『立方体おじいちゃん』 ショートショートnote杯(最終選考作品)
今年で160歳になるおじいちゃんの誕生日は盛大に祝われた。「100歳まで生きられたら嬉しいねえ」と言っていたおじいちゃんはそこから更に60年生きてきたのである。
「ご飯の用意できましたよ」という母の声を聞いて、おじいちゃんが和室から居間に入ってくる。おじいちゃんの体はサイコロのように立方体で、カタンカタンと転がりながら進んできた。
昔からおじいちゃんは腰が悪くて曲がっていた。160年もの長い年月を生きて徐々に曲がっていった腰はいつしかおじいちゃんの形そのものを立方体へと変えてしまったのだ。
カタン。おじいちゃんが顔のある面を上にして私たちに言う。
「こんな大袈裟に祝わなくていいのに」
母が返事を聞かせるために、今度はおじいちゃんを耳のある面にひとつ転がした。
「おめでたい日なんですから今日くらいいいじゃないですか。ですよね、おばあちゃん」
母がそう言うと、170歳の球体おばあちゃんは微笑みを見せてバウンドした。
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