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資源急回復で海に溢れんばかりのクロマグロ②定置網の混獲を国別上限の別枠に~韓国政府がWCPFCに働きかけ

 クロマグロがあふれかえっているのは日本の海だけではありません。お隣の韓国でも同様です。

「最近盈徳郡でマグロが1日500~1000匹ほど漁獲される。定置網にかかったマグロが死に、漁民は死んだ状態のマグロを海に放流するほかない」

 2022年7月28日夕、韓国の朝鮮日報オンライン版は慶尚北道盈徳(キョンサンブクド・ヨンドク)の海岸に数万匹の死んだマグロが見つかり行政当局が回収に乗り出した、という記事を掲載しました。

 それによると、韓国海洋漁業部が慶尚北道の定置網漁業に割り当てたクロマグロの漁獲量は74.4トンでしたが、クロマグロが増えているので枠も使い果たしてしまっていて、慶尚北道の当局は7月27日午前0時から定置網漁業者にマグロを獲らないよう指示していたということです。

 しかし、定置網の漁業者は網を上げなければクロマグロがいるかどうか確認できないうえ、クロマグロだけを逃がしてほかの魚を水揚げする技術も持っていないようで、結果として漁獲物の中からクロマグロを選り分けて海に捨てていたわけです。

「マグロはえらを動かす筋肉がなく、速いスピードで泳がなければ呼吸できない魚種だ。このため定置網にかかって水揚げされるとほとんどが死んでしまうという。引き揚げられるとほとんどが死んだ状態で捨てられる。死んだマグロは海に沈み、腐敗すると浮かび上がって波に乗り海岸に打ち上げられている」

 そう記事は伝えています。クロマグロの海洋投棄を行った定置網漁船は10隻ほどで、少なくとも1万3千尾が捨てられていたようです。

 太平洋クロマグロの資源回復のため漁獲制限を実施している中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)や東部太平洋地域を所管する全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)の会合でも、この韓国定置網問題は大きな関心を集めています。

 韓国政府は2022年10月にオンラインで開催されたWCPFC北委員会で定置網によるクロマグロの投棄の実情を報告しました。


韓国政府が昨年WCPFCに提出した報告書
他の魚を水揚げするときに、マグロは致命傷を負い、死んでしまう。


The Republic of Korea’s Information Paper on the Bycatch of Pacific Bluefin Tuna in Set Net Fisheries in its Territorial Waters | WCPFC Meetings

そのうえで、韓国政府はコントロールしたくともコントロールしきれない突発的な漁獲については、厳格に運用している国別の漁獲枠の例外として取り扱って欲しいという提案を行っているのです。

 その提案にはこう書かれています。

 as an interim measure for 2023 and 2024, in the event that the
total amount of Pacific bluefin tuna catch in the set net fishery in a given year is unexpectedly and unusually large in its territorial waters, the Republic of Korea may choose to apply the alternative Pacific bluefin tuna fishery Management Plan set out in the Attachment 2. For the purpose of this paragraph, 150 tons of accumulated catch in the set net fishery shall be the threshold for the unexpectedly and unusually large amount of catch.

DeepL翻訳:2023 年及び 2024 年の暫定措置として、ある年の定置網漁業に おける太平洋クロマグロの漁獲総量が自国領海において予期せぬ異常な大漁となった場合には
大韓民国は、第 3 項及び第 4 項にかかわらず、2023 年及び 2024 年の暫定措置とし て、ある年の定置網漁業における太平洋クロマグロの漁獲量の合計が、自国の領海において予期せぬ異 常な多量となった場合には、別添 2 に定める太平洋クロマグロ漁業管理計画の代替案を適用することができる。本項においては、定置網漁業における累積漁獲量 150 トンを、予期せぬ異常な大量漁獲の閾値とする

