スタートアップが抱える知財課題と特許庁スタートアップ支援施策の紹介(後編)
日本ライセンス協会の独禁法WG・ICTビジネスWGによるセミナー「スタートアップが抱える知財課題と特許庁スタートアップ支援施策」を視聴しましたが、その中で特許庁等により公開されている情報を中心にまとめたのでレポートします。前後編のうちの後編になります。今回は特許庁が最近出した「知財戦略支援から見えたスタートアップがつまづく14の課題とその対応策」について紹介します。
セミナーの講師は法務専門官(弁護士)の比留川浩介氏および特許庁企画調査課工業所有権調査員の櫻井昭喜氏です。
本資料では、スタートアップがつまづく14の課題として、
課題1 ︓事業の絞り込み・優先順位付けが難しい
課題2 ︓自社の製品/サービスの顧客への提供価値が不明瞭
課題3 ︓有効なライセンスビジネスを描けない
課題4 ︓資金調達に有効な知財の活用法がわからない
課題5 ︓秘匿又は権利化の見極めがうまくできない
課題6 ︓大学や共同研究の成果に関する権利の帰属が問題になる
課題7 ︓アルゴリズム等のソフト面での知財活用が難しい
課題8 ︓特許権による独占期間を長期化する戦略が不十分
課題9 ︓既存の特許では自社のコア技術を十分に守り切れていない
課題10 ︓自社技術に関連する特許調査の検討と対応方法
課題11 ︓契約や利用規約の文言の検討が不十分
課題12 ︓専門家に何を相談して良いのかわからない
課題13 ︓社内で知財の情報が共有できていない
課題14 ︓社内において、知財戦略の必要性を理解してもらえない
が挙げられていています。今回のそのうち課題1、2、3、5、6、9、11を取り上げます。
課題1.事業の絞り込み・優先順位付けが難しい
自社の技術はどのような分野にも適用できると思われるが、どの分野に的を絞るのかわからない。また、複数の事業での進出を検討しているが、分野を絞った方が良いのかわからないという課題がある。
事例① 優先的に進出する分野を、自社技術の強みと想定顧客の悩み事を起点に絞り込む
1.スタートアップの課題
ある、スタートアップの技術は、多様な領域で活用でき、多様な顧客から受託開発事業を請け負っていたが、更なる成長を目指し、受託開発事業のみに頼らない事業形態を目指すことにした。
そこで着目したのが自社技術を生かしたライセンス事業だが、今後進出する分野が絞れていないため、想定顧客やバリューチェーン等が具体化できなかった。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、ブレイン・ストーミングにより、事業のアイデアを、スタートアップと一緒に出し合った。そして、出てきたアイデアの絞り込みをかけた。具体的には、スタートアップの技術の強みおよび想定顧客の悩み事のマッチングを起点にし、その後、市場性や事業の熟度という視点でアイデアを絞った。
3.本事例のキーファクターとしては、自社技術の強みだけではなく顧客にとっての価値を起点とすることや、市場性等の他の視点も加えて事業を絞り込むことが挙げられる。
事例② 複数の事業それぞれの開発とビジネスの関係性を整理し幹となる事業を具体化する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、自社の技術力を背景に、多様な事業展開を考えていたが、人材面や資金面等が限られる中、リソースの不足による開発や事業立ち上げの遅れ、同時並行で開発を行うことによる運転資金の枯渇等の懸念により、どの事業を優先して注力すべきか決めかねていた。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、スタートアップの今後5年間のロードマップを整理することで、事業の優先度を見える化した。具体的には、スタートアップに今後の各事業の技術開発・知財の権利化及びビジネスの予定を描いてもらった。次に、各予定を時系列で整理し、それぞれの関係性を矢印で表したロードマップを作成した。これにより、矢印が収束していく事業がスタートアップにとって幹となる事業であることが明らかになった。
3.本事例のキーファクターとしては、ロードマップを描くことで、最も注力すべき事業が何かが整理でき、複数の事業の優先順位がつくことや、まず安定的な収入を得る事業を育てることが大事であることが分かった。
課題2.自社の製品/サービスの顧客への提供価値が不明瞭
想定している製品/サービスの特性(バリューチェーン等)、顧客のニーズ及び自社の製品/サービスの顧客に対する価値を把握できていない。これは大学発ベンチャーなど、大学教授が自分の研究成果を事業として社会に実装する際に発生することが多い。
