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富山県は本当に「『寿司』と言えば富山」になれるか? vol.23(富山市内のホテル食べ比べ)
2025年は富山にとって、重要な年になりそうだ。
前回の連載で「寿司と言えば富山」にとってカギとなるふたつの発表(寿司職人養成学校と鮨オーベルジュ建設の表明)をご紹介した。
だが、1月7日にさらに大きな発表があった。アメリカのニューヨーク・タイムズは毎年、独自の情報を元に世界の旅行先をランキングで発表しているのだが、「2025年に行くべき52カ所」に富山が選ばれたのである。
富山の評価は、能登半島の復興の一環としての観光客誘致とともに、隈研吾氏が設計・建築した富山市ガラス美術館や、伝統行事「おわら風の盆」などによるものとか。個人的にいえば、もっと評価されるべきところが富山にあると思うのだが、まずはこのランキングが報道されたことでインバウンドが富山を目指すことは間違いないだろう。
観光庁が発表している「宿泊旅行統計調査(2024年(令和6年)9月・第2次速報、2024年(令和6年)10月・第1次速報)」によると富山県の都道府県別外国人延べ宿泊者数は32510人で東京の544,480に比べると15分の1以下なのだが(私が勝手に仮想敵国と考えている岐阜県と比較しても9分の1ほど)、きっと大躍進するに違いない。なにせ今年のインバウンドは4000万人を超えるとみられているからだ(2024年度は3700万人弱)。
というわけで、幸先のいい話をしたあとで、前回予告した富山駅前のホテル「ヴィスキオ富山」の朝ご飯の寿司食べ放題の話に戻ろう。富山は県外だけでなく、県内の人々も頑張っているということを示したかったからだ。
ヴィスキオ富山が2024年6月から朝食メニューをリニューアルし、握り寿司の食べ放題が追加されたことは知っていたが、なかなか行くチャンスがなかった。というのも、ここのところ富山県内の地方に行くことが多かったのと、富山市内に泊まるときでも、これまで泊ったことのない場所にチャレンジしていたからである。
ひととおりそれが終わって、ヴィスキオに泊まる順番が回ってきた。ヴィスキオは富山駅前の「マルート」という商業ビルの上にあるのだが、同じ施設の4階に「とやま鮨海富山」が入っている。だから発表されたときから、食べ放題はここと提携するに違いないと思っていたのだが、それどころか、その場所が朝食会場になっていたのである。しかも、こちらの朝食ビュッフェは宿泊者限定となっており、朝食のみの利用はできない。ちなみにお値段は大人3200円。
その後の予定から私は朝食オープンの時間に行ったのだが、すでに先客がいて、開場と同時にみな、寿司コーナーを目指している。
私もまずは寿司が見える場所に席を取ってから、全体を見渡したのだが、実は寿司以外の富山名物も充実しているし、洋食のラインアップも素晴らしい。五箇山の豆腐グラタンやシュークルート(フランス・アルザス風キャベツ煮込み)、白えびのタルトフランベまであるのだ。まさか朝からシュークルートが食べられると思わず、小躍りしてたくさん取ってしまい、あとで後悔してしまった。
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寿司のラインアップは、甘えび、やりいか、ぶり、さくらます、鱒寿司の5種類で、ぶりは氷見産、さくらますは魚津産、鰹は新湊産と産地が明示されている。いまどき、富山県産のさくらますを使う鱒寿司はほとんどない(もともと鱒寿司は神通川を遡上するさくらますを使って作ったとされている)のに、朝から天然のさくらますが食べられるとは、縁起がいいこと、この上ない。
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恰幅のいい寿司職人のコックコートには「とやま鮨」の刺繍があり、寿司と一緒に置かれているガリは「マツコの知らない世界」でも紹介された、とやま鮨職人が作った「昆布ガリ」だから、まさにとやま鮨を朝から食べられるということだ。とやま鮨は駅前の回転寿司が有名だが、以前ご紹介した富山空港の到着口にあったのもとやま鮨だったし、銀座にも支店があるから、かなり手広く商売をやられているようだ。
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握りは富山らしく米酢を使ったやさしい酢飯で、いくらでも入ってしまう味。どれも美味しかったが、個人的にはぶりとさくらますにノックアウトされた。もう1巡したい気分をなんとか押しのけて朝食会場を後にしたが、これならじゅうぶん料金のもとは取った気分。また機会があったら行きたいくらいだ。
