハラよ……カムラの性質や特技を知りながら、おまえは油断し、痛打を許したのだ……完璧におまえの負けだ……」
クリハラ「………………………………」
コミネさんの言うとおりだ……。
『Dランク・カムラ。アリバも弱く戦闘力は低い。が、そのしぶとさと相手を出し抜く智謀知略には侮れないものがある』
クリハラメモには、おれ自身がハッキリそう記した。なのに、まんまと侮ってしまうなんて……。
「……くそっ。つぎお願いします! カワハラ!」
「え? マジ? おれ? めんどくせー」
「お願いします!」
「あー。はいはい。お願いしますお願いします」
「クリハラ10番勝負。第二番。はじめ!」
開始の声とともにおれは鋭く前へダッシュ。
ランキングCのカワハラ……しかしそのスピードはSランク。おまけに氷属性最強クラスのアリバも備えている……。
いくら属性的に有利でも、油断しているとカムラみたいに足元をすくわれる!
まだまだ先は長いのに、下位ランカーでマゴマゴしてられないっ。
おれは眠たそうなカワハラの顔面めがけてストレートを放った。
「うおっ。あぶねっ。クリハラ、マジで殴ってきとーやん!? なに、スパーリングってこんなに本気でやると!?」
……おれの先制打をサラリとかわしてカワハラはわめく。
カワハラ「聞いてないしっ。痛いのとかマジかんべんやしっ!」
カワハラは猛スピードで境内を逃げ回り始めた。
クリハラ「…………シュッ! シュッ!」
必死のフットワークで追いすがるが、まったく追いつけない! な、なんてスピードだっ。
「はー。ダリー。10番勝負とかどうでもいいし、もう帰りてー」
カキンッ!
カワハラの寒いひと言で、氷の嵐がおれに襲いかかる!
「…………っ!!」
属性防御のおかげで致命打にはならなかったが、それでもかなりのダメージを食らった。カワハラのアリバがこんなに強力だったなんて……。
『Cランク・カワハラ。ヤル気がなく打たれ弱いが、その速度とアリバの力だけは凄まじい』
だが、そんな記述は、ただの机上の言葉に過ぎなかった……。
その後も逃げ回るカワハラをとらえられず、おれは一方的に氷の嵐を浴び続け……
「…………クッ」
ヒザをついた瞬間、コミネさんが勝敗を下した。
「一本! そこまで! 勝者カワハラ!」
悔しいが、今回も異論はない……。カワハラの動きにまったくついていけなかった以上、あとはゴリゴリ削られて終わりだっただろう。
くそっ。くそくそっ。下位と決めつけ、通過点くらいに思っていたカムラとカワハラにあっさり負けるなんて……。
「どうしたクリハラ! まだ始まったばかりだぞ!?」
「ハイッ!」
そうだ……。まだ始まったばかりなんだ。こんなところで落ち込んでいるヒマはない!
次はBランク。カスガさん。シンジロー。ヨシオさんの三人だ。
「つぎ! ヨシオさん。お願いします!」
「…………仲間を攻撃するなんてナンナンナンセンス。でもクリリンの修行のためなら、やぶさかではないですな」
Bランク・ヨシオさん……。世界に三人しか居ない電波使い。その三属性攻撃は強力無比だが、スピードの遅さと打たれ弱さがネック。
それゆえ、Bランク三人の中では一番下と評価した……。
だが、もう油断はしないっ!
開始早々、耐衝撃電波で守りを固めるか、おれの苦手な火炎電波を放ってくるかの二択だろう。
どっちであれ、一気に間合いを詰め、ラッシュをかければ、二三発は電波を食らったとしても、たたみ込める!
「10番勝負第三番。はじめっ」
開始と同時におれは一気に前へ出た。クリハラ・メモに記したとおり、ヨシオさん相手は果敢に攻めるのがベストだっ。
「そうら。氷雪電波ですな!」
!? 氷雪!?
予想に反してヨシオさんは火炎ではなく氷雪電波を放ってきた。風属性のおれには効果の薄い氷系電波?
だがすぐにその理由がわかった!
クリハラ「!?」
おれの足元が凍りつき、ツルツル滑ってしまう!
これではフットワークが使えないっ。
ヨシオさんの狙いは最初からおれの動きを封じることだったのだ。まさか電波にこんな使い方があったなんてっ。
「さあて火炎の嵐をお見舞いしてやりますなっ。情けは無用!」
そして動けないおれに火炎電波が襲いかかり、勝負はあっけなくついてしまった……。
「一本! そこまでっ。見事な勝利だったぞ、ヨシオよ!」
くううううううう。まさしくその通り。ヨシオさんの電波を攻撃にしか使えないと思い込んだおれの完敗だ……。
クリハラ・メモでちまちま仲間を分析した気になって、その応用にまで頭がいかなかった。
「クリハラよ。考え込む前に身体を動かせ! まだまだ戦いはこれからだぞっ」
「は、ハイ……!」
だが、おれはすっかり平静を失っていた。
福岡ファイター全員との戦いが決まったとき、おれはAランク以上の猛者との戦いしか想定していなかった。
カムラやカワハラを始め、勝手に下位と決めつけた仲間たちの、本当の強さを知りもしなかったのだ……。
「つぎはおれが行くっすよー! どうだクリハラ! おれと戦わないかっ」
シンジローの声でハッと現実に引き戻される。
「フム。逆指名だが、クリハラよどうする?」
「………………………………」
コミネさんの声におれはうなずいた。どうせ次はシンジローを指名する番だったのだ。
クリハラ・ランキングBのシンジロー……。
おれにとって、いちばんの友達であり、いちばんのライバル……。子供のころから、いろいろなことで張り合ってきた。
「……シンジロー。頼みがあるんだ。お前の全力をもって、この天才と戦ってくれないか……? へんな手加減とか手抜きはなしで頼む。おまえにだけは、おれは本気で負けたくないんだっ」
「ヨッシャアアアアア! もちろんだ、クリハラ! おまえが一皮むけるために必要だっていうんだったら、喜んでおれは全力を出すぞっ!」
「よしっ。10番勝負第四番。宿命の対決だな。開始だっ!」
「クリハラっ。おれのとっておきを見せてやるぞっ。おれは今っ! 猛烈にいいぃぃぃっ! 熱血してるううううううううぅぅぅぅぅ!!!!」
ボッカーーーーーーンンン!!