事例③ 見込み顧客に直接アプローチして、悩み事を把握する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、優れた技術を持っていたが、技術開発に専念するあまり、顧客が誰なのか、その顧客は自社の製品に対してどのような価値を⾒いだすのかを十分に考えていなかった。自社が守るべき技術要素が何なのか、どういった競合他社からその技術要素を守るべきなのかといったことが明確化できず、知財に関する有効な取組がわからない状態であった。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、顧客候補のニーズを調査するため、顧客候補へのヒアリング資料の作成を支援した。併せて、ヒアリングできそうな顧客候補を紹介した。ヒアリング資料を作成するにあたっては、「⾃社の技術と他社の技術の差異を明確にすること」と「今できること、今後できるようにすることをはっきりと説明すること」に留意した。
3.本事例のキーファクターとしては、技術の開発に専念するだけでなく、その技術をVCやコンサルタント等のビジネス専⾨家に⾒てもらう機会を設けること、また、机上で考えるだけではなく営業資料を持って顧客候補に実際にヒアリングすることが挙げられる。
事例④ バリューチェーンを描いて⾃社の⽴ち位置を明確化する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、ビジネスになる技術を持っていたものの、事業戦略を⽴てる上でどこが⾃社の強みかを明確に認識していなかった。また、ビジネスの核となる特許権が、事業においてどのような位置づけにあり、その分野のどのプレイヤーに対し、どのような価値を持っているのかを明確に把握していなかった。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、スタートアップが今進めている事業について、開発から販売までの流れ(バリューチェーン)を書き出した。次に、この流れの中の各⼯程でどのようなプレイヤーが事業を⾏っているのか、その中で、スタートアップの技術が競合優位となる工程はどの工程なのかを明らかにした。最後に、自社の技術が競合優位となる工程のプレイヤーを、協業先や顧客として捉えるのか、競合先として捉えるのかを検討した。
3.本事例のキーファクターとしては、自社が進出を考えている事業の業界構造を、バリューチェーンにより表すことで、自社技術が強みを持つ工程と顧客候補を明確にすること、また、自社の技術がある工程で競合優位である場合、その工程で活動している他社と協業するのか、あるいは競合するのかについて綿密に検討することが挙げられる。
課題3.有効なライセンスビジネスを描けない
誰をライセンス先とするのか、ライセンスビジネスにはどのようなパターンがあるのか、複数のビジネスのパターンをどう比較検討するのかがわからない。
事例⑤ 業界構造、ライセンス先の営業⼒等を踏まえて、ライセンス先を検討する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、試薬キットに係る特許を有していたが、自社で製品を販売する想定はなく、この特許をライセンシングすることで安定的な収入を得られるのではないかと考えた。しかし、ライセンス事業について実務的な経験がなく、誰に、どのようにライセンスすれば自社にとって効果的なのかがわからなかった。このため、付き合いのある製造工場しかライセンス先として想定していなかった。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、スタートアップにヒアリングし、業界構造とプレイヤーを図で整理した。その結果、ライセンス先として、製造工場以外にこの試薬キットの販売代理店も候補となることがわかったため、販売代理店をライセンス先にした⽅が良いのではないかと提案した。理由として、当該製品の市場はこれから広げる必要があること、販売代理店であれば主な顧客候補である研究所や大学の研究室にネットワークを持っていること等が挙げられる。
3.本事例のキーファクターとしては、ライセンス先を検討する場合は、狙っている業界がどのような構造で、どのようなプレイヤーがいるのかを図で整理すること、また、ライセンス先を絞り込む際は、想定顧客に対するネットワーク・⾒込まれる売上等を総合的に勘案することが挙げられる。
事例⑥ 他社と協業したライセンスビジネス等複数のスキームを描く
1.スタートアップの課題
スタートアップは、優れたAI技術を持つ企業であり、その技術を使ってライセンス事業に踏み出すことを模索していたが、これまでは受託開発を中心としていたため、ライセンス事業のスキームを明確に描けていなかった。そのため、ライセンス事業の実現に向けた取組が進んでいなかった。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、自社の技術が組み込まれる部品の製造会社に対してライセンスするスキームと、自社の技術を組み込んだ部品を使用する完成品メーカーに対してライセンスするスキームがあり、
