『アイスウィンドサーガ2巻 ドラゴンの宝』感想
前回の記事はこちらです。
今回は『アイスウィンドサーガ』2巻目の感想をお送りしたいと思います。ちなみに、ヘッダーの絵は、AIでのイラスト生成が上手くいかなかったので、カッとなって自分で描いたアイスドラゴンです。
バトルシーンが迫真の描写力で、刃が肉を切り裂く感触や、血の匂いが感じられるほどのリアリティ、生々しさがあります。
主人公ドリッズトの戦いぶりも、邪悪なモンスターが相手だと容赦ない感じで、先に目を狙って視覚を奪う、味方を殺された報復でなぶり殺しにする、など割とえげつなさがあったりします。
でもそれで嫌悪が生じないように上手く描かれているのですね。前ふりとして、悪役サイドのどうしようもない邪悪ぶりが描かれ、味方が殺されるシーンも見てきたような臨場感があります。
1巻では、愚かな人間のために何故ここまでしてあげるの? なんて思うくらい(そう、このファンタジーの中で、人間という種族は愚かに描かれています。これについては後述)ドリッズトは完璧なヒーローで、まあちょっと良いやつ過ぎると思えるほどですが、2巻では一転、良いやつなだけではない面を見せてくれます。
戦いのスリルや、敵が隠し持っている宝を見つけるスリルに勝てなかったり、(見つけるのが好きなので所有欲はほとんど無い)人間味のある一面も見せてくれるのです、ダークエルフだけど。
一面的ではない、多面的なキャラクター造形のおかげで、D&Dでもトップクラスの人気キャラになったのですね。で、そのキャラクターが、そのキャラクターらしく動くことで、面白い、先が気になるストーリーが展開するのです。
余談ですが、Twitterの方で『キャラクター重視にするか、ストーリー重視にするか』の二択の創作論を聞いてよく分からなかったのですよね。
今では、「初心者にはどちらもそれなりの水準にするのは難しいので、最初はどちらかを重点的にやるのが良い」くらいに考えています。ひょっとしたら違うのかも知れませんが。
で、この世界における人間(特に、街に住んでいる人間)は、資源となるゲンコツマス(湖にいる魚)の奪い合いで四六時中争い、時にはそれで死人を出し、敵が攻めてくるのにも対処できずお互い同士でいがみ合っています。
そのあたりは、特に人間を愚かに描いてみたと言うよりも「ああ、現実でも人間には確かに、そんな愚かな面があるな」と思わせてくれるのです。おそらくは、普段から現実の人間を観察しているからだと思っています。
この巻では、ドリッズトの戦いの技の弟子となったバーバリアン(旧版の富士見文庫版では、蛮族と訳されていた。街に定住せず、平原を移動して暮らしている人間)のウルフガーが、自分の故郷に帰り、戦いをやめさせようとするシーンもあります。
わずか2週間ほどの訓練でめちゃくちゃ強い戦士になるので、「他の種族に比べて寿命が短い人間の成長は速いなあ」と思わせてくれます。それにしても速すぎですが。
ドリッズトとウルフガー、それにドワーフのブルーノたちのセリフの掛け合いが、またセンスがあって良いのですね。
ドリッズトがちょっと相手をからかうようなセリフを言うのが多いです。後の二人が、何言ってるんだみたいな反応をする。
ハリウッド映画でもこうした会話はよく出てきます。アメリカ人は、こうしたセリフ回しが好きなのでしょうね。
AD&D(アドバンス・ダンジョンズ&ドラゴンズ)ではバトルのルールがD&Dよりも複雑で、そのあたりを小説内で再現しているのかなとも思いました。バトルシーンの、動きの書き方が細かいのですよね。そこがまたリアリティを出しています。
今はアドバンスはなくなり、より簡易なルールのダンジョンズ&ドラゴンズだけになったようですが。
世界設定の膨大さはダンジョンズ〜も変わらないので、アドバンスがあった当時のゲームマスター(テーブルトークRPGにおいてゲームを管理する人)はよく気が狂わなかったなと思いました。
サルバトーレは『アイスウィンドサーガ』を書いた優れたファンタジー作家ですが、作り込まれた背景世界とそこからくるリアリティあふれ重厚な、それでいて自由度の高さを感じさせるダンジョンズ&ドラゴンズの世界観を土台に出来たのは、とても幸運だったのではないかと思いました。
やはりちゃんと世界観が出来ていると、キャラクターもストーリーも抜群に映えますね。
そんな感想を持ちました。
ここまで読んでくださってありがとうございました。