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インチキ・アーティスト・スター7

 今年も暖冬で、この街が日中10°以下になることはなかった。今日も朝を過ぎれば少し冷たい春の陽気、午後には完全に命が目覚める暖かさ。

オレは十時過ぎにハローワークに着き、認定日までに必要な求職相談の面接を待っていた。今日も相変わらず不人気ハローワーク、オレ以外の利用者は2人、すぐに呼び出しのアナウンスがきた。

まあ、相談することはない。オヤジが認知で回転寿司ではスプーンで寿司を食ったというエピソードを話したが、年老いた面接官はクスリともしなかった。オレはこうやって世間を渡っていく。

 ともかく「オレも認知症になるかもしれない。認知症でも出来る仕事はないか?」 「ない」 それで相談は終了、オレは早々に表に出てスキップをした、スキップはオレの鼓動。

 今日はこれから自分の小説の表紙を書く参考に、オシャレ本屋に行く予定で、その店はカフェのようだ。本をアンティークのように扱っているが、本の中身には興味がない、どれもこれもウソだからだ。

オシャレ本屋はアーケード街の入り口にあるが、停電点検のため休業していた。

しかたなく、ジュンク堂に向かう。そこはこの街の中心、七階建て、ブルー・スリーの死亡遊戯のように守護者がエスカレータの前で、いつも本を読んでいる。奴らはミニスカートの女の子がエスカレータに乗ったときだけ視線を上げる。

ジュンク堂に入ると、やはりマスター達がいた。ここくらいだろう、トルストイの戦争と平和が全巻そろっている本屋は。今は、どこも売れ筋だけ置いて返品するだけのビジネスだ。人が読書しなくなったのが先か、読書機会が奪われたのが先か、どっちでもいい。AVがあるのにエロ本は頑張っている。

なにはともあれ、ここはオレの第2の故郷だ。

最上階はコミックで、オレは登ったことがない。そのすぐ下の階が絵本売り場だ。今日は「ちびゴリラ、チビチビ」を読んでやろうと朝から決めていた。「ちびくろさんぼ」は知っていて「ちびゴリラ、チビチビ」を知らない自称、絵本好き女子はオレが乳首を黒くしてやる。

そんな爽やかなオレのささやかな夢は、ここの6階で絵本チビッコが絵本を買ってくれと号泣している場面に出くわすことだ。お菓子が欲しいのでなく、オモチャが欲しいわけでもなく、絵本の中の生き物のために泣いていて、そこでオレが「買ってあげて下さい」とお金を渡し去って行くことだ。

 オレはマスター達に軽く頭を下げながら、遅いエスカレーターで6階に上っていくとオレは二冊ある「ちびゴリラチビチビ」の片方を取り、読んだ。

「オレも、こんな風に愛されたかった」

 オレは号泣していたが、誰もオレに本を買ってあげようという人は現れることはなかった。



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