それぞれの特徴を示した。後者の場合、前者に比べて製品の売上が大きいためライセンスフィーが高くなる反面、自社の技術を組み込んだ部品が完成品メーカーにとって価値のあるものになるよう、部品製造会社とともにブラッシュアップしていく必要があるため、より戦略的な取組が求められる。
3.本事例のキーファクターとしては、自社の技術優位性や想定顧客(ライセンシー)の売上、そのビジネスを⾏うために⾃社が割けるリソース等を勘案し、最適なスキームを選ぶこと、また、より
⼤きな売り上げを⾒込むためには、他社の製品と組み合わせた製品を完成品メーカー等にライセンスすることが有効な場合もあることが挙げられる。
課題5.秘匿⼜は権利化の⾒極めがうまくできない
外部に製造等を委託する場合に、ノウハウとして秘匿するのか権利化するのかをどのように判断すれば良いのかわからない。
事例⑨ 専⾨家の協⼒を得て、秘匿⼜は権利化を⾒極める
1.スタートアップの課題
スタートアップは、製品の量産体制を整えるため、国内の製造事業者への外部委託を考えていた。ここで、スタートアップは、外部委託業者によるリバースエンジニアリングの危険性は認識しており、秘匿と権利化を活⽤して技術を保護することが有効であることも理解していたが、実際にどのような視点で、秘匿するものと権利化するものを特定するのかがわからず、外部委託契約が進まない状況となっていた。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、スタートアップが作成した製造工程の一覧表を確認し、社員が感覚で調整している⼯程等他社が容易に真似できない部分を秘匿とすることにした。また、ユーザーインターフェース等、技術の内容がすぐにわかってしまうもの等は権利化し、特定の技術者しかできないテクニック等はノウハウとして秘匿化することが一般的であること、また、秘匿する場合、不正競争防止法上の営業秘密として保護されるためには「秘密管理性」、「有用性」、「非公知性」の3要件をすべて満たすことが必要なこと等を助言した。
3.本事例のキーファクターとしては、「秘匿や権利化等の打ち⼿」、「技術流出への対応策」等を考えるには、専⾨的な知識が有効なため、専門家への相談が重要であること、そして、特にものづくりにおいて技術の内容がすぐにわかってしまうもの等は権利化することが基本であることが挙げられる。
事例⑩ 海外への製造委託の場合は、秘匿部分を⼀層慎重に⾒極める
1.スタートアップの課題
スタートアップは、海外工場への製造委託を予定していた。当初は委託先が必要な部品を全て調達し、製造するという委託内容を計画していたが、海外における完璧なリバースエンジニアリング対策は存在しないと言われるような環境において、このような委託内容では、すぐにスタートアップの技術が流出してしまうことを懸念していた。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、スタートアップの製品のコア技術をつかさどる部品は、日本国内で調達し委託先に支給する形とすることを提案した。また、製品の肝となる部品の配置や部品ごとの間隔等については、なぜそのような配置や間隔になっているかはノウハウとして秘匿することを提案しました。さらに、日本で調達する場合でも、現地では調達先企業名がわからないようにすることや、許認可を得る場合に政府機関に提出した図⾯が地元競合企業等に流出するケースへの対策もアドバイスした。
3.本事例のキーファクターとしては、海外に製造委託する場合でも、コア技術の部分は国内での製造や調達とすることで、リバースエンジニアリングを抑止すること、また、特に海外では、設計図が容易に流出することがあるため、流出を想定して、製品内部の仕組みやその理由は説明しないことや更にはブラックボックス化すること等が挙げられる。
課題6.大学や共同研究の成果に関する権利の帰属が問題になる
大学や他社等との共同研究においては、権利の帰属やライセンスの設定等が、その後争いになりうる。
事例⑪ 前所属先で取得した権利に関しては、独占的に実施できるような策をとる
1.スタートアップの課題
スタートアップの社⻑は、起業前に大学で発明した技術を大学の名義で特許化していた。そして、この技術を活用した事業を⾏うため起業をしており、大学と交渉し特許の譲受(購入)又は実施権許諾(ライセンス)を受ける必要があった。しかし、交渉のゴールをどこに設定するのか、どのように交渉すれば良いのかがわからず、具体的な交渉に入れなかった。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、選択肢として権利の譲受と実施権許諾をあげ、⻑所・短所を整理した。次に、理想のゴールと、最低限死守すべき条件を設定した。理想は権利の譲受であったが、本技術を活用できる企業は他に想定できず、実質的に自社のみが活用しうるものであったため、最低限大学から実施権を受ける形でもよいとの方針とした。
