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値決めの魔法 PricingMagic

価格を決めることの何が難しいのか

値決めこそ経営といったのは、稲盛和夫さんだが、クリエイターから相談されることも値決めに関することが多い。


「値段が決められない」「相場がわからない」
「高すぎると買ってもらえない」「安くすると赤字になる」

このプライシングについて、僕は今まで「そんなの主観でつけて市場にだして判断してもらえばいい」という、乱暴なやり方、感覚的なやり方でやっていたんだけれど、その方法論を示すことができたら、多くのクリエイターが、救われるのではないかと考えをあらためて自分の考える「プライシングの方法」をいくつか書いてみることにした。

価格決定の種類とプロセス

値決めには大きくわけて次の7つのパターンがあり、それぞれに一長一短がある

❶相場を知って弾きだすパターン

やっている仕事の相場価格をネットなどで検索。そこにできるだけ近づけつつ、何か言われた時に「相場はこれくらいで」と切り返すやり方。
このやり方は相場ですからという安心感、納得感はあるのだが、先方ももちろん相場を知ることになり、それよりも安くやってくれということや
土地や技術によって相場感が崩れてしまうために万能ではないし個人的に相場というフィールドから価格を決めていくといつまでたっても利益が残るような仕事はできないと思う。

❷自分の価値を主観でだすパターン
この価格が欲しい、この金額じゃないと売らないと自分の作品なり、商品の価格を自分の価値で決めてしまうパターン。これはマーケットニーズを度外視しているために当たるか当たらないかは
もはや賭け事のような感じになる。がしかし、ブランドをしっかり作れていたり、ファンがたくさんいる人にとっては、いくらでも欲しいものになるので、このパターンの値決めが向いてるように思う

❸原価率や利益率から弾きだすパターン
原価率をこのくらいにおさえよう、利益率をこのくらいに設定しようという、理数系やビジネスに長けている人がやるもっとも汎用性の高いやり方。これを習得すると赤字体質から脱却でき、すべてを数字で見るようになって、経営は安定してくるが次第に面白みのない人間にもなる

❹作業時間から弾きだすパターン
エンジニアやデザイナーがやる価格設定のやり方。いわゆる時給制に等しい。
1日稼働したらいくら、1時間稼働したらいくらを最初に決めた上で、この仕事はこれくらいかかりそうだから、いくらですという決め方。
これはとても合理的だし納得感もあるが、この方法をいつまでもやると所詮は作業人というところやオペレーターのような仕事からは抜け出せないことと、お前の1時間はこんなにするのか、という罵声を浴びせられることもある。

❺それらを全部排除したお友達価格
一番プロとしてやってはいけない見積もり方法。お友達価格でやってというクライアントはとりあえず、一発くらい殴ってもいい笑
が、露骨にお友達価格ではなく、ほんのり人間関係を匂わせる見積もりの作成方法もあり、それは後述するが一番使えるやり方でもある

❻無料でもいいからやってみたいパターン
これはどうぞやってくださいというか、やるべき仕事。こういう仕事の先に、実は大きなチャンスだったり、自分にとって今後の代表作になるような仕事につながること多々。いつまでも無料でやる必要はないが、こいつはお金では動かない面白い仕事で動く人間なんだという見え方はとてもいいし、タダでやっているので、ほとんどのわがままというか要望は通る。間違ってはいけないのが「無料でもやってみたい」のか「自信がないから無料でもやる」のかその違い。後者は絶対にダメ。

❼予算を聞き出してそこにあわせていくパターン
「ちなみに予算はどのくらいですか?」と最初に相手にゲタをあずけてしまうパターン。大きな仕事では結構当たり前のことだし、ラッキーパンチのようなこちらの思惑以上の予算をとってくれていることも多々あり、一番方法としてはスムーズ。WIN-WINにもなりやすいが難があるとしたら、なかなか本音を聞き出すことができないこと。
「やれることはピンキリなんで、予算次第であわせます」というと結構教えてもらいやすい

で、一体どうすればいいの

種類があるのはわかった、で?と思った人にさらなるアプローチ。それは「実行方法」これがまた4パターンある。

❶見積もりを2種類(複数)準備して出す
これが値決めの種類の「お友達価格」をほんのり匂わせる手段。
1枚目は冷静に通常の価格設定を記載。
2枚目にその価格から「出精値引き」として値引き金額をいれ「あ〜勉強してくれてるな」と思わせる。これをやることでお客さんには相場感を伝えることと、あなたとの関係性でこの金額にしますという単なる単価の値下げではなくなり、場合によっては今後通常価格での取引になる可能性も残せる。

