歌人見習いが車の免許を取るまで日記その11
四日間の凍狂滞在を終え、山口へ。
母とランチと思っていたのだけど、飛行機の時間をまた勘違いしていてランチどころではなかった。行きも勘違いしててあと5分遅かったら乗り損ねるところだったのに。慌てて家を出る。なむさん。
毎度凍狂に来てもなかなか人と会えないのだけれど、しかし必ずなんとかして会いたくてそして会ってくれている友達がいる。
昨日はその友人と朝から日暮里で待ち合わせ、谷中銀座、上野、スカイツリー、浅草とぶらり東京散歩。
もちろんお酒を飲みながら。ここが大変重要である。正午前からビール片手にメンチカツ。吉田類もびっくりだ。
彼女と飲むと必ずと言っていいほどベロベロになるので「ベロベロ会」といつのまにか名前がついた。これまで月一ペースで会は催され、その度凍狂のどこかで二人、ベロベロになっている。四ツ谷、新橋、秋葉原、御茶ノ水、神田等々。飲み歩いた店とその場で意気投合した人は数知れず。
今回選んだ谷中銀座から上野へは以前も彼女と歩いたルートで、その時は日本酒片手に駄菓子屋で見つけた「にんじん」というポン菓子をつまみながら富士見坂を上ったのだった。酔っているのでポン菓子は道にぽろぽろ落ちる。手には透明の液体。ひとりだったら大変な怪しさだけれど彼女と歩けばそれはそれは愉快な道。
上野のアメ横で飲んだり、スカイツリー周辺を冷やかしたり、夕方には浅草のつぼ八で延々とハイボールを飲み続けた。段々酒の味が分からなくなり、「水飲んでるみたいじゃない？」と言うと「えっ、最初から水みたいだよ！」と返される。スゴイ。飲んで飲んで、それでもまだ午後八時とかなので、二人ともテンションが上がり、浅草の街へふたたび繰り出す。
浅草の、なんていう通りなのか、とにかく屋台のようにたくさんテントが立っていて半分外飲みスタイルというエリアがあり、そのうちのひとつの店へ。ビールで今日何度目か分からぬ乾杯していると、横にいい感じに出来上がった三人の男女がやってきてすぐに意気投合。
一人の男性は西城秀樹氏に似ているとのことでヒデキと呼ばれていた。あとの二人はご夫婦だという。「ねーちゃんたち好きなもの頼みな！あ、ホッピー！ホッピー飲みなさい！ホッピー二つ追加ね！」と言われありがたくご相伴に与る。すると後ろの席のやんちゃな趣の男女三人がヒデキに向かって「おにーさんこっちも〜」なんて言う。ヒデキはもちろん「いいぞー全部オレのおごりだー」とかなんとか言ってそこからはもうなんかずっとみんなで笑っていた。
やんちゃな趣のハッピ着たお兄さんがふんどし一丁になって踊っている。「おれ明日だってよー四時半起きだよアハハ」と結局一番飲んでベロベロになったヒデキが言う。ヒデキとやんちゃなお兄さんががうるさくて隣のお姉さんが何を言ってるか聞き取れない。「だーから息子にもあたしは言ってあげたんだよお」「アッおめーなにすっ」「お飲み物ラストオーダーでーす」「あー飲め飲めほんともう全部オレのおごりだー飲めええ」
✳︎
そしてワタシは。この混沌極まりないめちゃくちゃないっときにこそ「あー生きちゃってるこのワタシ」というものをどうしても見出してしまうのである。や、渦中にいればそんなワタシを客観視することは不可能だ。ワタシはもはや「場」そのものだ。みんな笑っている。ワタシは笑っているのだろうか？アハハと多分言っている。でもワタシはただそこに在るだけだ。なんだろう。分からない。でも、今、ここにいる。友人はどうだろう？笑っているか。みんな笑っている。みんなって誰。この人もこの人も知らない人だ。ヒデキって。ヒデキってあのヒデキか。亡くなった。なんでこんなに楽しく一緒に笑い合っているんだっけ。浅草。今。今なのだなあ。
お酒を飲まなくたって、ここに今生きていることを実感することはできる。そりゃできるよ。飲めるからいいって話がしたいのでは、ない。しかしワタシが解体されてバラバラになってただ場として在る感覚、というのはなかなかないものだ。限りない今今今、今という今の矢を全身で受け止めながら、その矢がワタシを突き抜ける、その瞬間をベロベロになりながら実感している。のだと思う。
…お酒、ヤバイ。というか酒を飲んでる自分、端的に言ってヤバイ。は？ワタシが解体？ワタシは場そのもの？完全にトリップしてしまっている。クスリだ。クスリと同じだよ。だめですよ。あなた、ただの飲み過ぎです。お酒はほどほどに。節度を持って。分かりましたか？
はいでは次の方ー入って下さーい。
✳︎
しかしワタシたちはまたあてもなく、「今、ここの実感」を求めて凍狂の街をさまようのだろう。
人の世にたのしみ多し然れども酒なしにしてなにのたのしみ （若山牧水）
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？