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【小説】ゆっくりめの導入を書くのに挑戦

 前回の記事で取り上げた『カーミラ』のような作風に、今回は少しだけチャレンジしてみようと思う。

 手短に言うと、序盤からずっと展開はゆっくりで、詳細な設定や情景描写が描かれる。そんな作風である。

 『カーミラ』のように本筋に入るまで時間が掛かるものは、今は比較的少ないかも知れない。

 しかし本筋に入ってからも、ゆっくりめの展開で、心理描写や情景描写、設定の描写などを丁寧にやる作風なら割と多いと思う。

 そんなゆっくりめの導入を書くのに、今回は挑戦しようというわけである。

 具体的に例を挙げると、こうだ。

 ハイファンタジーで、ある村で取れる重要な薬草が、だんだん取れなくなってゆく。それでどうするのか? 

 といった物語を、展開速めのと、遅めのもの、二通りの導入部分だけを書こうと思う。

 遅めのほうは、本来私があまりインプットもせずにいた。不得意なほうであるが、何とかやってみようと思う。

 まずは速めのほうから。

 この村からアムリマの薬草が消えてゆく。それを知ったのはつい三日前のことで、しかも今はまた一つの薬草畑が枯れ果ててしまっていた。

 何とかしなければならないが、原因も分からず、手の打ちようもない。

 薬草畑は村の周辺に四つある。そのうちの三つの薬草が、すでに全滅している。残る一つも徐々に、その特有の宝石のような透明感のある色合いを失いつつあった。

 そう、宝石──赤と緑の混じり合う透明な草。それがアムリマの薬草である。

 一つの原因として、水が考えられた。そこでリズは、一人で近くの川に向かうことにした。川から畑へと水を引いていたからだ。

 と、これが展開速めのパターンである。

 次に、遅めのほうを何とかやってみよう。これは平素、私が書いているタイプの小説とは異なる。
 速めに本筋に入りはするが、そこからの展開は遅めのタイプ、としておく。

 アムリマの薬草が、この村から徐々に消えていく。村の周辺にある四つの畑のうち、残る一つ以外はみんな枯れてしまった。 

 リズはこの村で生まれ、生きてきた。十と五年の歳を過ごした。村の外に出たことはない。薬草は、三分の一はこの村で使われ、あとの三分の二は、村の外から来る行商人に売る。

 リズの目は赤い。宝石のような透明感のある緑の草であるアムリマには、赤い実がなる。同じ色をしている。これもまた宝石のような赤だ。

 彼女は薬草畑の世話をする役目を担ってきた。十歳の頃からだ。宝石のような見た目にも関わらず、アムリマは柔らかく良い香りがする。リズにとってこの仕事は、繊細に気を遣うが、自分に誇りを与えてくれるものでもあった。

 と、こんな感じでしょうか? これでも速いかな?

 古典的な名作に例を取ると『カーミラ』タイプは、展開遅め、情報量多めになる。一度に出る情報量が、だ。

 話を速めに進めながら徐々に情報を出すのではなく、じっくり描写したり情報を出したりして、ゆっくりと、時には立ち止まりながら、話が進んでゆくタイプである。

 で、たまに、この展開遅め・一度に出る情報量多めのタイプこそが小説らしい、特に一般文芸らしい小説だと思う向きもおられるようである。

 で、展開速め・一度に出る情報量は少なめのは、ライトノベル的だと思う方もいるようだ。

 でもそれは少し違うと思っている。また『砂男』からの引用になるが、古典的な名作でも、このような文章である。

こう言われてナターナエルは、詩を朗読して聴かせるつもりでポケットに入れておいたことを思い出した。そこですぐ原稿をとりだして、読みはじめた。

クララは、どうせいつものように退屈なものだろうと覚悟をきめて、おとなしく編み物をはじめた。

しかし陰鬱な雲がしだいにくろぐろと空を覆いはじめるところまでくると、彼女は靴下を編む手をおろし、ナターナエルの目をまじまじと見た。

 主人公ナターナエルと恋人のクララとの関係に、少しずつ暗雲が立ち込め始めるシーンである。

 テンポよく、情報量少なめの簡潔な表現で進む。

 次に『カーミラ』から。

そこには、わたくしたちが今まで歩いてきた草原が広がっておりました。左手を見ますと、細い道が堂々たる樹々の下をうねうねと伸びていき、やがて木深い森の奥に消えていきます。

右手には、その同じ道があの風情あるたたずまいの反り橋を渡って続いており、橋のたもとには、かつてこの往来を見張っておりました物見の塔の跡が残っております。

橋の向こう側では地面が急に盛り上がって木々に覆われた丘になっておりまして、幹の合間の薄闇に、蔦のからまる岩がところどころに覗いております。

と、これは、女性主人公が会うのを楽しみにしていた令嬢が、急に亡くなったとの悲報を受けた後、父親と二人で歩いている場面の情景描写である。

 このように、直接ストーリー展開に関与しない、いわば寄り道的な描写も多いのが、この『カーミラ』の特徴である。

 私の好みや、これまでのインプットの偏りのために、『カーミラ』タイプの小説を読んだり書くのは私には難しい。

 今回は、導入部分だけを何とか書いてみた。

 後の判断は各自にお任せしたい。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。また次回の記事もよろしくお願いします。

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片桐 秋
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