異世界転生テンプレでも分かりやすくはならない
異世界転生の時代はとうに過ぎ去ったとする声もありますが、私は執念深くこの話をしようと思います。
異世界転生テンプレでなぜ分かりやすくなるかと言えば、現代日本人の視点と知識で異世界を語れるからだと言われます。
「読者と近い感覚や知識の主人公が、転生あるいは転移してきた異世界について語れば、最初からその異世界の住人である主人公が語るより、親近感も湧くし、分かりやすい説明・描写になる」と、こうですね。
でも果たして本当にそうなのでしょうか?
ある人がTwitterXで「異世界転生で、昭和の時代の石組みのアーチと書けば誰にでも分かりますよね」とリプライしているのを見ました。
これ、本当に誰にでも分かるでしょうか?
令和ももう6年目に入りました。平成だけで30年間を超えています。
私はかろうじて、昭和の時代の石組みのアーチなる物が、確かに昭和の終わり頃にすでにあったのを記憶しています。
でも、平成生まれの若者に、平成初期の建造物と昭和の後期の建造物の違いって分かるんでしょうか?
実を言えば私も、けっこうあやしいです。
私の頭に浮かんだ『昭和の時代の石組みのアーチ』は、果たしてあの人が言っていた『昭和の時代の石組みのアーチ』と本当に同じものなのだろうか? と思うのです。
他にも同じような問題はあります。
書き手が宝石のルビーを知っていて、読み手と同じような知識レベルを想定している場合、そのまま「エリナはルビーの指輪をはめていた」というように書きます。
しかしある書籍化作家が言うには「今の若者は宝石についてあまり知ろうとしないし、自分から遠い物だと思っていて、親近感がない(大意)」らしいです。
本当に今の若者の全てがそうであるとは私には思えないですが、異世界転生テンプレの小説をことさらに好んで読むような若者はきっとそうなのでしょう。
するとルビーを知っている現代日本人の知識で「ルビーの指輪」と説明するのでは駄目です。
主人公たる現代日本人、元現代日本人と言うべきかな、その主人公が現代日本にもあるルビーを知らないとして、異世界人が一からルビーについて説明する事になります。
あるいは、ルビーに似ているが違う赤い宝石が異世界にあるとか、そんな設定になりますかね。
要するに、対象読者の知識レベルに合わせないと、単に異世界転生にしただけでは「対象読者にとっては」分かりやすい物にはならないわけですね。
いや、ルビーくらい知ってるよって人もいますが、対象読者にとって分かりにくければ意味はないので。
アドバイスとしては、単に「異世界転生にすれば良い」ではなくて、「異世界転生テンプレにした上で、主人公の知識レベルを対象読者に合わせる」と言ったほうが、それこそ分かりやすいですよね。
おそらくは、なろう系書籍化作家であったアドバイザーが想定していたのは、ウェブ小説の多数派の読者なのでしょう。
別のなろう系書籍化作家が言った「今の若者は宝石についてあまり知ろうとしない(大意)」、そんな読者に合わせろという話だと思います。
さて、こうなると主人公像がかなり変わってきてしまうのですね。
もう全く別人というくらいに。
だから異世界転生テンプレは使いたくないし、やるなら全く別の物語になってしまうわけです。
他にも異世界転生テンプレを使いたくない理由はありますが、それはまた後日。
ここまで読んでくださってありがとうございました。また次回の記事もよろしくお願いします。