叫ぶやいなや、シンジローの身体を中心に、紅蓮の火柱が立ち上った。
「ばっ、ばっ、バーニング!? そんなっ。自分からバーニング状態を引き起こした!?」
「おっしゃあああああ!! まだまだっ。燃えろおおおおおおシンジローおおおおおおお!!!」
続けざまにシンジローが叫ぶ。
火炎の柱はさらに太く巨大に膨れ上がる!
「うそうそうそ!? しかもバーニングをさらに重ねた!? どうしてそんなことができるの、弟!!?」
ナミさんの声がひっくり返る。
な、な、なんなんだ、この、シンジローの圧倒的なアリバは!?
「驚いたか、クリハラ。これはバーニングっていう特別な状態なんだ。アリバのテンションが高まると自然発生するんだけど、おれは特異体質で、自分の好きなときにバーニングできるらしい。そんで、気持ちしだいで、アリバをどんどん大きくできるらしいんだっ!」
今やシンジローはまるで小型の太陽のように熱く燃えている。
おれにもわかる。この状態のシンジローは、信じられないほどアリバが高まっていて、それはたぶん、コミネさんやヤギハラよりも……。
「だけど、クリハラ! おれもここまでバーニングできたのは初めてだっ。それはきっと、相手がおまえだから」
「む、ムホ……?」
シンジロ「おまえとおれはライバルっ。おれはおまえにだけは負けたくないっ。だから、おれにできる完全燃焼で、おまえにぶつかるぞっ」
クリハラ「………………………………」
……そうだ。おれだってシンジローには負けたくないっ。
そもそも、東和高校の乱のとき、おれがアリバに目覚めたのは、シンジローに負けたくないって思ったから……。
「いくぞクリハラぁぁぁ!! バーニング……シンジローオオオオォォォォ!!!」
叫びとともに、巨大な火の玉と化したシンジローが突っ込んできた。
おれはそれをまともに食らい、ぶっ飛ばされた。
「一本! 勝者シンジロー!」
結果は見事な一発KOだった。
クリハラ「………………………………」
プスプスと煙を立てながら、おれは境内の地面に転がった。
「クリハラ。ありがとなっ。おれも、おかげでもっとアリバを高めることができたぞっ。のこりの勝負もガンバレ! 応援してるからなっ」
シンジローがおれに手を貸しながら爽やかに言った。
「つ、つぎ……カスガさん……お願いします……」
「ハーイ」
カスガさん……おれの見立てでは、クリハラ・ランキングBランク。でも潜在能力はおそらく最強レベル……。
「クリハラー。この10番勝負って、仲間のためだよねー?」
「ハイ」
カスガ「本気でやったほうが、クリハラのためになるんだよねー?」
クリハラ「は、ハイ……」
カスガ「よーし。じゃあ、本気だそうかなー」
カスガさんがニコニコしながら言った瞬間、ぞくりと、おれの本能が危険を感じ、寒気が走った。
「クリハラ10番勝負第五番! はじめっ」
開始の合図。おれは慎重に出方を待った。ニコニコ笑うカスガさんから、おそろしいほどの威圧感を感じて動けなかったと言っていい。
「!?」
とつぜん顔が横殴りされた。カシャッと目玉が左右に揺れる!
カスガさんの張り手で横っ面を叩かれたのだ。その動きは瞬間移動のようだった。
慌てて亀のようにガードを固めるが、その上からハンマーみたいな一撃が重ねられ、おれは大きく体勢を崩した。
が、ガードがきかないっ。
シュッ! シュッ!
やぶれかぶれにジャブを連打。
だが、カスガさんがどこに居るかすらよくわからなかった。その間にも、四方八方から、灼熱の張り手が、おれの全身いたるところに降り注ぐ……!
い、一方的だ……こんなの、属性なんて関係ない……。
「レフリーストップだ! 勝者カスガ!」
コミネさんの声で、全身に雨あられのように降り注いでいた重撃がピタリと止まった。
おれはその途端グラリとヒザから崩れ落ちた……。
「クリハラー大丈夫かー」
カスガさんが心配そうにおれを見ていた。
ま、まるで赤子扱いだ。本気のカスガさんがどのくらい強いか、その上限を測ることすらできなかった……。
これが、クリハラ10番勝負……。
これが……福岡ファイターたちの強さ……。
しかも、まだまだ半分。五人も残っているのだ……。