『高尚』なテーマはエンタメ文脈に乗せろ(命令形)

TwitterXで話題になっていることがある。ある文学賞の下読みの方が「中年の平凡なサラリーマンが、若者(若い女性?)に慕われる話はもううんざりです」たしかそんな意味合いの事を言ったらしい。

これは様々な解釈のできる発言であるが、要するに「願望丸出しの話を書くな、もっと受け入れられやすいように綺麗事で体裁を整えろ」という意味だと受けとめた人も多いようだ。

綺麗事でなければ、センスという言葉も使われている。欲望丸出しだと「うえっ!」となるから、読みやすいように、センスよく書いてくれ、こんな解釈となる。

一方では、体裁を整えた文学などではなく、欲望丸出しの小説があるから良いんだ、とする見解もある。

で、私が今回言いたいのは、丸出しにしてはいけないのは欲望だけではなく、むしろ綺麗事の部分、もっと言えば、いわゆる『高尚』とされるようなテーマもではないか? といった話である。

欲望丸出しの反対で、仮にそのおっさんは、全くの無私無欲の思いで、若い女性を助けるとする。何の見返りも求めずに。

一見美しい話のように思える。でも、誰もが読みたいと思えるだろうか? 

ちなみにそのおっさんは、別にカッコよくもなければ、特に何の能力に秀でているわけでもない、とする。金持ちでも、何らかの名誉ある立場でも何でもない。

でも、心は綺麗で無欲なんです、と。

さて、この物語は人気が出るだろうか?

書き方次第で、全く人気が出ないとまでは言わないほうが、まあ広くは受け入れられない可能性が高い。

前回の記事で、特定の市場に受け入れられても、別な市場では受け入れられない場合も多いよと言っておいて何だが、そもそも特定の市場に受け入れられる前に、不発で終わるのも、まあもったいない気はするのである。

そこでエンタメ文脈に乗せるのである。

妻と娘とは別れ、平凡な生活をしていたバツイチサラリーマンのおっさんは、ある日事件に巻き込まれ、ひょんなことから若い美女を助けてしまう。

てな感じで始める。

巻き込まれたのなら仕方ないな、まあ美人なら助けるよな、と思わせておいて。

中盤くらいに「でも、よくよく考えると、なんでこのおっさん、こんなに必死にこの女のこと助けてんだろうな。この女けっこう生意気だし、美人ったって、とびきりのすごい美人ってほどでもないしな」と思わせる。

これは隠しテーマである。はっきりとは示さないし、ぶっちゃけ気が付かない読者がいてもかまわない。

むしろ一定数は気が付かないままのほうが良いかも知れない。それだけ、押し付けがましさがなく、上手く隠せているということだからだ。

人は欲望丸出しも嫌がるが、過度な綺麗事も嫌がる。

例外はあるだろうが、傾向としてはそうだと思う。

ただ、これだと結局、一定の幅の受け入れられやすい物語ばかりが世間に出回るということにもなる。

だから個人的には、欲望全開のフィクションも、綺麗事のフィクションも、どちらもあっていいと思っているのである。

命令形でタイトルを書いたが、結論はこうである。

それでは、今回はここまで。

読んでくださってありがとうございました。また次回の記事もよろしくお願いします。

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片桐 秋
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