見出し画像

感想屋さんにインタビューしてみた【感想&校正全文公開】【連体修飾コラム】

■感想屋さん回の動画まとめ
#6 感想屋さん4人同時に依頼したらすごかった件
・サネアツの体験談、4人それぞれどうだったか
・ミスマッチ例、こんなこともあったよ
#7 感想屋激推しおたよりが5000字来たので読んでく
・みなさんからいただいた有料感想レポの要約を読む(全文はこちら
(よかったコメントまとめ/気を付けるといいことまとめ)
・依頼でない感想と有料(依頼した)感想の違い
#8 感想屋さんにぶっちゃけインタビュー!
00:00:00 ゲストのリリ先生はどんなひと?
00:08:36 訊きたいこと全部質問してみた
01:03:17 感想屋さん側からいただいたおたより(全文はこちら)
01:18:45 初体験!実際に感想&校正をしてもらったレポ【←コレ】

■感想&日本語アドバイス提供側の山内リリ先生がゲスト

過去何度もお世話になっていて、俺が一方的に大好きなリリ先生がゲストに来てくれました!わ~~い!!

感想と校正ができる!方で、マメな書き込み感想と確かなソース付きの文法の知識がハチャメチャに信頼できるお方です。

↓詳しくはブログをCheck!↓

過去、ペチカちゃんのお記事に嬉しい推薦文を書いていただいたこともあります。ワイら頭があがらねえだよ。

■質問したこと!

皆さんのまわりに感想屋さんってどのくらいいらっしゃいますか?
「〇〇ってどうなん?」と質問したことはありますか?

……最近できた概念だし、結構レアなお仕事なんじゃなイカ?
あんまり、感想屋さんからのナマの意見って、訊く機会ないんじゃなイカ!?!?

動画内でも「ユーチューブ初進出じゃね!?」って言ってたけど、試しに検索してみるか……。

トップにきてたゾイ

感想屋さん、ユーチューブ初進出じゃんね!?わ~~~~~~~~!!
というわけで、ココでしかきけないかも!張り切って質問しました♡

実際に、こんな感じで訊いてみました!

【質問リスト】(一部)
♡日本語を深く愛するようになったきっかけ・理由はあるのでしょうか?
♡どのような時にやりがいを感じますか?
♡感想、校正屋さんをしていて、ご自身の作品に変化はありましたか?
♡おまかせコースは「激辛」(打ち合わせあり、踏み込んだ内容)とのことですが、実際どのような感じなのかご紹介いただけないでしょうか?
♡これまでのご経験で、珍しい・ユニークな依頼はありましたか?
♡良い依頼人、困った依頼人のお話しできるようなエピソードはありますか?
♡感想・校正サービスを利用するのに向いている作品というものはありますか?

答えは動画で確かめてみよう!

■目玉企画「実際にやってもらってみた」

よんちゃんのSSに、なんと……実際に感想&日本語アドバイスを書き加えていただきました!!!!わ~~~~!!!!

動画内でも色々語っていますが、実際のファイルはこちら!
アドビのアクロバットリーダーでのみコメントが見れます。
ぜひ全コメント見てください!

PCではこんな感じに見えます
スマホアプリも同様

いや~~……密度、濃ゆっ!

「空はすっかり明るくなっていたが」へのリリ先生コメントと、よんちゃんの返信
※依頼者のPDF返信は義務ではなく、したいからやっています
わかる~
友達の誕生日プレゼントとして(同意をとったうえで)依頼することもできそう!と今思った。嬉しすぎるって

動画でも「生の喜びの声」を聞ける!
見てるだけのワイもすごくいい気持ちになったし、勉強になりました!!
ぜひ見てください!リリ先生のブログにも詳しいサンプルがあります。

■日本語解像度アップ!連体修飾コラム

また、リリ先生は連体修飾構文を愛しておられるのですが、動画内に入れられなかった語りがあるので、こちらに転記させてください。

Q、どのようなときにやりがいを感じますか?
A、依頼者様に喜んで頂けた時です(動画で言及あり)。
 あとは「え、この日本語めちゃくちゃ興味深い!」と思えた瞬間もやりがいを感じます。
 私は連体修飾構文(≒「名詞修飾」「名詞句修飾」「複合名詞句」「関係節」)が大好きで、ご依頼作品の中に連体修飾構文が沢山あるとテンションが上がりますね。例えば、「木でできたベンチで桜を眺めていた私の隣に座った彼が、自販機で買ってきたブラックコーヒーを、何を考えているか分からない顔で渡してくる」みたいな感じです。
 連体修飾構文は読んで字のごとく、体言(=名詞)に連なる修飾をする構文です。ざっくり言うと「連体修飾節」と「主要名詞」からなっていて、今しがた挙げた1文では、

