上限「15頭」が一人歩きする環境省犬猫数値規制③引退犬猫「除外」は業界からの要望
1、 混乱招くあやふやな態度
来年6月から始まる動物取扱業者に対する数値規制からは、繁殖を引退した犬猫は除外されることになっていますが、この点を環境省は十分丁寧に周知していません。
同じ施設内にいる「引退犬猫」を含む数値規制にするよう要望し続けていた公益社団法人日本動物福祉協会(黒川光隆理事長)の公表資料にある通り、環境省自体も10月7日に開催した中央環境審議会動物愛護部会まではっきりとした考えを示せずにいたのです。周知する時間的なゆとりもなかったのでしょう。数値規制をめぐる議論が混乱している原因の1つは、環境省のそんな曖昧、あやふやな態度にあります。
同省が規制案のベースにした犬猫殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟(超党派、尾辻秀久会長)の事務局長を務める福島瑞穂参院議員の事務所は「引退犬猫はもともと監視、指導の対象外だった」と説明しています。しかし、参加議員、アドバイザーたちの間で共通認識になっておらず、議論もほとんどなされていなかったようです。
議連アドバイザーを務める公益社団法人動物環境・福祉協会Evaの杉本彩理事長も11月下旬にようやく、動物取扱業としての規制とは別枠の勘定を設けて引退犬猫を管理するよう議連や環境省に申し入れを始めたようです。こんな重要な問題について、いままで議連や環境省がしっかり議論をしていなかったのはお粗末というほかありません。
2、FAXで「リタイア犬除外を」続々
「48頭のうち20頭は8歳を超える老犬です」(家族2人で成犬48頭=1人あたり24頭を飼う繁殖業者)
「約半数がリタイア犬、死ぬまで飼育していくつもり」(家族3人で成犬100頭=1人あたり33.3頭を飼う繁殖業者)
「リタイア犬が5頭です」(1人で成犬25頭=1人あたり25頭を飼う繁殖業者)
情報公開制度を利用して環境省から入手した資料には、ブリーダー(繁殖業者)のそんなデータや要望が並んでいます。「リタイア犬・猫を数からはずして欲しい」「リタイア犬の除外を」等の要望もたくさん書き込まれています。
開示された行政文書のタイトルは「飼養管理基準に係る事業者からのFAXの集計結果」及び「飼養管理基準に係る事業者からのFAXの集計表」です。
これらは環境省の動物の適正管理方法等に関する検討会(武内ゆかり座長)が7月10日具体的な数値をはじめて発表し、8月12日に最終報告として取りまとめられたのを受けて、ペット業界側が行った環境省にFAX攻勢の内容を整理したもののようです。
3、引退犬猫を含めて環境省も「15頭」を議論
環境省の長田啓動物愛護管理室長は10月7日の中央環境審議会動物愛護部会で次のように説明をしていました。
「検討会で取りまとめをいただきました前後に、例えばブリーダーさん160数者の方々からは、私どものところにファックスが届いております。1人15頭という基準が、こんな厳しい基準ではやっていけないという観点からのファックスでございました」
大事なことは、環境省に対するペット業界のFAX要望は引退犬猫も含めた頭数で行われているという点です。環境省もそれを十分に知った上で、引退犬猫の頭数を含めて1人あたり頭数を算出していたのです。
環境省や超党派動物愛護議連は「動物販売業者等定期報告届出書」では、引退犬猫を販売済みと同じようにいなくなったものとして扱っていることを理由に、新しい数値規制からもともと対象外だったのだと説明しています。
しかし、前回の記事でも紹介した通り、自治体や業者によって記入方法はバラバラで環境省もこの報告から引退犬猫を除外すると通知したこともありませんでした。どうも後からのこじつけではないかと思われるのです。
さて、この集計結果は円グラフにまとめられていて、業者別のデータや要望、意見は一覧表に整理されています。15頭の区切りがどのように示されているかを含めて、次回はその内容を詳しく紹介します。