推しに殺された話

今とてもしんどい。でもこの気持ちを忘れないために、そして同じような人がきっといるはずだと信じて、この記事を書く。

今日はイベントだった。とある番組のオフラインイベントだが、その中には握手会ならぬ手渡し会が含まれていた。おそらくそれがこのイベントの目玉である。そして、のちにオタクを殺す。

手渡し会というのは、その実私もよく知らないが、目の前で自分の名前なりを書いてくれて推しが手渡ししてくれるイベントで。推しが書いてる間は二人きりの時間だから、話しかければ答えてくれるフリータイム。こんなのめっちゃ夢のような時間だと思いませんか?私も思ってました。でもそれはあくまでも、沼の淵にいる人にとっては。沼にずっぷりハマっている人間にとっては致死量にも値する幸福だ。だから気をつけてほしい。本当に。

今日のやりとりを以下に貼り付ける。


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一部
私 あの私ロゴ送ったんですけど落選して、それでハガキが届いて…
推し え?なんて?アクリル板あるから聞こえづらいんだ。ごめん
私 大きめの声で言い直し。あれって直筆じゃないですよね?印刷ですよね?
推し 直筆だよ!せっかく送ってくれたから、何かしたいなと思って。
私 えっ……(絶句)家宝にしますね
これからも応援してますー
推し ありがとー!

二部
私 今日岡山から始発で来たんですよ。昨日一睡もできなくて。
推し えーマジかー
私 明日も仕事だよ。だから二部終わったら帰るんだ
推し マジか、やばいな
私 推しちゃん、ロケで岡山きてくださいよ!めっちゃ怖いバンジージャンプありますよ
推し えーいきたい〜
私 ほんと怖いですよ!紐ちぎれて死人出てるし
推し あ、そういうのはいいや
私 ……推しちゃんの靴かわいいですね
推し ほんと?これ事務所の社長から誕生日プレゼントでもらったんだ
私 へー。推しちゃん、写真で見るより目、おっきいですね
推し そう?言われたことないかな
私 いやー。芸能人ってすごいですよ
推し (スルー)これ、名前、〇〇ちゃんもいる?ちゃんまで?
私 あ!ちゃん入れてください!ちゃん欲しい!
推し 無言でちゃんを書く
私 …これからも頑張ってください!
推し ありがとー



お分かりいただけただろうか。いや、わからんよね。自分の文才のなさが憎い。伝えたかったのは、彼は何にも過剰なファンサはしてないってこと。例えば、ウインクとか投げキッスとか…?うーん、その手のアイドルに興味がないのでわからん。例えが昭和でごめん。わたしの推しは、配信でも、「推しくん、今度試験のわたしに喝を入れてください!」なんてメールがきても、甘えんなよ!そんな簡単に言ってもらえると思うな〜笑、なんて嫌味なく返す人だった。わたしは彼のそういうところが好きだったし、今もすごくすごく好きだ。悔しいけれど…。

〇〇ちゃん、がんばれ!応援してるよ♡って、ウインクしたり、いとも簡単にキス顔くれたり、そんな人ならきっと私はハマらなかった。(なんなら今日も罰ゲームでキス顔をさせられていたが、上手いことボケていて、一瞬でも期待した自分を殴りたくなった。)…とにかく、彼がそんなホイホイわかりやすいファンサをするようなタイプの人なら、よくいる舞台俳優、アイドルの一人としてなんの興味ももたずにわたしはきっと通り過ぎていた。怖いくらいに、わたしの推しはどこまでも自然体なんだ。それはまるで、学校イチのイケメンと、放課後の教室でこっそり話しているかのような錯覚に陥る。

ほら昔、学校に一人ははっと振り返るようなイケメンっていたでしょう。わたしはいた。弓道部だったSくん。元気かな。時々部活を見に行っては、友達ときゃーきゃー言ったものだ。容姿もなにもかも10人並みのわたしには決して手の届かない存在。つきあいたいなんてとんでもない。なんならわたしには彼氏がちゃんといた。それでも、憧れの、キラキラした存在、身近なアイドル。きっと誰しも心当たりはあるんじゃなかろうか?