❷料金表を作成してそれぞれの項目の加点見積もりにする
作業工程を細かく設定して、それぞれに単価をいれ、今回の仕事は、これとこれとこれをやりますので、この金額ですという、とてもわかりやすく納得を得られやすいやり方。料金表をオープンにすることで、今後お客さんがリピートする際にもリピートしやすいし、予算を見積もりやすい。ただし、一つ一つの仕事内容について説明責任を求められたり、これとこれを削ってくれという形で値下げにつながりやすい側面もある。

❸月額制の契約を結んでしまう
会社単位のサブスク。年間契約を結んでしまって月額これくらいいただけたら、その中でこういう作業をしますというやり方。
先方の負担は減るし、デザイナーを一人雇ったと思えば安いということで、理解してもらいやすいことと、長くお付き合いする中で新たな仕事も
任せてもらいやすい。ただし、関係性ができていない間はこの方法をとることができずある程度のところでもちかけるのがベター

❹売上連動性の報酬を設定して契約する
ECサイトであったり、商品のブランディングデザインであったり、キャラクターデザインなど「販売物」に対してその成果報酬のような形で契約を行う(レベニューシェアともいう)
利益の何%、いくら売上に対して何%など方法はいろいろある。これは作る側も共に一緒に売っていきましょうという気概を示すことが、できることとお客さんからするとイニシャルコストがカットできるので、とてもいいやり方ではあるが、商品が売れなかった場合タダ働きのような形が続く可能性もあり、また売上につながってくるまでに何年もかかるものもあるので、僕の場合はデポジットという形で着手金をもらってその上で成果報酬の契約にすることが多い

結局のところ値決めとは

ここまで種類と方法について書いてきたけれど、結局のところ値決めとは「人決め」であると結論づけたい。

それはどういうことか。

価格を決めるとは、常に相手がいての相互関係である。価格を決められない人の多くは自分ごとだけに陥っている。

自分が得をしたい、自分が損をするのは嫌だ
自分に自信がない、人からどう思われるか気になる、この仕事がほしい、この仕事はやりたくない
そういうところが、値決めをより複雑にし判断できなくする

仕事の本流は「相手がいてくれる」ことから全てははじまる。

依頼してくれる人、買ってくれる人、相談してくれる人、その人たちがどういう背景にあって、何に困っているのか、何を実現したくて、何を期待して自分を頼ってくれているのか、そういう人を見ることに興味を向けていくと値決めは楽になる。

値決めはお金を奪う行為ではない。むしろ共に今よりもっとよくなるために、必要な行為なのだ。
孟子の言葉で「先義後利(せんぎこうり)」という言葉がある。

道義を優先させ、利益を後回しにすること。
▽「義」は人として当然あるべき道の意。「利」は利益のこと。

人として当たり前のことを考えてことにあたれば利益は後からついてくる、という不変の真実について残してくれている言葉だ。


仕事の上での当たり前とは何か?それは相手をしっかり儲けさせる、喜んでもらうことに他ならない。相手が利益を得れない、むしろお願いして
損をしたと思わせるような仕事をしていたら、その仕事は続かない。

だからといって、常に安い見積もりを提示しろということではない。逆にしっかりと結果につながる道、やり方を示し、それにはどれくらいの金額がかかるのかということをしっかり伝えていくべきだ。

いろいろなお客さんを見てきて思うのは、金額の高い安いで判断して、結局のところ「安物買いの銭失い」になって、また作り直しやり直しで、お金が二倍三倍かかっていることも少なくない。そんなお客さんを助けなきゃいけない。自分以外の人に依頼したとしても、今度は失敗しないように伝えないといけない。見積もりには、そういう側面もある。

例えば100万の絵を描く仕事をする。
それはこの絵が今後100万以上の利益をその場所やこの絵自体が、生み出すという約束。そういうものに等しい。それができない見積もりは詐欺同然なのだ。

最後に

まずは人をみる、その仕事は世の中に必要なことなのかを見る、自分が関わることでプラスになるなら取り組む。その時にその人の今を見る、どこまでやりたいのかを判断する、そういう総合的な手順を抜きにして値決めは語れない。

とはいえ、値決めにはどこまでいっても正解はない。それは人の数だけ正解があるといっても過言ではない。

最終的には「金額ではない、あなたに任せたい」
「あなたと仕事がしたい」と言われ続ける状態をつくっていく、最後には値決めのことなんかどうでもよくなる状態それが僕らの最終ゴールだといってもいい。

そのために僕らは今日も勉強し、情報をとり、最新のものを見て、常にお客さんの頼れる頭脳になっていく努力を怠ってはならない。
高い金額で買ってもらうには=自分の情熱を傾けてきた時間だということを忘れてはならない。値決めとは永遠のテーマでありながら、実はそこにはなんの価値もない、禅の思想のようなものかもしれない。



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