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『立方体おじいちゃん』 ショートショートnote杯(最終選考作品)

 今年で160歳になるおじいちゃんの誕生日は盛大に祝われた。「100歳まで生きられたら嬉しいねえ」と言っていたおじいちゃんはそこから更に60年生きてきたのである。 「ご飯の用意できましたよ」という母の声を聞いて、おじいちゃんが和室から居間に入ってくる。おじいちゃんの体はサイコロのように立方体で、カタンカタンと転がりながら進んできた。  昔からおじいちゃんは腰が悪くて曲がっていた。160年もの長い年月を生きて徐々に曲がっていった腰はいつしかおじいちゃんの形そのものを立方体へ

    • 短歌 12月【蓋】【自由詠】

      第191回「短歌ください」に送った短歌10首です。 【蓋】 煮え加減確かめるため蓋を手に持っているとき防御が上がる 三鷹市が萎んでしまわないようにマンホールで蓋 バス通過する 公園のベンチで開けるお弁当 シャケの切り身も青空を見る 【自由詠】 ピュレグミが日陰に落ちて冷えている ハートの我が身、保ったままで 微笑んでストロベリーラテ崩してく コップの中で夜と混ぜ合う 海鮮を食べ終えた足で海へ行き「ありがとうね」の足跡残す 足湯には足湯のための湯が流れ館内歩く

      • 短歌 11月【好きな場所】【自由詠】

        第190回「短歌ください」に送った短歌13首です。 【好きな場所】 映画館最後列に座り込み貞子が来ても逃げれるように 影は伸び時間によって溶かされる サプライズなど無縁の飲み屋 図書室の密度の高い静寂をページによって切り刻んでく この階も上の階にもその上の階にも男子トイレがあると 狭くても狭いながらに暖かい出口はひとつ塞ぎ放題 室内ドームいくらなんでも広すぎてこんなの外のモノマネですよ 【自由詠】 鉄板のお通しで出たゲソふたつ温度を確かめる方の足 市販薬な

        • 短歌 10月【見かけなくなったもの】【自由詠】

          第189回「短歌ください」に送った短歌5首です。 【見かけなくなったもの】 駄菓子屋で初めて役に立つ算数 財布取り出しバリバリ開く 中学の時まで屋根や電線に密かに忍者を走らせていた うそまってあのトランクスどこいったうそだろまじかあのトランクス 【自由詠】 コボちゃんの4コマ目だけを切り取って人それぞれの結を迎える 離陸して思考は海に落とされる今年一番月に近づく

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        『立方体おじいちゃん』 ショートショートnote杯(最終選考作品)

          短歌 9月【マヨネーズ】【自由詠】

          第188回「短歌ください」に送った短歌10首です。 【マヨネーズ】 お互いのMyマヨネーズのキャップ取り交換し合うマヨラーの恋 弁当が温まる時マヨネーズは電子レンジに張り付いて見る 無人島ひとつ持ってくマヨネーズ草にかけたり話しかけたり マヨネーズ風ケチャップをブロッコリー風アメリカンドッグにつける お母さん明日図工でマヨネーズ容器を2つ使うんだけど 【自由詠】 誰かから蹴ってもらうの待つように街の隅っこ空き缶が立つ マルチ勧誘されている男性のテーブル席にも

          短歌 9月【マヨネーズ】【自由詠】

          短歌 8月【ポケット】【自由詠】

          第187回「短歌ください」に送った短歌10首です。 【ポケット】 マジシャンのポケット内の鳩たちはお互い見ないようにしている 旅先の空気をポケットの中にしまって車は家へと向かう 少年はポケットに砂を詰め込んで空へと飛んでいかないように ポケットの万歩計を意識していつもの歩幅忘れてしまう 四次元の入り口となるポケットが私の腹になくてよかった 【自由詠】 待ち合わせしている人を後ろから優しく照らすトリキの看板 20時を回りケバブが痩せている 味の選択限られている

          短歌 8月【ポケット】【自由詠】

          「暮らしの中に」 漫才

          2人用の2分半くらいのネタで、表記はA.Bとしています。 A 〇〇です。お願いします。 B お願いします。最近悩み事があって。 A どうしたんですか。 B 俺いま一人暮らししてるんですけど。もしかしたらよ、もしかしたら、俺以外に誰かもう一人住んでるかもしれないんだよ。 A え、なに、やだ B ていうのもさ。やたらとトイレットペ―パー減るの早くて。 A はいはい。 B 他にも、誰かの飲みかけのジュースが冷蔵庫の中入ってたり。 A ええ。 B 着たことないタン

          「暮らしの中に」 漫才

          「バイオリン」 漫才

          2人用の2分ネタで、表記はA.Bとしています。 A 〇〇です。おねがいします。 B おねがいします。僕、何かカッコいい趣味持ちたいなと思ってて。 A 趣味ねー。 B そしたらこの前、バイト先の先輩にバイオリン貰ったんですよ。 A バイオリン貰うなんてあるんだ。 B 要らなくなったバイオリンやるよって。 A それバイオリンで聞く事ないな。ギターとかで聞くやつだよ。 B でもいざバイオリン貰っても、どこで弾いたらいいかわかんないのよ。 A 急に貰ってもね。 B