…話が脱線した。

親近感を抱かせるというのは、タレントに最も必要な才能の一つだと思うが、わたしの推しにはそれがあった。じゅうぶんすぎるくらいに。それなりに恋愛だってしてきた、きっと普通の、わたしを打ちのめすくらいには。絶対に現実にはいないんだけど、もしかしたら、いるかもしれない…?もしかしたら、なにかあるかもしれない…?そう思わせる天才だったんだ。それを今日、思い知らされた。とてつもない疲労感とともに。

根っからのアイドル気質。根っからのヨウキャ。なんのいつわりもないキラキラ。きっと人にひどく憎まれたり騙されたりしたことはないんだろうなと思わせる、育ちの良さ。そういえば本人が言っていたっけ、「俺は人間的に、かわいがられるタイプなんだよね」って。ほんとうにそうだ…。顔やスタイルが抜群にいいわけではない、でも憎めない、かわいい、かまいたくなる、そういう人を惹きつける才能がすごかった。わたしのような一般人には決してないもの。彼は根っからのアイドルだった。

ふと、乃木坂の斎藤飛鳥を思い出した。彼女は今はどーだか知らないが、握手会の塩対応が有名だった。とんでもなくかわいい顔をしてるくせに、ウインクとか、それこそキス顔なんて絶対にしない。そして口が悪い。うっせーよ、おまえらなんてどーせクリスマスに一緒にすごす彼女いないんだろ!とか言っちゃう人。なんでそれがウケるんだろうな?なーちゃん(西野七瀬)のほうがいいのになぁ、なんて昔のわたしは思っていた。塩対応の需要ってなんなの?マゾなの?って思ってた。

それを今日思い出した。

塩対応では決してない。だけどわたしの推しはアメと鞭の使い分けが上手い。塩対応と、神対応の合わせ技。そんなのひとたまりもない。

推しにね。名前を書いてもらうとき、「ちゃん、ください!ちゃん、ほしい。」って言った。すごいぶりっこして言った。年甲斐もなく、心のそこから、この人に1ミリでもかわいいと思われたい…そんな気持ちと、ちょっとこのいい回し面白くない?というシタゴコロ。ピンポンという漫画で、主人公のペコが、「俺が勝ったら、さん、くれろ」と言うのだが、それを少し意識していた。推しがピンポンを知ってるかはわからないけど、個人的に好きなフレーズだったので使ってみたし、普通にかわいいんじゃないかと思ったのだ。というか、「ちゃん」まで欲しくてわざわざ書いているのに、「ちゃん、いる?」って聞くのがおかしい。えっ、もしかしてこれ塩対応?


会いに行けるアイドルって耳障りのいい言葉に騙されてはだめだ。言い換えれば、金を積めば会えるアイドルなんだから。でも決して結ばれることはない。ただ自分の若さとお金を消費していくだけ……


と、言い切れたならよかった。言い切れたなら、なにも悩まずにいられる。わたしは彼に救われてしまった。悲しいできごとも、しんどい仕事も、どうしようも無いわたしの恋愛も、キラキラした彼にメールを読んでもらって、悩みに答えてもらって…直筆のハガキをもらって…わたしの名前を目の前で書いてくれて、そして、まんまるで綺麗な目を合わせてくれた。目が合った、んじゃない。わたしを見てくれた。

とてつもなく傷つきながら、

これ以上ないスピードで失恋しながら、

彼に救われてしまった。


毒にも薬にもなるだとか、沼だとか、もう軽々しく口にできない。こんな甘美な地獄があるだろうか。少なくともわたしは知らなかった。でも、知りたくなかった?彼のことを知らなかったときに戻りたい?って聞かれたら、きっと、ぜったい、答えはノーだ。

もうだめだ

手を伸ばせばさわれる距離にいるのに絶対にさわれない。もっと、自分とオマエは違う人間なんだと、住む世界が違うのだとわからせてくれたなら…泣きながら傷つきながら、それでも前に進めるのかなぁ。わからない


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