3.本事例のキーファクターとしては、大学から通常実施権しか得られていない場合には投資家からの評価が低くなる場合があるため、可能であれば、権利の譲受か専⽤実施権、サブライセンス付独占的通常実施権を得るようにすることが挙げられる。通常実施権のみを得てビジネス展開すると、大学は他社へもライセンスすることができるため、自社独占ができなくなる。一方、特許権を譲受したり、専用実施権や独占的通常実施権を得ておくと、技術を独占できないという不安がなくなる。
事例⑫ 共同研究の際、自社が持つ知的財産権を明確化して契約する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、社内に技術者が多く、知的財産の重要性は認識していたが、契約で互いの権利・義務を明確化することの重要性までを⼗分認識している⼈材が不⾜していた。その結果、共同研究先との間で、どの研究成果をどちらの権利とするのか⼜は共同保有とするのかといった、権利の棲み分けを明確化しないまま、研究を開始していた。そのため、権利化できそうな開発があった場合、当該スタートアップの知財となるか否かがわからない状況となっていた。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、共同研究開発先との間の契約締結について、下記のような4つの助言を⾏った。
・共同研究前に自社のみで発明した内容については出願しておくこと。
・共同研究前に⾃社のノウハウの確認を⾏い、共同研究で使用するノウハウと使用しないノウハウとに分け、使用するノウハウのみ自社ノウハウとして開示しかつ自社の知的財産である旨を契約上で担保しておくこと。
・共同研究で出た成果については、⾃社に不利益な事態とならないような契約とすること。
・共同研究で自社のみで開発した範囲については、自社単独で出願できるような契約に少なくともすること。
3.本事例のkey factorとしては、共同研究では、研究成果の知的財産権の帰属について共同研究者ともめる場合があるため、研究開始前に、共同研究開発契約等でルールを合意しておくことが挙げられる。共同研究開発においておさえるべき権利範囲は非常に重要であるため、専門家等の⼒を借りて、⾃社に有益な研究成果を⾃社の権利として確保することが大事である。
課題9 既存の特許では自社のコア技術を十分に守り切れていない
自社のコア技術の権利化を図る際には、その技術を誰に対し、いつ・どこで・どのような⽬的で⾏使するかを整理し、他社から収⼊を得るためのものなのか、他社からの攻撃を防ぐものなのか、バリューチェーン上どの部分に影響があるのか、といった権利の活⽤⽅針を⽴てることが必要である。
事例⑮ 周辺技術の特許出願により自社のコア技術の保護を強化する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、現在の自社のコア技術はすでに出願した特許等で守られていると考えていた。しかし、これらの特許の出願時は特許権を取得することを主眼に考えていたため、出願内容や権利範囲を吟味していなかったことや、特許の出願時に想定していた事業と現在の事業が少しずれてきたことから、現在の事業は今持っている特許では完全には保護されていないことがわかった。このコア技術が守られていないと、大手企業と共同研究開発の契約交渉の際の交渉⼒が落ち、⾃社に有利な契約を結べない状況に陥ることが懸念されていた。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、既存の特許の周辺技術について新たに特許出願し、周辺特許を押さえることを提案した。周辺特許の出願に当たっては、事業の5W1Hの検討と事業計画との擦り合わせを⾏った上で、コア技術のどの部分が既存の特許権では保護されていないかを明らかにした。
3.本事例のkey factorとしては、特許は取得することに意味があるのではなく事業に活用して初めて意味があると考え、出願時に具体的な事業を想定して権利化することが挙げられる。また、既に取得した特許で現在の自社の技術、事業が守られていないと認識した場合は、可能な限り追加出願を⾏い事業範囲をカバーすることが大事である。
