人生初の野外フェス。ナガノアニエラフェスタ2024 Day2記録(+長野旅行記)
私は、自分で認識していた以上にこのフェスのことを楽しみにしていたのかも知れない。推しが出演するということは勿論だが、何より私にとって野外の音楽フェスに参加するのは初めての経験だった。
そう、私にとっては人生初の野外フェスだった。屋内型のフェスも、単独の野外ライブも、ストリート形式のフェスも経験はあるが、ロックフェス等でよくあるこの形式の野外フェスは初めてだった。
出演者が発表され、雨でも行くという強い意志でチケットを買ったこと。当日の天気予報に一喜一憂し、屋内と違って何を持っていく必要があるのかと調べたこと。出演者の組み合わせから、サプライズやコラボがあるのかも知れないと期待したこと。雨の降る中、高速道路のトンネルを抜けた瞬間に広がった晴れ間に歓喜したこと。
何度も参加している人にとっては今更新鮮に感じることはないかも知れないが、初めての私にはどれも得難い経験であったことは間違いない。
しかし。発生すべからざる事態まで経験することになってしまった。直接的に身体への被害を被ったわけでは無いが、少し時間が経って自分の精神状態を顧みると思ったよりダメージを負っているようだ。とは言え、人にこのことを話したり仕事に勤しんだりと時間が経つにつれ徐々に癒えてはいる。しかし同時に、当時の感情も薄れつつある。
徐々に薄れていってしまうのは仕方がないものだとは思うが、まだ熱が残っているうちに。祈り、願っている人がいることをこのような形で記しておきたい。
このフェスに並々ならぬ思い入れを持って参加している人も多数いる中、初めて参加する私如きが……と思わなくもないが、こういう一参加者もいたという記録を残しておくのも無駄ではないかもしれない。
あくまで一参加者の綴る随筆、あるいはその後の長野観光まで含めた紀行文として執筆するので、興味があればそのつもりでご覧いただきたい。
開催発表〜チケット購入
開催が発表されたのはもう4ヶ月ほど前のことでしょうか。同時に出演が決まっていたアーティストも発表されました。アイドルマスターシャイニーカラーズのファンとしてアンティーカとコメティックの出演は見逃せない……のですが、それ以上に峯田茉優さんの出演が決定したのが大きい。
昨年は荒天により中断となり登壇が叶わなかったためリベンジであり、長野出身のため凱旋でもある。シャニマスでの演技、ライブパフォーマンス、配信番組での様子などで大いに楽しませていただいていることに加え、出演作品だけでなくアーティストとしてリリースした楽曲も聴いている。それ故に個人名義のアーティストとして出演するなら応援に馳せ参じたい。そのような想いで、アンティーカ・コメティック・峯田茉優をメインとして参加することにしたのです。
とは言え、当日に仕事が入ってしまっては元も子もない。開催1ヶ月前頃に予定が確定し、間違いなく現地に行けるとなってからチケットを購入。
なお、Day1には同じくシャニマスのキャストである黒木ほのかさんが所属するサンドリオンが出演しますが、同日に別の予定(シャニアニ舞台挨拶)があったため断念。
チケット購入〜開催前日
チケットを購入したのが約1ヶ月前。このくらいの時期から、予報精度は低いものの当日の天気予報が出始めます。予報では……当日は大雨。開催できるかどうかというくらいの大雨の予報。まぁ随分先の予報なんだからそんなに悲観することは無い、近くなってきて精度が上がってきたら本格的に検討しようと楽観的に考えていました。そんなこと言いながら毎日複数の予報サイトでチェックしていたんですが。
更に、出演が決まったアーティストが次々に発表され、最後にタイムテーブルが発表されました。知っているアーティストも増え、優先度の高いところからどう動くかと考えるのも複数ステージが設けられている野外フェスならでは。そういうことを考えるだけでも楽しい。
せっかく3連休の中日に佐久まで行くんだから次の日は長野市辺りの観光もしてから帰ろうと思い、宿を手配したり観光で巡る場所を調べたりと、具体的な行動予定も立て始めました。