「木でできたベンチ」(←ベンチが木でできている)
「桜を眺めていた」(←私が桜を眺めていた)
「木でできたベンチで桜を眺めていた私の隣に座った」(←彼が~私の隣に座った)
「自販機で買ってきたブラックコーヒー」(←ブラックコーヒーを自販機で買ってきた)
「何を考えているか分からない」(←顔から何を考えているか分からない)

が連体修飾構文になっています(主要名詞を太字にしました)。
 私はこういう文に出会った場合、たいてい「連体修飾構文が多い」と分析して、「私がベンチで桜を眺めていると、彼が隣に座った。何を考えているか分からない顔で、自販機のコーヒーを渡してくる」のような、連体修飾構文をあまり用いない言い換えをご提案しています。けれども時折、レトリカルに連体修飾構文を駆使する文に出会うと、非常に感嘆しますね……。何度も声に出して読み直してにやけた後で、心の額縁の中に飾ります。

※余談 連体修飾構文とは
 日本語学において、連体修飾構文は大きく「内の関係」「外の関係」に分類できます(寺村秀夫先生が考えました)。ざっくり解説すると、内の関係は「太郎が食べたりんご」のようなもので、助詞を使って「りんご太郎が食べた」と普通の文の形に直せます(そしてきっとこの文は、誰でも同じように「を」を用いて復元するでしょう)。これに対し、外の関係は「魚を焼くにおい」「1週間後に結婚する話」のようなもので、普通の文の形に直せません(「においが魚を焼く」? 「話と1週間後に結婚する」?)。

 しかし、「内の関係」「外の関係」で説明できない連体修飾構文も多々あります。例えば「トイレに行けないコマーシャル」(松本善子先生の論文に載っています)は「コマーシャルがおもしろいせいでトイレに行けない」「コマーシャルが目を惹くのでトイレに行けない」のように普通の文に直せます。この「〜するせいで」「~ので」は原因の副詞節を作りますが、普通の文にする際に、欠けている要素の復元の仕方が人によって異なります(この点が「内の関係」と明確に異なります)。松本先生はさらに、「トイレに行けないえんぴつ」は特別な文脈を用意しなければ文として容認しにくい、ということも挙げています。「トイレに行けない」と「コマーシャル」との間には、文法的(=統語的)な結びつきというよりは、意味的(=語用論的)な結びつきがあるから、連体修飾構文が成り立っています。
 また、日本語と英語を比較するとおもしろいことも見えてきます。例えば「座った人をダメにするソファ」の中には、「(ソファに)座った」と「人をダメにするソファ」があり、連体修飾構文の中に連体修飾構文が入っています(これを「二重関係節」と呼ぶ人もいます)。こういう現象、日本語ではよくあると思うのですが、英語にはなかなかないようです。

 このように、ちょっと特殊なものに出会えた時、「やったー!」「嬉しい!」「これなあに?」と気分が高まります。そうしてGoogleスカラーで論文を読み漁って時を溶かします。

参考文献は最後にあります

伝わったね このBigLoveが……

ちなみに過去自分とのやりとりでも、テンアゲして書いてくださったコラムがあるのでぜひ見てください!
……ただ元の文がR指定ギリギリのムフフな内容なので、苦手な方は次の章に飛んでください。

※ムフフシーンです

【元の文】
”ジッパーを下ろされたスラックスの真ん中、下着越しの〇〇に「(健康器具)」が押し当てられていた。数秒で離され、息をひいひい整える。”

わあ、健康になったね

【コメント】
「これはコメントしなければならない!」という使命感に駆られています。ここの連体修飾構文には興奮を禁じ得ませんね……。

連体修飾構文は大きく「内の関係」「外の関係」の2種類に分類できます(詳細は上記参照)。

さて、問題の「ジッパーを下ろされたスラックスの真ん中」を見ますと、連体修飾節「ジッパーを下ろされた」+主要名詞「スラックス」+助詞「の」+名詞「真ん中」という構造になっています。連体修飾構文をひらくと、「(受けキャラBが)スラックスのジッパーを下ろされた」となり、「スラックス」と「ジッパーを下ろされた」との間に「スラックスのジッパー」という全体と部分の関係があるため、「内の関係」にあたるといえるでしょう。
(理論上は「(キャラBの)スラックスがジッパーを下ろされた」という「が」でひらく解釈もあるかもしれません。しかし、「(攻めキャラAによって)ジッパーを下ろされる」という迷惑行為を受けているのは明らかにキャラBさんです。述語が受動態だからといって、わざわざ「(キャラBの)スラックスが」と無生物主語にするのは何か微妙な気がします(それより迷惑受身と捉えるほうがしっくりきます)。そこで私は「(キャラBが)スラックスのジッパーを下ろされた」というふうに「の」でひらいていると思います)