          「バイオリン」 漫才

          「あだ名」 漫才

          2人用の2分半くらいのネタで、表記はA.Bとしています。 A 〇〇です。おねがいします。 B おねがいします。久しぶりに学生時代の友達と会っても、つい当時のあだ名で呼び合っちゃいますよね。 A その頃のこと思い出してね。 B この前地元帰った時、高校の友達と呑んで。 A いいじゃないですか。 B その時いたのが、ナビ。あと、チンピラ、仏、けーかん。 A なになに。あだ名? B あ、そうそう。 A ちょっともう一回言って。 B まず、ナビ。 A ナビ。あだ

          「あだ名」 漫才

          「鮮度」 漫才

          2人用の2分半くらいのネタで、表記はA.Bとしています。 A 〇〇です。おねがいします。 B おねがいします。 A この前ね、すごく鮮度の良い魚を提供するお刺身屋さんに行ったんですよ。 B 鮮度の良い刺身屋さん。 A さっきまで水槽で泳いでたお魚が、お刺身で出るんだけど、鮮度がよくてお皿の上でまだピチピチ跳ねてるんだよ。 B すごいな。それでいうと俺もこの前、鮮度の良い焼肉屋さん行ってさ。 A 鮮度の良い焼肉屋さん。 B どのお肉も脂のって色もすごい綺麗で。も

          「鮮度」 漫才

          「キリン」 漫才

          2人用の2分ネタで、表記はA.Bとしています。 A 〇〇です。おねがいします。 B おねがいします。この前休みの日にすることなくてフラッと埼玉県行ったんですよ。 A あ〜珍しい人ですね。 B 埼玉ブラブラ歩いてて、横断歩道で信号待ちしてたの。そしたらさ、横断歩道の向こう側に、いたの。 A 何が。 B キリン。 A キリン? キリンってあの? 首の長い? B そう。埼玉県でキリンが信号待ちしてた。 A 律儀だね。 B キリンって街中で見るとすんごい大きく見え

          「キリン」 漫才

          短歌 7月【正義】【自由詠】

          第186回「短歌ください」に送った短歌10首です。 【正義】 ヒーローは遅れるために日頃からあえて各駅停車を使う 坂道で立ち漕ぎしてる野球部を電動チャリで抜き去るおばさん しりとりで「正義」に対し「牛スジ」と返され俺は「慈愛」と返す コンビニのラーメン棚に「この夏はシーフードだ」と書かれたポップ 物件を選ぶ際には駅近や日当たりなんかよりも静けさ 【自由詠】 尻文字で「引退」と書き翌日の一面飾る尻の残像 手に帽子 向かいの風を追い風に変換させて逃げようとする

          短歌 7月【正義】【自由詠】

          短歌 6月【寝不足】【自由詠】

          第185回「短歌ください」に送った短歌10首です。 【寝不足】 寝不足のウルトラマンは目を覚ますために2分も使ってしまう くゆらせた紫煙にのって意識まで換気扇の外へと逃げる 朝露が降りたホームのアナウンスわたしを滑り景色の中へ 看板を読み間違えてしまうこと 遠回りは目を覚さないこと 寝不足の体育教師が木に向かい「座って待て」と怒鳴りつけてる 【自由詠】 引き抜いたマンドラゴラの口元に草笛を添え音色に変える 通勤の電車に鹿が衝突し電車も鹿も遅延している 落ち

          短歌 6月【寝不足】【自由詠】

          短歌 5月【縄跳び】【自由詠】

          第184回「短歌ください」に送った短歌11首です。 【縄跳び】 縄跳びは機内に持ち込みできません 今ここで跳びきってください 大盛りが無料でできますあとそれと食後の縄跳び用意してます 小田くんの二重跳びには近づくな 触れた羽虫が燃えたと噂 イヤホンを使う私に嫉妬した縄跳び強く強く絡まる 暗闇で七色に光る縄跳びがどうやらこちらに近づいてくる 【自由詠】 落とされた手袋いまは道端のポールの先を温めている テレビ越し どんな坂にも意味はあり与えるように女は走る

          短歌 5月【縄跳び】【自由詠】

          短歌 4月【じゃんけん】【自由詠】

          第183回「短歌ください」に送った短歌15首です。 【じゃんけん】 人間を殴ったことのないグーも余ったプリン手に入れられる カニたちは勝ちたくてチョキを出している その気になればグーでもパーでも パーは紙 石を包んで勝ちらしい 石の強度が増しただけでは 【自由詠】 スイーツを乗せた配膳ロボットがベテランを角に追い詰めている 壁紙を補修している新聞の少女 少女のまま褪せている 公園の水の勢いあまくみてビチャビチャになってしまう前髪 達筆に書かれたメニューの「ガ

          短歌 4月【じゃんけん】【自由詠】

          短歌 3月【静電気】【自由詠】

          第182回「短歌ください」に送った短歌20首です。 【静電気】 義母の飼う猫が体をすりつけて私に溜まっていく静電気 髪の毛を立たせるために下敷きを母親は子に買い与えてる ピカチュウを肩に乗せてるサトシでも静電気除去シートに触れる IKKOが人差し指を揺らめかせ静電気掻き集めてくれる この街で鳴ったすべての静電気繋ぎ合わせて第九を奏でる 大切な人の差し出す大切な右手に落としてしまう雷いかづち 静電気許せず訴訟起こしてもドアノブに完敗してしまう 右腕が繊維の森を

          短歌 3月【静電気】【自由詠】