「名前のない星」戯曲賞第一次選考を終えて
先日「名前のない星」戯曲賞の第一次選考を終えました。
僕は選考委員をしております。第一次の選考委員は全員で7名で行いました。
全員が全員全作品を読めたわけではありません。作品を振り分けて選考を行いました。
僕は全89作品中41作品を読み評価いたしました。
この投稿では第一次選考を行うなかで気づいたこと、思ったことを書き残そうと思います。
・選考基準について
第一次選考に於いて僕は作品が「他薦したいか否か」を分岐点にして評価した。他薦したい作品とは力のある作品だと僕は思う。力のある作品とは何か。ソレは説得力があるか否かだと僕は規定した。純粋にこの戯曲が大好きだからひとに勧めたい。よくわからないけれど何か凄みがあったからお勧めしたい。技量的には物足りないけれどココが良いから凄いよって伝えたい。主義主張テーマに共感はしないけれど伝えようとする意思に惹き込まれたから作品を支持したい。コレが僕にとって説得力のある作品だと思う。
そもそも作品を完成させている時点で素晴らしい。そして完成へ向かうほど書きたいことがあるという事が素晴らしい。だから、大前提として送られてきたひとつひとつの作品のひとつひとつに光輝く部分があると僕は考えている。
そのうえで、沢山の作品が並ぶなかで敢えてと一つ一つ比べるとなると僕は「他薦したいか否か」を基準として選考いたしました。
今回の戯曲賞は若手による若手のための「権威なき」戯曲賞だ。選考委員の一人である僕は「権威がある」とは決して言えない実績のもと選考委員を務めている。その僕に素晴らしいひとつひとつの作品のなかで敢えてと作品を選ぶのであれば、他の作品と比較した時に「ここは」と選考委員として言語化可能な力がその作品に欲しかった。
全部素晴らしいけれど、それでもひとつに選ばられるのが「戯曲賞」だと思う。
そして幾ら綺麗事を唱えても受賞者と落選者が分かれるのが「賞」である。
受賞したら嬉しい。落選したら悔しい。
その気持ちを知りながらも、選考するのが「選考委員」。
僕と違う選考委員が僕の立場にいたならばもしかしたら別の作品に評価が集まったかもしれない。
その「可能性」を切り捨てるのも「選考」なのだ。
作品が売れるか否かとして、実力だけではなく運もときに重要だと伺います。
それでもと。ソレすら乗り越えるほどの。
圧倒的な説得力。
誰が読んでもと推すぐらいの力のある作品が。
僕は受賞へ進んでいくのだと思っている。
・必ずしも「上演台本」に軍配があがるわけではない
選考を進めるなかで興味深いなと個人的に感じた事は今回の戯曲賞に於いては必ずしも「上演台本」に軍配があがるわけではないのだなということです。
今回の賞のコンセプトとして、次世代の演劇にふさわしい新しくかつエンターテイメント性のある作品、演劇として上演が可能かどうかは考えなくてもよい。また戯曲だけではなく、小説、マンガ、絵コンテ形式の作品も受け入れるという戯曲賞としては一風変わった裾野の広さで募集が行われておりました。
裾野の広い戯曲賞に投稿された作品を読むにあたって幾つかの上演台本としての戯曲がありました。上演されたということは少なくとも座組、そしてお客様へ発表された作品ということで、確実に何らかの評価を受けております。そういった作品には他の作品と比べてアドバンテージがあるのではないかと漠然と思っておりました。しかし読み進めていくにあたってその考えは変わっていきます。
あくまで私の感覚ではあるのですが、「上演台本」≠「他薦に直結する」でした。他の作品と比べたときにあくまで「上演した台本」としての評価は産まれましたが、純粋に戯曲として面白いか否かで他作品と比べるのでその点がアドバンテージにはならないなと感じましたし、可能性があるか否かでいうと「上演台本」というベクトルが寧ろひとつの「戯曲賞」というカテゴリーに於いて弊害となっているなと感じた部分もありました。
結局のところ横一線として作品を見通したときにその作品に力があるかを総合的に判断したときの評価が総てだと思いました。
・小説を「戯曲賞」としてどう扱うのか
この点は投稿された方もそうではない方も非常に興味深く考えられると思います。実際にどの選考委員の方も非常に慎重に検討を重ねたと思います。そしてコレからもソレは続いていきます。
はっきりいって自分がコレをどう扱うのか、学術的な視点でも非常に検討が必要な分野だと思っております。
ただ自分としてはまず作品として面白いか否かという点に注目。そのうえであくまで演劇的に、戯曲に翻訳した際に、その良さが拡大されるか否か。それともあくまで小説だからこその良さであるのか。それを意識して選考しています。
やはり戯曲賞なので面白い作品が二つあったとき、よほどその天秤が小説の方に傾かなければ戯曲としてのフォーマットで執筆された作品を推してしまいます。その上でもやはり小説として読み応えがあり、更に戯曲としての可能性、舞台作品で上演出来るか否かは度外視とはいいつつも、上演を想像したときに期待に胸膨らむか否かで膨らむ作品はいいなと評価しました。
以上が選考委員として第一次選考を行った際に大きく感じた事でした。あとは本当に拝読させていただいたひとつひとつの作品に対しての想いが強いです。その点に関してはまた今後書くことに致します。
まだ選考は続いております。コレからもまだ読んでない作品もあり、作品を拝見するのが楽しみです。