この、「スラックスのジッパー」という関係で連体修飾構文が生起している、というのが堪りませんね。「の」は学校文法において格助詞に分類されますが、言語学ワールドではしばしば格助詞と区別され、「名詞と名詞を結合させる後置詞」と捉えられます。これは「が」(主語=行為者)、「を」(直接目的語=行為の対象)、「に」(間接目的語=目的地)などの典型的な格助詞は名詞と述語との格関係をはっきりさせる役割を持つのに対し、「の」は「とりあえず名詞同士なら何でもくっつけちゃうよ! 結合させた名詞の関係性については、それぞれの名詞が持ってる意味に依拠するよ!」という感じでちょっと曖昧だからです。

例えば、「学校の建物」では「学校が所有する建物」(所有関係)の意味になりますが、「野菜のスープ」では、「野菜を使ったスープ」(材料)の意味になります(「の」の機能は他にも様々あります)。「N1+の+N2」の構文のN1を主要名詞として、「の」で繋がるように連体修飾構文にしようと思ったら、所有関係の「建物が壊された学校」(学校の建物が壊された)はいけそうですが、材料はちょっと無理かもしれません(小一時間考えた結果)。

「ジッパーを下ろされたスラックス」は、「の」の持つ大きな可能性とその裏に潜む闇が垣間見える、思わず興奮してしまう連体修飾構文です。
それだけではありません。ターゲット文「ジッパーを下ろされたスラックスの真ん中」は、「の」による曖昧な結合で成り立つ連体修飾構文の後ろに、更にまた「の」を付加して「真ん中」と続いています!! こちらの「の」は位置関係の「の」ですね。
「の」、あまりにも万能な名詞の接着剤なので、ついつい気軽に使ってしまいますが、時として物書きを悩ませますよね。「の」以外で繋げることが難しいけど「の」を多用したくはない、じゃあ他の言葉にするか? でもなあ……みたいな状況に私はよく陥ります。
「の」は闇。

しかしこの文の「の」に対するバランス感覚は失われていません。「真ん中」の後ろは読点になっています。後ろに「下着越しの〇〇」と名詞が続いているので、「の」を用いて「ジッパーを下ろされたスラックスの真ん中の下着越しの〇〇」とすることは可能です。しかしこれでは27文字の中に3文字も「の」があり、ちょっと「の」が多い印象があります。また、「〇〇」についての言及であることが少し見えにくくなります。そこで「下着越しの〇〇」の前で読点を用いたのだと思われます。

結論! 「の」の使い方、エクセレント!

…………すごすぎ!!!!
こう……ガチじゃん!ガチだよこれ!!国語で習わなかったよ!?
専門知識ってすげ~~!!ゆる言語学ラジオでのガチ講義を思い出しました。

こんなに真面目な内容なのに元になってるのがムフフシーンなので、人生であまり体験したことのない種類の申し訳なさがありました。特殊なプレイか?
それでも!地雷がないと公言してるリリ先生だからこそ、すいません!すいません!っていいながらムフフなものもオホホなものも安心して見せられるんだなあ。

「の」を褒められたの初めてだったけど、こんなに嬉しいんだって思った。
あと「迷惑受身」というパワーワードに笑ったけど(攻めの他害行為にフィーチャーした小説だったため)、調べてみたら文法ワードでした。

② 第三者の受け身(迷惑の受け身・被害の受け身)
  ・(私は)一晩中、赤ん坊に泣かれた。←赤ん坊が一晩中泣いた。
   この受け身文は「自動詞の間接受け身文」である。
  ・(私は)隣人に塀を作られた。←隣人が塀を作った。
    受け身の文で表現されて初めて迷惑を被った人が表されるので「迷惑の受け身」「被害の受け身」ともいわれる。

アークアカデミーさんの「間接受け身/間接対象の受け身」より

ちなみに長めの説明を入れた意図としては、こんな感じでした。
「受け(が履いているズボン)のジッパーを攻めが下ろした描写は数ページ前にある。しかし読者はきっと覚えてないから、さらっと説明して脳内イメージを確定させたい」

