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【ダークファンタジー小説】ウィルトンズサーガ『古王国の遺産〜受け継がれるレガシー』 第15話
マガジンにまとめました。
夜の闇深い林の中に、一人の男の声が響く。毅然として、後に引かず、強い意志を感じさせた。
「俺はアントニーを殺せ……滅ぼせないし、お前らに滅ぼさせもしない」
「ほう、村がどうなってもいいのか?」
「村にも戦士がいる。持ちこたえるさ」
オリリエ、他の皆も、頼んだぞ。
「駄目です」
「大丈夫だ。村は持ちこたえる。俺たちは変わったんだ。貴族たちにだけ、全てを任せていた時代とは今は違う。だからこそ荒事師なんて職も生まれたんだ。オリリエも……デネブルには敵わなかっただけだ。何もかもが、古王国時代とは違うんだ。分かってくれ、アントニー。もう何もかもお前一人で背負うことはないんだよ」
「古王国在りし日にも、私一人で背負ってきたわけではありませんが、あなたが言う意味は分かります」
アントニーは微笑みながら答えた。ここでカルディスをはっきりと見つめて言う。
「私にはまだやることがある。ここで滅ぼされるわけにはいかない」
「はは、潔くは死ねぬか」
敵は挑発的な嗤(わら)いを浮かべる。寛容の色はない。
「何とでも言えばいい。言い訳は出来ないし、するつもりもない」
「アントニー。償いをするのなら、これから多くの人々を助ければいい。ここでコイツラのためにお前が消滅しても、誰も喜ばない。俺がお前を滅しても何にもならない」
「ありがとう。きっとあなたの言う通りです」
カルディスが体勢を整える前に、ウィルトンは槍から光の刃を放ち、同時に後退した。ここで素直に十二体と切り結ぶ気はない。有利な戦い方をしなければ、と考えた。
アントニーも意図を察してくれた。共に下がりながら叫ぶ。
「後ろへ!」
前衛の三人も従ってくれた。背中をカルディスたちには見せぬまま、後ろ向きとは思えぬほどの速さで後退する。
べナリスもだ。対話する能力に難のある奴とは思うが、こうした点では確かな腕はある。ウィルトンはそう判断した。
ミラージは即座に、敵がこちらに迫って来ぬうちに《炎の嵐》を巻き起こす。爆炎は渦を巻いて襲いかかり、そしてあっさりと消えた。
「利かぬ。利かぬな」
カルディスは静かに、首を横に振る。歩みを止めも速めもせず、ゆうったりと近づいてきた。
ウィルトンは光の刃を放ち続ける。こくごとくが敵に届く前に消える。
「利かぬ。効かぬよ」
カルディスは歩み続ける。後ろに扇状に並ぶ十一体も歩み続ける。カルディスがいる位置を扇の要(かなめ)、留め金のある位置として、その背後に広がる扇のように並んでいる。
「何故だ。デネブルにさえも、全く利かなかったはずはないのに」
ウィルトンの問いに、
「おそらくは、これでなくては駄目なのでしょう」
盟友はロープの中の隠し袋から、宿り木の香木の杭を取り出した。細く短いが、心臓を突くのには充分だ。
「それとあなたの槍です。直接に刺さなくてはなりません」
「直接に、か。よし」
ウィルトンは愛用の槍をかまえて突進した。
「私たちはどうすれば?」
そう尋ねてきた前衛の三人の長アラニスに、
「黙って見ていてくれ」
とだけ。
道を開けて立つ三人の脇をすり抜けて、盟友二人は前に進み出た。それぞれの武器をかまえながら。
アントニーが一足飛びに距離を詰め、先祖の骨で作られた白い杖から稲妻を放つ。稲妻の光と電撃は真正面に流れてカルディスへ向かう。
「利かぬと言った」
あっさりと消し去った。
それは目くらましであった。ウィルトンは側面に周り、カルディスの斜め後ろに立つ不死者の胸に槍を突き立てた。
「まずは一体だ」
ウィルトンは槍を引いて下がる。
そこに二体の不死者が迫ってきた。ウィルトンは後退して躱(かわ)す。
背後に木があった。背中に当たる。これ以上は下がれない。横合いからもう一体、全部で三体が同時に迫ってきた。
デネブルを倒した時には、敵は一体だけだった。確かにこの上なく強かったが、二人で一体の敵だけに集中出来た。
今は違う。
と、その時。アラニスたちがウィルトンが回り込んだ側面とは反対側の側面に来た。無謀にも剣で斬りかかる。ミラージは二人の後ろから魔術で応戦していた。
「馬鹿、下がれ! こいつらには利かない!」
しかしアントニーは彼らの意図を察した。不死者どもがアラニスたち三人に気を取られているうちに、自分も側面に周り込んだ。
カルディスはウィルトンの方を向いていた。その隙を突いたのだ。
前衛をしてくれていた三人を襲おうとする不死者の背後に立ち、宿り木の香木の杭を振るう。
杭は一体を滅した。
次に二体目。
そして三体目。
そこで杭はぼろぼろになり、不死者と共に崩れ去る。アントニーは、二本目の杭を取り出した。
取り出しながら素早くカルディスに向き直る。
カルディスもまた、杭を手にしていた。
ウィルトンと自分とで、六体を滅した。残るも六体、カルディスを含めてだ。
続く
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