開催当日〜現地到着
そして開催当日。予報では現地の天気は曇り、気温もかなり低くなっている。雨にはならなそうで良かった……と思いつつ、私の住んでいる地域は雨。バイクで向かう予定を変更せざるを得ないほどの大雨では無いため、レインウェア完全装備で高速道路を2時間以上走り佐久へ向かいます。
関越道側から上信越自動車道に入り、群馬県側を走っている時はずっと小雨。しかし群馬から長野に抜ける県境の長いトンネルを抜けると、そこには青空が広がっていました。青空の下、レインウェアを脱ぐために佐久平PAに停車すると、そこからは駒場公園のある佐久平が一望できます。これからあそこに行くんだ……空模様と雄大な地形に否応なく期待が高まります。
フェス開催〜13:50頃
佐久平のスマートICから駒場公園は遠くない。ほぼ予定通り、11時過ぎに会場に到着。駐車場で身支度を整え、入場ゲートに向かう人達に混ざって歩いていき、ゲート前でリストバンドを付けてもらう。目当てとしているシャニマスのステージはまだ2時間も先だというのに、否が応でも期待と興奮が高まっていくのを自覚します。
テンペストステージへと向かうと、既にトップバッターであるスピラ・スピカのパフォーマンスは始まっていた。正直に言うと、スピラ・スピカの名前は聞いたことがあったが曲は知らない(この後のDIALOGUE+もi☆Risも同様)。そのため、後方で眺めるかエリア端の木陰でゆっくり聞くか……程度に考えていました。
しかし。爽やかで力強い歌声。ノリの良い楽曲。軽妙なMC。演者が作る会場全体の雰囲気。そして予想していなかった、聞き覚えのある曲……『STAND UP TO THE VICTORY』。やはり知っている曲が来ると一気に引き込まれる。気づけば観客の集団の中にいた。
そこからはもう、DIALOGUE+もi☆Risも観客密集地帯の中で観た。演者の名前も曲名もひとつも知らないし、一部ファンの気合の入ったコールなどに圧倒されもしたが、(この人めっちゃ歌うめぇ)(フォーメーションダンスすげえ)(腹筋バキバキ)などと思いつつ、客席指定のライブと比べれば相当な前方で観た。
もちろん、その次に登場するアンティーカとコメティックをできるだけ前方で観たいという思惑もある。
13:50頃〜14:50頃
i☆Risが終わって、10分ほど間が空いてからいよいよ……だが、13:50頃に運営アナウンスが入る。「ステージの進行を一時中断する」。昨年を知っている人からすれば、小雨が降っていた状況でもあり雷を警戒してのことかと予想する。あるいは機材トラブルか。少なくとも見える範囲では雷雲の出る気配は全く無いが……とにかく、この次のステージのためにここまで来たのだ、一歩も退くわけにはいかない。
14:00頃。本来ならステージが始まっている時間。だが、再度運営アナウンスが。「ステージの進行を一時中断している」。新しい情報は無い。……そんな中、周りから声が聞こえてくる「刺された」「物販のあたり」など断片的な情報。まだ噂レベルに過ぎないことを鵜呑みにしてはいけないし、デマだとしたら踊らされてパニックになるのは愚の骨頂。何より、運営から何のアナウンスも無い。途中、雨が降ろうが日が照ろうが、この次のステージのためにここまで来たのだ、一歩も退くわけにはいかない。(もちろん体調に異変を感じたら退くだけの理性と判断力は失っていないつもり)
そのまま耐え難い時間が過ぎた。何が辛いかと言うと、何より情報が無いのが辛い。
ついに一部の観客が離脱し始めた。14:40、本来ならシャニマスのステージは終わっている時間。しかし、それでも待ち続ける。それしかできることは無い。
そして14:50頃。「客同士のトラブルにより、フェスを中止する」。
……断片的に得ていた情報から、そうなるだろうなとは薄々思っていた。そう言われても驚かないように心の中に予防線は張っていたし、そう決定された以上は粛々と退場する以外にできることはない、警察が入るなら速やかに立ち去るべきだと理解していた。
