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【ヒロイックファンタジー短編】父殺しの聖剣 第6話(最終話)【自作テンプレート使用】


 サジタリスは育ての父であったダウロスの領地に戻った。そう、サジタリスは今でも、ダウロスを父だと思っている。アグリアスから与えられた聖剣で養父を殺した重みは、一生の間逃げないで背負い続けていく決意であった。

「サジタリス様」

 付いてきてくれたバルゴニサ姫が、ダウロスを手厚く葬った墓の前に立つサジタリスに、背後から声を掛けた。若者は振り返る。姫は、両手いっぱいに白い百合の花を抱えていた。

「どうかこれを。死者への餞(はなむけ)です」

「ありがとうございます、バルゴニサ姫」

 姫の背中には、青い翼があった。アグリアスの技で復活させたのである。切り落とされた翼が、まだ残されていたからだ。そうでなければ、前と同じように飛べるようにはならなかったであろう。

「美しい翼です。しかし姉君は」

 バルゴニサ姫は首を横に振った。

「残念ながら」

「貴女は私たちを恨まないのですか?」

「サジタリス様を恨むなどと。助けていただいたのはこちらです。ダウロス殿は、すでに罪を償われました」

 サジタリスは姫の白い、今は血色の良くなった顔を見つめた。その想いを全て推し量るのは不可能であった。

「父に代わって、貴女と姉君に謝罪します。謝って済むことでないのは分かっています」

 サジタリスは深々と頭を下げた。通常、同じくらいの身分の者には、相手が貴婦人であってもそこまではしないものだ。

「どうか、頭をお上げになってください。貴方のせいではありませんから」

「いいえ、私は、もっと早くに父を止めればよかったのです。何でも言いなりになっていた私にも、父をあのようにした理由はあるのです。それは決して、決して、孝心などではなかった。ただの、保身に過ぎなかったのです」

 バルゴニサ姫は淡く微笑んだ。そのまま墓前に進み出て、百合の花を供(そな)えた。

「それはもう済んだことです。貴方はこれからどうなさるおつもりですか?」

「この領地を新しいやり方で治めます。きっと困難もあるでしょうが、必ずやり遂げます」

「それは素晴らしいご決意ですね」

 二人の背後には、ダウロスが残した城が見える。ダークグレイの城にも、今は陽光が降り注ぎ、明るく照らされていた。

「バルゴニサ姫、どうか私を助けてはいただけませんか。厚かましいお願いなのは承知しております。アグリアス殿の姪の貴女なら、きっと私を生涯に渡って、助けていただけると確信しています」

「私の父と母にも会ってください。叔父と私には、否はありませんから」

 サジタリスは再び頭を下げた。今度は謝罪のための最敬礼ではない。浅く敬意のために下げた。バルゴニサ姫もまた、スカートを両手で持ち上げ、膝を曲げて腰を屈(かが)めた。

 季節は春であった。春の風と日の光が、二人を祝福するように優しく包んでいた。

「ありがとうございます、バルゴニサ姫」

 若者は礼を言った。心からの言葉であり、彼自身の判断と決心であった。


終わり

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