オリジナル小説 ジュンちゃんとヒモ男#1
ヒモ男が雛子さんと僕の家に転がり込んできたのは、クリスマスが終わり、世間がお正月モード一色で溢れている時期のことだった。
「まさか、うちの会社が潰れるとは思わなくてさぁ、とりあえず今日は泊めさせて」
その日から、ヒモ男は家に居つくようになった。ヒモ男は家賃・水道光熱費などを滞納していて、一人暮らしをしていたアパートからも追い出されたとのこと。
「新しい仕事が見つかるまで、ここにいてもいいよ」
雛子さんはそう言うが、僕は嫌だった。
ヒモ男は自称“クリーンなヒモ”で、パチンコ店によく行くが、煙草は吸わず、アルコールもとらない男だった。
「亮くん、ジュンちゃんのお散歩してきて」
「いま忙しいから無理」
家庭用ゲーム機のコントローラーを握りしめながら、ヒモ男は言った。格闘ゲームをしているのか、ヒモ男は「のわっ」「うぇーい」などとわけのわからない言葉を発している。
雛子さんは散歩用のリードとビニール袋、プラスチックでできた小型のスコップを手に、僕のほうに近づいてきた。
「じゃあ私が、ジュンちゃんの散歩に行ってくるね」
ヒモ男はテレビの画面に顔を向けたままだ。雛子さんと行く散歩は嬉しいからこそ、ヒモ男とは散歩に行きたくない。僕はしっぽを激しく振り、雛子さんの足元でぐるぐる走り回った。こちらを見ようともしないヒモ男に、バカヤロウ! などと吠えながら、雛子さんと散歩に出かけた。
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ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
より良い記事を書いていきたいです。