ライトノベルの長所と短所
若い頃に『ロードス島戦記』やソード・ワールド短編集を読んで、それをきっかけに様々な海外の翻訳のファンタジーにも触れた。
少なくとも私にとっては、『ロードス島戦記』やソード・ワールド短編集は、世界を広げてくれたいわば『恩人』である。出版社のカドカワや富士見書房もだ。
過去の記事で、同じく角川のスニーカー文庫から出版されていた『ラグナロク』と『ダンタリアンの書架』について書いた。
これらはライトノベルの中でも、特に私にとって印象深く、私自身の創作のためのインプットとしても、大いに実になるものだった。
しかし何事にも長所と短所がある。
ライトノベルは文字通り『軽い小説』で、それは単に文体や読み味を軽くして、小説を読み慣れない人にも読みやすくしただけではなく、その時々の流行を大いに取り入れて出版される物が多い。
それはノベル本体だけでなく、表紙や中のイラストにも同じ事が言える。
ただ、厳密に言えば、キャラクターイラストで惹きつけるのは、昔からライトノベルだけではなかった。
私の記憶が正しければ、80年代終わりから90年代初め頃に見た、ハヤカワのSFやファンタジーの文庫でも、萩尾望都などの有名な漫画家に、登場人物の表紙イラストを美しく、あるいはかっこよく描かせていた。
ライトノベルは、より当時の若者あるいは少年少女に受けやすいイラストで装丁したのが違いと言える。
その時々の流行や世相を反映するのは一般文芸と呼ばれる大人向けの小説も同じだが、ライトノベルはよりその傾向を強めた物だと言えるだろう。
中身だけでなく装丁もだ。
そうなると、どうなるか?
小説を長期的に売ってゆくより、その時々の一過性の流行に合わせて、早く人気に火が付く物が優先して出版される傾向にあると言うことだ。
早く火が付く物は、傾向としては、すぐに売れなくなる物でもある。
ベストセラーかつ長期にわたって売れ続けるロングセラーもあるが、そうした物は往々にして人気が出るまでに時間が掛かる。
ロングスパンで見れば大きく売れてゆくであろう物でも、即効で火が付きにくければ売り出されなくなる。
特に現在は、漫画の電子書籍版は売り上げが伸びているが、小説は不振が続いているらしい。
出版社としては余計に、早く売り上げが上がる物を欲しがるわけである。
そこで現在の、ウェブ小説投稿サイトからの拾い上げだ。様々なジャンルが出版されているとは言え、やはりメインとなるのはライトノベルである。
それも私が知る限り、従来型の文庫版の(公募系の、と言ったほうが分かりやすいだろうか)ライトノベルよりもさらに文体も内容も軽量化され、一過性の流行に合わせた物だ。
ただ、それはあくまでも傾向の話で、中にはしっかりと書かれた物もあるようだ。そうした作品の中には、あまりウェブ小説投稿サイトまで積極的に読みに来ないような一般層にまで届くヒット作となった物もある。
そうした例外的なヒット作もあるが、多くはウェブ小説投稿サイトで人気が出た物を出版して、出してみてから売れれば重版や続刊、売れなければそのまま打ち切りとなっている。
すでに投稿サイトである程度の人気が出た物なので、出版してもそれなりの売り上げが見込めると考えられているわけだが、無料で読める物と売れる物が必ずしもイコールではない。
出版社も実際に本にして出してみなければ分からないと考えているらしく、現状は同じように軽量級のライトノベルが、いわゆるなろうテンプレを使った物を中心に次々と出版されている。
そして売れなければ打ち切り。
言うまでもなく、この現状をすべての人が快く思うわけではない。
快く思わない理由は、人それぞれであるが。
当のウェブ小説の流行作家たちも、苦戦している人が多いというか、書籍化つまり商業出版の栄誉を得ても、その後の経過はなかなかに厳しいようである。
聞くところによれば、商業出版の実績がある作家でも、書けば必ずウェブ小説として人気が出るとは限らないようだ。一部では、打率2割とする声もある。
要するに、出版社の側は作家と投稿サイトに丸投げで、作家を大切にする気がなさそうに見えるのだ。
少なくとも、そう受け取る人がそれなりにいる。
今はウェブ発のライトノベルは、コミカライズして漫画として売るのが当たり前になっている。言葉を変えれば、ライトノベルよりも漫画を読む層に向けられている。
つまりウェブ小説主流の「本を読み慣れていない人にも読みやすくしたライトノベル」は、逆にそれが仇となって、小説というかライトノベルならではの読み味も失くし、漫画に勝てない現状となったという見方もできる。
ウェブ小説の流行には左右されない電撃文庫から出ている物には、コミカライズされずともライトノベルとして巻を重ねている物もあるが。
さらに補足すると、過去記事にも書いたが、海外Amazonで人気のファンタジー小説を見る限り、やはりライトノベルでは厳しいのではないか、もっと骨太で、国内で一般文芸レーベルで出せるような物こそが海外で売れるし、通用するのではないかとも思った。
それはきっと日本の文化への敬意を勝ち取る事にもつながるだろう。
まだアメリカ、イギリス、フランス、スペインのAmazonしか見ていないが。
ただ、どの国でも日本の漫画は強い。国内で売れた漫画なら、海外でも通用する。そして日本の漫画はすでに高い評価を得ている。
ウェブ小説投稿サイト発の、一握りのヒット作も、特にコミカライズ版なら、海外でも売れたはずである。
それもまた事実である。
さて、これはあくまでも一つの見方である。絶対にこれが正しいものの見方だと主張するつもりはない。
ただ、個人的には、今のウェブ小説投稿サイトへの投下で、書籍化つまり商業出版を目指す気にはなれない。
最後に、それだけを言っておきたい。
ここまで読んでくださってありがとうございました。また次回の記事もよろしくお願いします。