さすがに高度な文法知識に基づいた判断ではなかったけど、
"ジッパーを下ろされたスラックスの真ん中にある下着越しの〇〇に「(健康器具)」が押し当てられていた。"
とかにすると長すぎるな~と思って、読点で切った判断だったと思います。

文をいい感じに分割するとこんな感じかな。(完全にフィーリング)

” 太腿に風が当たる。(←いきなりスラックスの描写が入ると違和感が大きいので、呼び水になる文を入れる)ずり下げられたスラックスは、衣服本来の役割を果たしてはいなかった。
「ッ……!」(←文と文の間に連続性がなく唐突に感じたので続けて書きたくない。またセリフを入れることでリアルタイムな描写になる)
 下着越しの〇〇に「(健康器具)」が押し当てられていた。数秒で離され、息をひいひい整える。”

……ちょっと長いな。ここらへんは、大事なシーンかあっさり流すシーンかで描写量を調整したいね。
当時はここまで意識せず、さらっと説明するか~と書きました。長めの連体修飾&句読点でスパッと切りがちなのは、多分俺のクセだ。

自分語りすいませんでした!!

こういう文法ですね~と言ってもらえるの、なかなかない体験でした。おかげで勉強になったし、もっと丁寧に言葉を使おうと思いました!

これから「られる」を書くとき、一瞬「迷惑受け身」というワードが頭をよぎるんだろうな。最高。

■リリ先生より

・ここまで読んで下さった方へ
 「世界の片隅にはこういう感想屋さんもいるよ」というサンプルをご提示できたかなと思っています。感想の形式やスタンス、具体的な書き込み感想のやり方など、何か参考になることがありましたら幸いです。「PDFの書き込み感想、楽しそう! いつか友達とやろ!」と思った方は、是非今すぐお友達に連絡してみて下さい。ちょっと大変で、とても楽しいですよ。

・感想屋さんをやってみたい/利用してみたい方へ
 感想は「私にはこう伝わりました」という意見表明、校正は「これ、どうします?」という確認である、と私は思っています。感想や校正を通じたコミュニケーションからしか得られない養分を、皆さんも是非味わってみてください! その際には、ご自分の感覚を大切にし、言葉への責任と自信を持って、表現したいものを自由に楽しく表現して頂きたいなと思います。誰かが何かを表現した日本語を、私はとても愛おしく感じます。

■まとめ

動画でも語ったけどさ、「世界のどこかに、こんなに細かく読んでくれる人がいるんだ!」っていう、日本語や小説を読むことについての根底的な信頼感がものすごく高まりました!
だからこそ書く側は、「適当でいいや」(も別にいいけど)それよりかは、ちょっとこだわる。ちょっと背伸びする。そういう風にお互いを高めていけたらサイコ~だなと思いました。

(せーのっ)、感想、サイコ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!

校正にもかなり重きをおいているリリ先生相手では、校正の話題が多くなりました。もちろん感想屋さんは十人十色なので、ある方がやっていることを別の方もやっているとは限りません。(サイトの制約とかもあったりします)
その方に合わせてCheckして、双方ハピハピな依頼をしてみてくださ~~~~い!!!!

■おまけ
打ち合わせ時に教えてもらった、感想屋さんが感想屋さんを利用してみたレポ

■参考文献(リリ先生より)

加藤重広(1999)「日本語関係節の成立要件(1):先行研究の整理とその問題点」『富山大学人文学部紀要』30, p.65-112.
 →連体修飾構文に関する先行研究がかなり詳しくまとまっているので、ご興味のある方はぜひ。ここ https://toyama.repo.nii.ac.jp/records/38 から無料で読めます。

寺村秀夫(1975-1978)「連体修飾のシンタクスと意味1-4」『日本語・日本文化』4-7. 大阪外国語大学留学生別科.
 →私はくろしお出版のこれ(寺村秀夫(1992)『寺村秀夫論文集Ⅰ 日本語文法編』) https://www.9640.jp/book_view/?62 に再録されているのを読んだことがあります。なお英語版は国立国語研究所のこちらのサイト https://mmsrv.ninjal.ac.jp/adnominal-modification/ja/downloads/index.html で無料配布されている模様。

松本善子(1993)「日本語名詞句構造の語用論的考察」『日本語学』12, p.101-114.
 →『日本語学』という雑誌に載っている論文です。少し古いですが、大学図書館にならバックナンバーがあるかもしれません。


いいなと思ったら応援しよう!

創作おTips@地の文講座
石油王の方へ 役に立ったらお紅茶花伝1本分のおサポートをお願いします。だいじに執筆に使わせていただきます!