君が追いかけていたもの。あの夏。
クリリンとした前髪のあの子は、いつも大事そうにNikonの一眼レフを握りしめていた。
あの当時、デジタルカメラは普及してきてはいたものの、やはりまだまだフイルム全盛だったような気がする。
だからと言って今のように何でもかんでも撮影するわけにもいかない。シャッターあたりの単価はそんなに安くはない。
いつもファインダー越しの被写体を見ながらぶつぶつ言っていた。何回もシャッターに指を乗せては話すの繰り返し。顔からカメラを離してはこちらを見て首を傾げて苦笑いしていた。
ある夏の日、相変わらずファインダーを覗きながら雲を眺めていた。
暑い日差しを背に、あの子は空を通して未来を見ていたのだろうか。
あの子はいつもカメラを抱えてきた。
数十年が経ち、あの子はまだカメラをのぞいている。フィルムからデジタルに変わったものの、未だにぶつぶつ言いながら、ファインダー越しに社会を捉えている。
ずっと見続けているその世界は、どんな変化が見られるのだろうか?
今年も同じようにまた夏が来る。
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