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富山県は本当に「『寿司』と言えば富山」になれるか? vol.9(高岡)

 前回までの連載(noteの過去記事をご参照ください)で私は、富山県の新田知事が2023年夏に「『寿司』と言えば富山になるぞ!」と宣言したことに私がいろいろ考えを巡らせ、2泊3日で富山市内の寿司屋を回ったり、秋に富山県成長戦略カンファレンスのセッション『「寿司と言えば、富山」地方ブランドは本当に作れるのか?』に登壇したことから、「世界標準寿司を増やしてまずは富山にフーディーを呼び、そこでキトキトの魚を富山産のコメの酢飯に乗っける呑み寿司の魅力も知ってもらう流れを作ること」がいいのではと考え、2023年は結局、富山市、氷見市、魚津市を回った。2024年に入り、その考えは変わらず、富山出張の度に寿司屋を巡る機会は増えている。今回は、富山県内第2の都市、高岡市の老舗寿司屋を巡ったお話。https://toyama-pref.note.jp/m/mbd4758ee01f7

 今回の企画を思いついた時、私は富山県の友人にアンケートをしまくって、秘蔵の美味しい寿司屋を教えてほしいと頼んだ。その結果、富山市内の寿司屋が一番多いのは当たり前として、次は高岡市だった。といっても、高岡の富山県第2の都市だから、当たり前か。
 高岡は以前、氷見に行く途中で、新高岡駅から5分ほどのところにある「すし処鳴海」を訪れたことがあった。ランチなのでさくっとおまかせにぎりを頼み、追加で煮蛤(はまぐり)と穴キュウ(巻)。煮はまぐりなんて江戸前仕事の典型だが、それをきちんとメニューに加えているところが富山のニューウェーブらしさで、ここは酢飯も甘すぎず、世界標準寿司の一翼にを担う寿司だったが、もう一度夜を経験したいと思った。そんな話はvol.5に書いているから、ご興味があればお読みください。

新高岡駅から5分ほど。
ほとんどが地元産。キジハタ、ワタリガニなど、魅力的なネタも。
北陸の寿司屋では、煮蛤が珍しい。
最後は穴キュウで。

 しかしながら、新幹線沿線の「新」という字が頭に付く駅はほぼすべて新幹線のために作られた新駅。高岡も例外ではなく、昔からの繁華街は高岡駅周辺にあり、寿司屋もそちらの方が多い。 なかでも老舗で評判がいい店のひとつに「鮨金」がある。高岡駅から歩いて数分。小さなL字型のカウンターの店だが、富山の地のものを中心に握る店。私のような県外の人間は、せっかく富山に来たのなら、富山の地のものだけを味わいたいと思うのだが、富山で寿司を食べ始めてようやく、その考えはかなり傲慢なものだということに気づいた。飲食店の基本は、当たり前だが、地元のお客様を相手としている。私たちにとっては、バイ貝を食べると富山に来たと思うし、白エビの握りを出されると富山らしいと思うわけだが、地元のお客様にとってはいつでも食べられるものばかり。それなら、大間のマグロや北海道の雲丹を食べたいわけだ。 そのあたり、鮨金はうまく塩梅しているように感じた。この日はランチだったので軽めで、マグロなどの刺身三種盛りからスタート。握りは白エビからスタートするのが鮨金のお決まりらしい。白身、紅ズワイガニ、バイ貝など旬の握りが続き、そこに中トロ、いくら、雲丹などの県外のネタをはさんでいくことでバランスが取れた握りの構成になっている。酢飯も甘すぎず、富山の一般的な寿司よりも固めな握りで、東京の寿司に食べ慣れている人々にはちょうどいい。「呑み寿司」でもない、まさに富山の寿司屋のいいかたちだなと思う。

昼なので軽く刺身3種盛りからスタート。
白エビを食べると富山に来た気がする。
紅ズワイガニの握りも北陸ならでは。
〆はいくら。
鮨金の大将。店内も清潔で心地いい。