 別添の代替案(太平洋クロマグロに関する韓国の代替管理計画)はこんな内容です。

The Republic of Korea should manage Pacific Bluefin tuna catch in its set net fisheries within its national catch limit by taking necessary measures including reservation of certain amount of quota for unexpected circumstances and adjustment of the initial quota allocations to respective fisheries to the extent possible. If a large amount of Pacific bluefin tuna catch in set net fisheries takes place unexpectedly and cannot be accommodated within Korea’s national catch limit despite such management effort, the Pacific bluefin tuna catch in set net fishery may be retained and landed for domestic consumption or sale at the designated market even if such catch takes place beyond Korea’s national catch limit. The maximum amount of Pacific Bluefin tuna bycaught in set net fishery allowed for domestic consumption or sale beyond national catch limit should be limited to 300 metric tons. In that case, a pay-back should not be required provided that Korea ensures that its set net fishing effort in terms of the number of licenses and the amount of initial quota allocations to fisheries other than set net fishery for the very next year do not exceed the existing level.

DeepL翻訳:韓国は、定置網漁業における太平洋クロマグロの漁獲を、不測の事態に備えて一定量の漁獲枠を留保し、可能な範囲で各漁業への当初の漁獲枠配分を調整するなどの必要な措置を講じることにより、国の漁獲枠の範囲内で管理すべきである。定置網漁業における太平洋クロマグロの漁獲量が予期せず大量に発生し、そのような管理努力にもかかわ らず、韓国の国内漁獲枠内に収まらない場合には、韓国の国内漁獲枠を超えて漁獲された場合であっても、 国内消費または指定市場での販売のために、定置網漁業における太平洋クロマグロの漁獲量を保持し、水揚げすること ができる。国内の漁獲制限を超えて国内消費または販売するために許容される定置網漁業による太平洋クロマグロの漁獲量の上限は、300トンまでとすべきである。その場合、韓国が、翌年の定置網漁業への漁獲努力量(免許数および定置網漁業以外の漁業への初期割当量)が現行水準を超えないことを保証することを条件に、ペイバックを求めるべきではない

 つまり、定置網でもクロマグロが獲れるよう他の漁業との調整で枠をひねり出すなどあらかじめ努力をしてみる、しかし、それでも予期しないほどの大量の漁獲が生じたときは、WCPFCが設定した国別のクロマグロ漁獲上限を突破しても定置網の漁業は続けさせたい、日本その他に輸出することなくもっぱら国内で消費させる、という提案です。

韓国は基準期間(2002-04年)におけるクロマグロ大型魚の漁獲実績がゼロ。国別の漁獲枠を守りにくい要因で、小型魚の枠を大型魚に振り替える制度を提案し、実現させた交渉力もあります。

 定置網の安定操業のために韓国が求める特別枠は最大300トン。資源管理上、クロマグロは30キログラムが大型(成熟)、小型(未成熟)の分かれ目ですが、30キログラム相当なら1万尾で300トンになります。

 日本をはじめとするWCPFC加盟国・地域の合意は得られていませんが、資源急回復が進む中で、厳しい漁獲ルールに部分的に例外、弾力運用の余地があってもいいのではないか、とする考え方です。

 日本では、定置網や一本釣りの漁師が漁獲量管理のためクロマグロを放流すると、手間賃のような補助金を受け取れますが、本来は漁獲実績に加えなければならない死んだ個体も相当数混じっているとみられます。まき網漁船など大臣許可を持つ漁船にいたっては、放流の実態は水産庁でさえつかめていないようです。

 漁獲量を枠内に収めるようかなりの無理を重ねている日本の水産庁からすれば「韓国は甘すぎる」という受け止めなのでしょうか、日本の漁業者やメディア向けのブリーフィングでこの件にはまったくと言っていいほど触れていません。

 しかし、死んだ個体を海に捨てている現実を知っていて「見ないふり」を装う日本のやり方と比べ韓国のこの提案は身勝手すぎるでしょうか?

 放流量を掴めない、もし漁獲としてカウントするなら国別の枠とは別扱いにしてもらわないと管理しきれない、という韓国の要望は漁業の現場の声を率直に伝えていると考えることもできます。

 私は、韓国の提案には問題点も多々あるものの、漁獲上限の弾力的な運用はあっていいのではないかと考えます。せめて、韓国のような提案があることを詳しく日本の沿岸漁業者にも伝えて意見を問うてみるとよいと思います。

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