インチキ アーティスト スター5
ハローワークへ行った。今日は陶芸がやりたいんだが、陶芸の訓練学校(陶芸教室)はないのか聞いてみた。もちろん、「ない」 一言。一応、この町は○〇焼きの里がある焼き物の街。
絵本も出してるから、「絵本のキャラ描いて、ガッポリ稼いでやるぜ!」と言うと、女性職員はアゴにペンを当て眉をひそめた。それは宣伝でもあるのに、絵本なんて犬、ネコが可愛く描ければ問題ない。
スヌーピーは今でこそ日本語で読めるが、むかしは英語マンガだった。キャラクターは商品化されて一人歩きするものだ。
小学生のころ、母子家庭の姉妹の家へ行ってみると、スヌーピーのマンガは英語で書かれていたのでオレは度肝を抜かれた。そこの長女は父親がいないぶん頑張っていたのだ。そのときのオレなど離婚というものが理解できず、父親がいないということも理解できなかった。その長女が「宝物を見せてあげる」と見せてくれたのがベルマークを集めで、そんなもの集めたってクラスの黒板消しくらいにしかならない。
あの少女が、この世界で初めて見た天使だった。実をいうと、本当は人間が天使だ、オレはそのことを前から知っていたせいで、詩人になってしまったのだ。
ともかく、その女性職員が求職相談のハンコを押してくれた、おかげで次回の認定日まで求職活動はしなくていい。
陶芸は実際、興味がありはした、「君は絵を描きますね」と当てられたことが幾度かあるが、そのうちの一人は陶芸の先生だった。彼は40代の長髪ので昔、絵を描いていたが食えなくて焼き物を始めたらしい。
ちょうど、そのときオレは8×4というワキガの女王様の絵を描いていて、携帯の待ち受けにしていたので見せた。その女王はワキガをこじらせて人間不信で、奴隷達にワキを舐めさせるのだが、マンコはもっと臭いという純愛ドラマだ。
先生と意気投合し、サボテンの人が踊る湯飲みをもらって、先生が天才だと思い知った。絵付けに来いと誘われ、皿に裸の女を描いて「女体盛り」を描く約束をしたが、結局、実現することはなかった。小さな絵を描くのは難しい、円筒に絵を描くのも難しい。マンガは1ページにあれだけの情報を詰め込めるのはスゴイことだ、もっとマンガ家は尊敬され敬われてしかるべきだ。
まあ、今日の用事は済んだ。あとは歌姫を見て帰るだけだ。
ハローワークを出ると、そこはアーケード街で、北へ向かい城の方へ歩くとパワースポットがある。その先のレコード屋に歌姫はいる。そこへ行くと、変人達に出くわす確率が非常に高い。太陽と話しているヤツ、「あ~あ、一人忘年会」とため息をつくドラッグクイーン、10メートル歩く度に「おはよう御座います」と大きな声で挨拶する青年などに会った。
場所は人を呼ぶものか、何年か前にパワーストーン屋がオープンし、七色の髪の女が店番をしている。石は人を呼ぶらしいが、店に入るとその女が「私がパワーストーンです」と言ったというウワサを聞いたことがある。
レコード屋に着くと、いつもは店の入り口の視聴用ヘッドホンを付け、フンフンうなずきながら宇宙と交信している歌姫だが、ついに店側から排除を受けたようだ。その店は客もなく空っぽ。非常にショックだ。
歌姫というものは何度も何度も泣き声と叫び声を繰り返し上げてきたせいで、生まれたときから歌が上手だということを、あの歌姫は知っていたのだ。でなければ、一日じゅう同じ歌など聞けるはずがない。オレはそのヘッドホンからは同じ歌しか流れないことを知っている。
外で10メートルおきに、おはよう御座いますを言う青年は、みんなにおはようが言いたいだけなのだ。
オレはショックを受けついでに献血して帰る。むかし、献血センターはここから150メートルほど離れた場所にあったのだが、不思議なことにわざわざパワースポット付近に引っ越した。血が必要らしい。
ここに毎月、献血をしにくるが血液が薄くて追い返される少女がいる、寄せ書きノートに今月もダメだ、今月もダメだと書き残して帰っていく。オレはその少女を探している。それはオレが知っている、もう一人の天使だからだ。
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