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科捜研法医のお仕事

まずDNA型鑑定。
さらにDNA型鑑定。
そして顔、体液、骨等、ヒトや動物のこと。

……

科捜研の法医分野のお仕事について詳しく解説します。

はじめに

よくある誤解ですが、科捜研の法医分野が行う内容はいわゆる「法医学」とは異なり、より正確には「法生物学」と呼ばれます。
「法医学」は医学の一分野であり、遺体の解剖など、医者である法医学者が行います。
「法生物学」は科捜研が行うような「法科学」の一分野であり、本稿で述べる内容が含まれます。
ドラマの影響はここでリセットして、正しい情報を入れていきましょう。

本稿では主にヒトDNA型鑑定を扱いますが、これはヒトDNAのうち最新なら24座位のSTR型を得て比較することで個人の識別を行うものです[1]。
ヒトDNAやPCR、シーケンシングそのものの原理や仕組みについては一般の方向けを含む様々な書籍で書かれているのでここでは取り上げません。
ここではヒトDNA型鑑定の使い方と、ほかの検査について取り上げます。

1.DNA型鑑定(口腔内細胞)

ドラマ等でもお馴染みの、綿棒で口の中を擦って細胞を採取するやつ。
民間の検査会社でも親子鑑定などで行われています。
シンプルな採取方法で身体にダメージがなく、手軽に細胞が採取できるため、一般的な採取方法として広く行われています。
検査においても、扱う資料の状態が揃っているため、基本的にはプロトコル通りの流れ作業で分析が可能です。
そのため警察庁のDNAセンターにおいても一括処理が行われています[2]。

2.DNA型鑑定(現場資料)

科捜研ならではのDNA型鑑定と言えばこちらですね。
事件現場に残された遺留品からDNA型鑑定を行い、被疑者等のDNA型と一致すればとても強力な証拠となります。ほかにDNAデータベースとも照合され、ヒットすれば被疑者として浮上することになります。
現場資料は種類や状態も様々であり、適した採取方法や前処理方法が必要となります。
また、ものによっては複数人のDNA型が混在して判断が難しくなることも考えられます。異なる由来の細胞の混合であれば、精子など特定の細胞に特化した精製法を用いて分離する[3]ほか、男性のみが持つDNAを用いるY-STR[4]も用いられます。

3.DNA型鑑定(身元確認)

DNA型鑑定は個人の識別だけでなく、親子関係や兄弟関係をも明らかにすることが可能なことから、行方不明者の家族のDNA型と身元不明死体のDNA型をデータベースで対照して身元の特定に活用することが行われています[5]。
犯罪死だけでなく、東日本大震災など災害の犠牲者の身元確認にも活用されています。

4.体液

例えば性犯罪なら精子の存在を確認することは重要でしょう。
ほかに尿、唾液、血液など、DNA型鑑定と併せて体液の種類の検査も行われます。これにより、DNA型が由来する体液種を特定することで、犯行様態をも明らかにできます。
それぞれの体液について顕微鏡による形態観察のほかに、各種キットが市販されており[6]、それらを利用することで判定が可能です。

5.骨

骨に関する鑑定も法医分野の担当です。
発見された骨が人間のものかどうか、またどの部分の骨かなど、形態や微細構造、DNAなどから動物種の識別を行います。もし人間のものであれば、前述のDNA型鑑定を行い身元の特定を試みます[7]。
医者である法医学者の担当範囲とも重なってくる部分であり、解剖学的知識が必要となります。

6.顔

骨とも関連しますが、人間の顔貌の鑑定を行います。
頭蓋骨からの顔の復元などはドラマでも見られることがありますが、ほかに顔の計測値や3D画像による重ね合わせなどから、顔の識別を行います。
顔の立体的な情報をコンピューターで処理するために、3Dスキャナが普及しており、利用されています[8][9]。

今後への(個人的な)期待

DNA型鑑定の高度化はもちろんのことですが、それに加えて、法医鑑定への化学分析機器の利用[10]や、化学鑑定へのDNA配列の利用[11][12]など、法医分野と化学分野の重なる領域で研究が進んでおり、両分野の協力によるそれぞれの鑑定の高度化に期待が高まります。

リンク

[1] https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/139/5/139_18-00166-6/_article/-char/ja
[2]
https://www.npa.go.jp/about/recruitment/kanshiki/hpgf.pdf
[3] https://doi.org/10.3408/jafst.11.105
[4] https://doi.org/10.3408/jafst.10.157
[5] https://www.npa.go.jp/hakusyo/r01/honbun/html/v2222000.html
[6] https://www.cosmobio.co.jp/product/detail/products_ifi_20070710.asp?entry_id=3168
[7] https://doi.org/10.3408/jafst.765
[8] https://doi.org/10.3408/jafst.725
[9] https://doi.org/10.3408/jafst.698
[10] https://doi.org/10.3408/jafst.17.35
[11] https://doi.org/10.3408/jafst.748
[12] https://doi.org/10.3408/jafst.709


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