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【エッセイ】伝わらない

  昨年の六月。間近で富士山を見たいと思った。ネットで調べると、静岡県の三保松原の写真が出てきた。富士山と松林と海。美しい。
さっそく夫を誘って三保松原に行くことにした。しかし季節は梅雨。
雨だけが心配だ。
 当日予報を見ると曇りのち晴れだった。ついている。静岡に到着すると遠くにうっすらと富士山が見えた。じきに晴れ、はっきり見えるに違いない。

期待が高まる。

ところが、賑わっているはずの三保松原は閑散としていた。
なぜだ。そして、富士山がどこにも見当たらないのだ。

夫と二人で目を凝らして探した。夫が声を上げた。

「あれじゃない?」

「ほんとだ。何か見える!」

「いや、あっちかも」

あちらこちらに、黒い影が見え始めた。
富士山の影があちらこちらも見えるではないか。

見たいあまりに2人で幻を見ていた。

晴れていても、気温、湿度の条件が揃わなければ見えないようだ。

ネットの写真を恨んだ。

今年のお正月、リベンジを図った。
静岡に着くと、バーンと富士山が現れた。

見える、見えないのレベルではない。

言葉では言い表せないくらいの迫力だ。

ネットで見たどの写真も自分の目で見た富士山にはかなわなかった。

何枚も写真を撮り、母にLINEで送った。
伝わらないなぁと思いながら。

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なたね
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