退場に向けた準備をし始めたが、明らかに足取りが重くなっていることが自覚できた。
「フェスを中止する」とアナウンスされた時や「返金対応について云々」と案内があった時にも拍手が起こったが、私はこのタイミングで拍手してよいのか疑問があったため、結局拍手できなかった。何らかの形で運営を励まし労いたい気持ちはあったが、どうするのが適切だったのかその場では即座に判断できなかった。
とった行動がどう解釈され得るかなどと深く考えずに拍手しつつ「お疲れ様」「来年また来るぞ」などと言えればよかったのかも知れない。
中止が発表されてから数分後、大雨になった。
規制退場〜宿泊地へ
大雨の中、粛々と退場してゆく観客。その中に混じって私も退場する。恐らく入場ゲートのすぐ近くで事件が起こった関係で、その辺りを通らないようにテンペストステージ入口向かい側に退場口が開かれていた。本来その予定は無かったところに導線を急遽通したのかも知れない。
退場し、少し雨が小降りになったところで急いでレインウェアを着込み、バイクにまたがって宿泊地の長野市街へ向かう。ここから離れた時点で、私の中のフェスは終わる。しかしもはや会場でできることは何もない。そんな無力感に苛まれながら、とにかく宿泊地へ行ってしまおうとバイクを走らせた。宿を予約していなければ間違いなくこのまま帰宅していた。
佐久ICに向かう途中、県道138号線に入ると浅間山が正面に見えた。樹木の生育を許さぬ赤黒い山肌。外輪山に囲まれた雄大な山体。数年前、外輪山の黒斑山に登って間近に前掛山を望んだときのことを思い出した。個人の無力さとは比にならない壮大な風景に、僅かながら慰められた気がした。
1時間ほどで長野市の宿泊場所に着いた。予定では22時くらいにチェックインしてシャワー浴びて寝るだけのつもりだったが、まだ明るいうちに着いてしまった。この時間ならまだできることはある。いや、何かしていないと落ち着かない。
急いで善光寺へ向かうと既に本堂は閉まっていた。それでも、本堂の前で来年の開催を一心に祈った。
善光寺から立ち去る頃には、すっかり暗くなっていた。そこでようやく、疲れと空腹を自覚した。それもそのはず、朝8時に朝食を摂ってから、会場で配っていたライフガードしか摂取していないのだ。空き時間に食おうと思っていたフェス飯も結局食えなかった。
どうせなら蕎麦でも食おうと思ったが、善光寺参道周辺の店は日が落ちるころには軒並み閉まってしまう。彷徨った挙句、辛うじて開いていた店に飛び込むと、望外に美味い店であった。散々な1日の最後に救われた気持ちになると共に今日のことが去来し、何故か涙腺が緩むのを感じたため、顔をしかめながら蕎麦を平らげた。
翌日早朝~長野観光
失意の中とはいえ長野まで来たのだ。宿に着いてから就寝するまでの間に、翌日何をするか情報収集を行った。事前に大まかに立てていた予定としては、午前中は善光寺参り、午後は戸隠神社へ参拝。こうなった以上、祈ることはただ1つである。
情報収集する中で、善光寺には「お朝事」というものがあることを知る。この日は朝6時ちょうどに始まるとのこと。せっかくなのでこれに参加し、「お数珠頂戴」を頂くことにした。
翌朝は5時起床。宿から善光寺までは約1.5km、軽いランニングで向かい、お朝事が終わったらまた走って宿に戻り朝飯を頂く。心は晴れずとも、身体的には実に健康的。
朝飯の後はあまりゆっくりする時間もなくチェックアウト。再び善光寺参道に行き、八幡屋礒五郎で七味唐辛子を買うなど土産を物色した後、戸隠へ向かう。
参拝のついでに昼飯は戸隠そばにしようと思っていたのだが、戸隠神社中社の目の前にある有名店はさすがの並びよう。先に奥社に参拝することにした。
奥社がどのくらいの山道かわからなかったので念のためトレランシューズを用意していたのが正解だった。参道は序盤こそ平坦だが、後半で崩れかかったような石段や凹凸の激しい坂道が連続する。おまけに、奥社の社殿に着いた頃に運悪く大雨になった。参拝者は多数いたが、サンダルやスニーカーではかなり注意しなければ転倒、そうでなくてもずぶ濡れで酷く不快だったことだろう。