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だが、ヴィスキオの寿司食べ放題を体験したからには、「ホテルJALシティ富山」のやっている「ます寿司食べ比べ」も味わいたい。
こちらに関しては以前、この連載のvol.4で書いたが、あれから一年間ほど経ち、鱒寿司づくりを2回も経験した。少しは鱒寿司に関する表現力も高まったに違いないと思い、もう一度JALシティに泊まることにしたのだ。
JALシティはヴィスキオのすぐ裏。ともに駅前ではグレードの高いホテルといわれている。JALシティの朝食は通常、地域性を活かし平飼いで養鶏したニワトリの卵、富山県産こしひかり、北陸唯一の種麹屋の味噌など、富山県各地から取り寄せた食材を使用したビュッフェ(2200円)で、これも大変おいしいのだが、それとは別に、ふたつのスペシャルブレックファーストがある。
ひとつは、富山県産こしひかりをひとつずつ土鍋で炊き上げ、ご飯のおともに南砺市五箇山名産の赤かぶ漬けや白えびの昆布締めなど約10種類の名産品を取り揃えた「越中うみとやま御膳」。朝食付きプランでお申し込みの場合は+1,000円で食べられる。
もうひとつが富山ます寿し共同組合加盟店のます寿しの食べ比べを楽しめる「ます寿し食べ比べ膳」である。こちらは朝食付きプラン+500円だ。実は富山県にはます寿しの店舗は数十店舗もあるのだが、そのうち、富山ます寿し共同組合加盟店は12店舗。そのます寿司を食べ比べできるという企画なのである。
以前は、そのなかから8店舗を選ぶ仕様だったと記憶するが、今回頼んだら、いくつ選んでもよくなったらしい。事前にお願いしたところ、すべてのます寿司を運んでくださった。
東京にいるとます寿司は最大手の「源」しか存在しないと思っている人がとても多いのだが、そういう人にこそぜひ、食べ比べしてほしい。たった12軒でも、すごくバラエティに富んでいるのだ。
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今回、皿に並んだのは以下のます寿司。ホテルのHPにある特徴を抜き書きしてみる。
・青山総本舗(昆布だしの効いたご飯と粗塩〆した魚を千鳥酢でまとめたます寿し)
・元祖関野屋(天然国産のサクラマスにこだわった伝統の味)
・高田屋(鱒の風味を最大限に生かし、甘味のある米でふっくらとした食感が特徴)
・元祖せきの屋(あっさりとした中にしっかり主張する鱒と富山産コシヒカリの味)
・千歳(吟味された素材を使い、伝統の製法で作り上げる)
・吉田屋鱒寿し本舗(魚本来の旨みをさらに引き出す締め加減、味を熟成させる「押し」と「ふっくら感」の両立)
・川上鱒寿し店(さっぱりとした素朴な味わいとしっとり食べ応えのある鱒の身が特徴の鱒寿し)
・高芳(素材の味をしっかり際立たせながら上品な風味を感じさせるます寿し)
・今井商店 (鱒の風味とさっぱりとした酸味が特徴)
・なかの屋 (「とろける」といった食感を実現したます寿し)
・味の笹義(腹身の一番おいしいところを贅沢に使用)
・源(創業110余年、今なお受け継がれる伝統)。
この日、すべてを味わったのちに、私の個人的な好みは以下の4つ、高田屋、笹義、吉田屋鱒寿す本舗、青山総本舗だった。味の方向性としては、ますの脂がのっているのか、さっぱりとしているのか。酢飯に酸味があるのか、甘いのか、あたりが基準になったと思う。私の好みはさっぱりとしているよりはいくぶん脂があり、酢飯の酸味は多少あったほうがいいという観点から選んだ。中庸で誰でも食べやすいものということだ。
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JALシティが作ったチャート図で比較しても上記4つは別々のカテゴリーに属しているのだが、あえて共通するのは極端ではないということだろう。ただ、あくまで私の好みなのでそれが正しいわけではない。ある意味、一番数を食べている源もじゅうぶん美味しい。
前回のふたつの発表とニューヨークタイムズのランキングは、いわばいい意味での「外圧」ともいえる。しかし県内でも寿司をアピールしようという動きはいくつもある。そのなかのほんのひとつだが、駅前の高級ホテルのふたつが朝食の寿司対決でしのぎを削っているのは、とてもいいことだなあと、偉そうに聞こえたら申し訳ないのだが、私は思ったわけである。しかも、握りはなくとも朝食から海鮮丼が楽しめるホテルはほかにもあるし。
次回は富山市内の新たに訪れた魅力的な寿司の話。まだまだ続く、富山寿司の旅。