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英雄の魔剣 プロローグ

 真の英雄は、あらかじめ条件をつけずに敢然と前へ進む。

          ヴァーノン・ハワード


 それは広大な大地であった。
 かすかに表面が湾曲した広大な広大な地。
 その上で暮らす人々の多くは、大地はどこまでも平らであると信じる。
 ところどころには、なだらかな丘、それらが連なる丘陵地帯もある。深い深い、神秘的な森もある。
 大地は平らである。ごく一部を除いては。

 その平らかな大地を、人の造った街道が走る。《法の国》と呼ばれた、大帝國時代の遺産である。《法の国》、それは今に至るまでも、様々な恩恵と影響を残し続けている、今は滅びた国である。

 現代に受け継がれたその街道は、実に立派な造りだ。表面には長方形の敷石が隙間なく敷き詰められ、その下には砂利石と、石灰と火山灰と水とを混ぜて作られたコンクリートが三層にも積み重ねられている。そのように表面からは見えないところまでも、細心をもって形成されていた。

 今に至るまでそれは残り続けてきた。偉大な帝国の姿を伝えているのである。

 その《法の街道》沿いに、今も都市が造られていた。帝国が崩壊し、いくつかの国々に分かれても、その国堺(くにざかい)を越えて都市をつなぐのは街道である。
 人の少ない集落も、多くは街道沿いか、さしてそこから離れてはおらぬ場所に出来た。

 立派な井戸と、都市に残された上下水道も、その時代の遺産である。今でも人々はその恩恵に与っている。

 この世界は平穏ではない。帝国が滅んでからは特に。
 世界の傷跡から生まれた膿(うみ)の如くに、地底深くの《奈落》または《魔界》と呼ばれる場所から奴らは来た。
 《魔物》と呼ばれるモノたちが。

 《魔物》は《法の国》亡き後には、人間より強くなり人間を蹂躙するようになった。
 そればかりでなく、一部では善悪のあり方も変えたのである。
 
 悪いのは人間である。善きものは魔物である、と。 
 人間は魔物を虐げた悪であり、魔物は虐げられし善なる存在とされた。
 そのような物語がたくさん書かれ、また描かれた。 

 だが、ここに書かれた事こそが真実である。

 人間は悪ではない。単純にそうとだけ言えるものでない。

 それを記すために、この物語は書かれた。

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