下山したところにある蕎麦屋に並ばず入れたため、もうここでいいやと思いこの店で戸隠そばを頂いた。そこで出てきた蕎麦がまた美味いこと。本当にどこで食ってもこんなに美味いものなのかと長野の魅力の1つを堪能できた。
さて、ここで良い時間になったのでもう帰宅することにした。一回長野市街まで戻って給油、その後に高速道路に乗って一気に自宅へ。いろいろあったけど、まあ概ね良かった……とはとても言えない、しかし無力感だけではなく色々なものが得られた遠征となった。
ライブ翌日の行動まで記載するのは明らかに蛇足だろうとは思ったが、無事に開催されていればここまで含めて書くつもりだったので、あくまで当初の予定通り旅行記のような形式にした。
こんなライブレポや旅行記が書きたかったわけではないし、こんな気持ちで善光寺や戸隠神社に参拝するつもりではなかった。なぜこんなに引き摺っているのか。
好きなアーティストが見られなかった。
好きなアーティストがステージに立てなかった。
昨年ステージに立てず、今年も立てなかった演者がいる。
長野出身者の凱旋だったのに、ステージに立てなかった演者がいる。
知らない演者の素晴らしいパフォーマンスを知る機会が失われた。
観客に自分の力を知らしめる機会を失った演者がいる。
時間と労力を割いて作ってきたものが一瞬で破壊された。
自分の感情がその理由の1つであり、他者を慮っているのも理由の1つである。どれも間違いではないし、一言で表せるほど単純な感情ではない。
今回の経験から、間違いなく言えることがある。来年、ナガノアニエラフェスタが開催されるのであれば、何をおいても最優先で参加したい。私自身が開催主体になれるわけも無いが、開催しようという動きがあり支援を求めるのであれば、可能な限り支援したい。
現時点では、運営も軽々に発言していないことから分かるように、次回開催できるかどうか非常に不透明である。しかし諦めてはいないことも伺える。開催できたとしても今までとは大きく形態を変えざるを得ないだろう。
それでも、こんな形で終わっていいはずがない。フェスを破壊するのは1人で容易に行えることが実証されてしまったが、フェスを作り、育て、続けていくのは膨大な人の力が必要である。
私も、その中の1人になりたい。
単にチケットを買って参加するだけの関わりになるかも知れないが、開催されなければ関わることすらできないのだ。
冒頭で引用した曲の歌詞。特定のアーティストにフォーカスすべき事態でないのは理解しているし、直接的に本フェスと関係があるわけではないが、移動中に聞いていたプレイリストの中から不意に流れてきて涙を禁じ得なかった。次の一節と合わせて紹介させていただきたい。
10/19追記
先日公式からアナウンスがあったとおり、支援のクラファンが立ち上がりました。私も開始当日に支援させていただいております。初日に早くも目標額は達成していましたが、個人的にはこの程度の目標額では各所への損害補填や警備体制の強化などで膨らむであろう次回開催費には全く足りないのではないかと考えます。
当然、加害者に賠償請求は行うでしょうが莫大な額となるためすぐに支払われるわけでもなく、そもそも請求額全額の支払い能力がない可能性もある。
収入の主要部分を占めるチケット代がDay2分返金対応となったことで、財務上は明らかに赤字でしょう。あくまで私の考えですが、「チケットの返金手続きをとらない」より、「粛々と返金してもらった上でクラファンで支援する」方が、決算などの事務処理上も予算の執行計画を立てる上でも都合がいい気がする。……いや、そこまで気を回して対応を決めるべきではないかも知れません。
クラファンで支援すれば公式グッズなどのリターンもあります。せっかくなので、当日買えなかったグッズがあればこの機に貰うのも一つの手でしょう。もちろん、このクラファンの目的であり最大のリターンは「ナガノアニエラフェスタの開催」ですが。