事例⑯ 現時点でのMVPを守るため、分割出願を⾏い⾃社技術の保護を強化する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、社⻑が⼤学時代に取得した特許をコア技術として事業を展開することを考えていたが、MVP(Minimum Viable Product︓必要最小限の機能のみをもつ最もシンプルな製品)を明確化したところ、既存の特許では、MVPを守り切れていないことがわかり、他社が同様の製品を出してきても対抗できないことが懸念された。理由としては、特許出願段階では、まだ開発段階で具体的な事業が⾒えておらず、MVPがはっきりしていなかったためと考えられる。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、自社技術の顧客への価値からMVPを特定し、そのうち既存の特許でどの部分が守られていないのかを特定した。そして、既存の特許の分割出願を⾏うことで、MVPを守ることを提案した。また、大学とライセンス契約を締結する際に、分割出願等の際にスタートアップが独⾃に弁理⼠を選べる権利を持つ条項を⼊れることを提案した。これにより、分割出願の⽅針策定や特許審査への対応を円滑に⾏えるようになる。
3.本事例のkey factorとしては、特許出願時と現時点では、事業に求められる技術のコア部分が異なる場合があるため、定期的に既存特許の権利範囲を確認し、必要な措置をとることが挙げられる。また、特許のライセンスを受けている場合等は、特許の補強にライセンス元との交渉や調整が必要になるため、特許を円滑に補強できるよう、ライセンス契約の条項を工夫する等の措置が有効である。
課題11 契約や利⽤規約の⽂⾔の検討が不⼗分
受注、請負、共同研究、共同開発等での契約や、サービス提供時の利⽤規約における条件や文言の検討ができていない。
事例⑲ 契約交渉のセオリーをあらかじめ知った上で、大企業等との交渉に臨む
1.スタートアップの課題
スタートアップは、共同開発の話を進めていたが、相手先から提示された契約書案は自社に⾮常に不利なものとなっており、対応に悩んでいた。このような事例は、特に⼤企業とスタートアップとの契約交渉の中で散⾒されますが、スタートアップ側に交渉の実務経験が不⾜しているため、生じる課題と考えられる。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、契約交渉のセオリーを含め、こちらがどこまで譲歩できるかを決めることをアドバイスした。そして相手方から提示された契約書案に記載されている条件を、受け入れられる部分と受け入れられない部分に分け、受け入れられない部分の文言を譲歩できる文言に修正した。メンタリングチームが提案した修正案を基に交渉した結果、こちらの提示した条件を相手方が受入れてくれることになり、相手方とよい関係を維持しながら交渉を進めることができた。
3.本事例のkey factorとしては、あらかじめ交渉のセオリーを知っておくことが挙げられる。交渉相手が準備する最初の契約書案では、相⼿側に有利な契約内容にしてくることが多いので、これを踏まえて自社がどこまで譲歩できるのかをはっきり決めて、慎重に文言を検討する必要がある。また、特に契約に関しては後々争いになるポイントについて専⾨家が多くの知⾒を持っているので相談することが大事である
事例⑳専⾨家と相談しながら、⾃社のサービスに合った利⽤規約を⽤意する
1.スタートアップの課題
スタートアップは自社の製品(データ)をwebを介して顧客に提供することを想定していたが、データの利⽤規約については、他のサービスの利⽤規約を微修正して使おうとしていた。しかし、それでは⾃社がサービスを展開していくうえで適切な内容になっていなかった。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、利⽤規約案をレビューし、確認点を整理した。レビュー後、スタートアップに製品の概要やサービスの提供方針を確認しつつ、修正すべき点を指摘・助言した。本件では特に、使用する単語の定義や、ユーザーによるデータの二次利⽤を通じて⽣まれた製品の権利帰属の整理等がポイントとなった。
3.本事例のkey factorとしては、他のサービスの規約を雛型にする場合でも、言い回しが古かったり、自社のサービスに適合していない場合があるため、自社のサービス内容やビジネスモデルを再確認し、具体的なユースケースを想定した利⽤規約を作成することが挙げられる。また、契約書の作成は、専⾨的な知⾒が必要なため、弁護士等の専門家に相談することが重要である。
最後に
今回はスタートアップがつまづく14の課題のうち7つの課題を抜粋して紹介したが、ここでは紹介できなかった残りの7つの課題もスタートアップにとって知財がらみで非常に大切である。このため、スタートアップの経営層は、将来起こるかもしれない知財のトラブルを未然に防ぐ可能性を高めるためにも、特許庁のスタートアップ支援チームが出した「知財戦略支援から見えたスタートアップがつまづく14の課題とその対応策」に一度は目を通しておくことをお勧めしたい。