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大学生が体験したい「常識」を「疑い」「考える」ということ

文責:ゆきだるマン


こんにちは。オンライン学習広場「かしの木」です。
今後、かしの木は、2週間に一度、金曜日にnoteの記事を配信させていただきます。①教育に関する書籍・映像作品等のコンテンツレビュー、②かしの木OB・OGの方のインタビュー、③かしの木を卒業されたお子さんのインタビュー記事、の順に配信してまいります。
※初回の今回は、諸事情につき配信が遅れることとなりました。お詫び申し上げます。

初回の今回は、Zoomを用いたかしの木の活動にて雪だるまの背景を使用したためその名前が定着した、かしの木運営メンバー「ゆきだるマン」による教育に関するコンテンツレビュー記事を配信致します。


「素朴な疑問」と向き合う

突然ですが、「どうして勉強するの?」と親しい小学生のお子さんに尋ねられた場合、読者の皆さんはどのように答えますか?

レビュー初回の今回は、苅谷剛彦著『学校って何だろう―教育の社会学入門』を取り上げます。本書は近年の書籍ではございませんが、総論として、その理論的内容や読者にもたらす知的体験は非常に価値あるものであると考えています。学校や教育に関する常識と思われていた内容を、「どうして勉強するの?」という問いのような、本書の言葉を借りると「素朴な疑問」を手掛かりに柔軟に疑って考えていく本です。「素朴な疑問」を、従来意識していなかった見方や読者の記憶を手掛かりにして考えることで、その「素朴な疑問」の意外な側面を手に取るように発見する感覚を得られます。


本書の構成と内容

本書は、主として中学生を対象に中学生の読者が分かるような工夫を凝らして構成されています。
章立てとしては、「第1章 どうして勉強するの?」、「第2章 試験の秘密」、「第3章 校則はなぜあるの?」、「第4章 教科書って何だろう」、「第5章 隠れたカリキュラム」、「第6章 先生の世界」、「第7章 生徒の世界」、「第8章 学校と社会のつながり」という形をとっています。
上記のように、章の数が多い分、1つ1つのテーマを細かく区切ることで、特に関心を持つようになった章から読み始めることを可能にしているように見受けられます。本書各章の関連性を理解した感覚を必ずしも持てなくとも、特定の章の内容に限って理解することも可能でしょう。また、そうした読み方も、「素朴な疑問」を手掛かりに常識を疑って考えるという本書の趣旨から大きく外れることではないように思われます。この点は、主対象とする中学生の読者に配慮した工夫であるように思われます。

他方で、各章で紹介されている理論は大学の講義でも取り上げられるような社会学、教育社会学上の理論を少なからず含んでいます。「隠れたカリキュラム」という概念もその1つです。(「隠れたカリキュラム」が何かについて関心を抱いていただけましたら、是非、本書第5章だけでもご一読いただくことをお勧め致します。この「隠れたカリキュラム」の実例を知ること自体も、前述の通り、従来意識していなかった見方を記憶を動員して常識を疑うことに有用であると考えられます。)このように、本書の理論的な質は高いと言えるでしょう。


意外な気づき

かしの木での活動の一環として、中学生のお子さんと一対一の会話を行うことの多い身として、「どうして勉強するの?」という「素朴な疑問」を受けた際の返答を考えた経験はもちろんございます。本書を読む以前の私は、こうした問いに対しては、私個人の記憶から離れて、一般的な根拠に基づいて答えを組み立て、「正解」を導くことが必要であると考えていました。しかしながら、一般的な根拠に基づいて「正解」を導くことを必ずしも目指さなくとも、本書を読み進めて、私個人の記憶に意外性のある問いを投げかけ「勉強する」ことに隠された様々な「常識」を発見し、それらを疑うことで、「素朴な疑問」に対する直接の「正解」を導けないにもかかわらず、「素朴な疑問」に対する解像度を上げられるように思えます。なお、本書では「どうして勉強するの?」という問いに関して、そもそもこうした問いが生じることが時代や社会の変化を反映していることが示されています。こうした思考を通じて、私のボランティア活動全般に単一の正解を求めなくとも、活動における暗黙の前提を見つけることの意義に私自身気づかされました。


幅広く読んで欲しい!

前述の通り、本書は中学生を主対象にした書籍ですが、教育に関心を有している大学生も対象にしています。他方で、本書は「学校」という言葉がタイトルに入っているように、学校や教育に何らかの関心を有していなければ読み進める意義は低いと考えられるかもしれません。しかしながら、評者の私見として、学校や教育という内容に必ずしも深い関心を有していなくとも、義務教育を終えて長い時間経過していない高校生・大学生の方々は、本書を読みながら、義務教育を受けていた頃のご自身の記憶を手掛かりに学校や教育の常識を無意識のうちに疑って考えてしまっているでしょう。こうして常識を疑って考える体験は非常に知的刺激に満ちています。実際、私自身が前述のかしの木での活動を振り返る際にそうした知的刺激を受けました。このことは、大学等で高等教育を受ける方々にとっては(即物的にはレポートや試験の答案作成にも役立つような)有益な体験となるでしょう。同時に、常識を疑って考える体験をもとに、教育について何らかの関心を持って、教育に関わる制度的な基盤を作りたいという思いを少しでも抱いていただけたとすれば、教育に関する団体にて運営に携わる私としては望外の喜びを感じます。

参考文献
苅谷剛彦(2005)『学校って何だろう―教育の社会学入門』筑摩書房

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