 高岡には鮨金以外にも、日の出寿司、すし貫など有名な店はいくつもあるが、個人的に気になっていたのが「和香奈寿司」だった。
 店主の領毛龍生さんは、1981年に氷見で生まれ、高校卒業後、金沢で修業。先代の父親が突然倒れたことから、修業を途中でやめ、店を継いだという。だから店自体は50年以上の歴史があるというが、現在の主人に変わったから、現代的なスタイルに変わったらしい。いまは米酢のようだが、古いレビューを読むと赤酢を使っていた時期もあるようだ。東京は赤酢が多いから、東京の寿司に慣れている食いしん坊にはかえってわかりやすいのではないか。そんなことを思って入店した。
 小さい店でカウンターは8席のみ。おまかせは3コースあるが、1万円以上だから、富山標準からしたら高価な分類に入るだろう。せっかくなのでこの日は一番高い19500円を注文してみた。

日本酒リストは壮観。IWA5の2~4も。

 日本酒リストを見ると、ドンペリニヨンの最高醸造責任者が作る「IWA5」も3種類揃っている。実は先日、IWA5を作っている白岩酒造にお邪魔した。里山の真ん中に隈研吾デザインの素晴らしい醸造所が立ち、最新の設備が揃っている。すでにアッサンブラージュ1は蔵元でも売り切れで2~4を試飲させていただいたが、2、3と4がまったく違う味であることに驚いた。聞いてみると3までは富山市の満寿泉酒造で作ってもらい、4から自社で醸造したという。好き嫌いはともかく、4はまさに水のように入る酒。そのかわり、2は燗酒にすると旨い。
 国内よりも海外に販路を開拓しているため、なかなか国内で置いてあるところは少ないIWA5が和香奈には全部、置いてあることに驚いた。とはいえ、せっかく富山に来たのなら東京では飲めない勝駒、三笑楽からスタートし、少しだけIWA5を味わいつつ、寿司を味わうとする。

のどぐろの焼物。上品な脂がうれしい。
蒸しあわび。残った肝ソースには酢飯を入れて楽しんだ。
バイ貝とカワハギの造り。

 カワハギの造りや蒸しアワビといった酒肴のうまさには驚く。のどぐろは本来は取り立てて好きな魚ではないが、上品な脂で、私の好きな米の旨さが前面に出ている系統の酒にはぴったりだと思った。

鯵の握り。
ブリの握り。
甘海老の握り。
白身の桜蒸し寿司。
中とろ。隠し包丁が美しい。

 握りに入っても、その印象は変わらない。富山湾のキトキトの魚を単に酢飯に乗せるのではなく、どうやったら握りとしての一体感を出せるのかということを彼は研究してきたのだろう。だから赤酢の研究もしたのだろうと思った。
 富山の寿司フリークは総じて赤酢否定派が多く、その気持ちもわからないではないが、「寿司」という業態は、いまや世界で発展している。よく「オリンピックのJYUDOは日本の柔道じゃない」などという人がいるが、人類は不可逆的に進化しているのだから、全体の流れを止めることはできないと私は思っている。富山にはせっかくキトキトの魚があり、日本海で獲れる魚の8割があるのだったら、そこに「仕事」が加われば、鬼に金棒ではないかと思っている所以である。いろいろ試して結果として、どれが富山寿司にふさわしいか。別に正解はひとつではない。これからさまざまな形態が出てくるとうれしいと、私は勝手に思っている。
 和香奈寿司の味は発展途上というか、まだまだ伸びしろを感じられる寿司のように思うが、私はこれから先も領毛さんの寿司修業に伴奏したくなった。いい寿司屋を見つけたなと思った。魚津で新たにみつけた富山の寿司屋の概念、「俺の寿司屋」の一軒に加えたくなった。
 でもね、まだまだ続く、富山寿司の旅。次回はもう少し郊外へ。

★すし処 鳴海

★鮨金

★和香奈
https://tabelog.com/toyama/A1604/A160401/16005643/

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