譲渡適性で犬を選別処分①~広島県「ゼロ」目標の例外広げ、ピースワンコ全頭引き渡し修正
犬の「殺処分ゼロ」を掲げて保護犬(ピースワンコ)事業に取り組むNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)を、保護犬を引き渡す立場の広島県はどのように見ていたのでしょうか。
1、お手並み拝見
広島県が攻撃的な犬など譲渡に向かない犬は殺処分対象とすることを決めていて、すでに2019年1月以降、新たな基準により犬を安楽死させていたことが先週末、明らかになりました。
東広島市で動物愛護の啓発活動に取り組んでいる古賀木綿子さんは、先週の私のnote投稿(「譲渡に向かぬ犬」年度末に集中殺処分~広島県動物愛護センター、1月から方針変更、ピースワンコに広報適正化も要請))を読み、Facebook上で「県行政としては、そんなこと頼んでないけど、できるの?という立ち位置で今まで来てるわけですよね?」とコメントしてくれました。
その通りだと私も思います。
付け加えれば「おやりになるならお手伝いはします」という姿勢でもあったのではないかと思います。
2019年度末に広島県動物愛護センターが実施した攻撃性のある犬など譲渡適性がないとみなされた犬たちの集中的な殺処分(安楽死処分)は、ピースワンコの「全頭引き取り」による「殺処分ゼロ」が継続困難だったことの表れでもあると私は受けとめています。
広島県は「譲渡適性のない犬の個人譲渡は難しそうだから、そろそろやり方を考え直しましょう」とピースワンコに問いかけたのだと思います。そして、ピースワンコの側には県の新しい方針にNOといい、思いとどまらせるだけの実績も能力もなかったということでもあるでしょう。
「全頭引き取り」「殺処分ゼロ」への取り組みを看板に掲げて、インターネットや新聞紙上で宣伝を繰り広げて寄付を募ってきたピースワンコにとっては受け入れがたい現実かもしれませんが、もっと誠実に実情を支援者に伝える努力をすべき時期にきていると私は思います。
それを情報公開請求によって、県から入手できた行政文書などを使って説明したいと思います。
2、全頭引き取りはとん挫
「殺処分対象の全頭引き取りは根本的な解決になっておらず、当センターにとっては殺処分と同じ」――これは2016年12月1日、三原市にある広島県動物愛護センターの動物愛護館で開かれた県動物愛護推進員等意見交換会で、センターが用意したプレゼン資料に書かれていたものです。一般の人、ピースワンコに寄付をする犬好きの人たちにももっと知って欲しい指摘です。
殺処分のもとになる「野良犬」の繁殖を制限し、減らさない限り、動物愛護センターに収容され、殺処分のリスクにさらされる犬の数は減りません。動物愛護センターは「全頭引き取り」による殺処分ゼロにいったいどんな意義があるのかと疑義を表明し、それは今も変わっていません。
寄付を集めるために劇的なストーリー作りに走るピースワンコと違って、動物愛護センターはあくまで冷静なプロフェッショナル集団です。
2015年度に県愛護センターが収容した犬は1492頭でした。飼い主からの引き取りなら事情を聞いたうえで拒否することもできるため、引き取った数はわずか14頭です。ほとんどが野良犬というのが広島県の特徴で、受け入れるしかありません。(県動物愛護センターは犬猫両方について論じていますが、ここではワンコ問題を扱っているので、便宜上、犬のデータのみを紹介します)
飼い主から引き取った犬は噛み癖があったり、野良犬はひとに馴れない、なつかないものが多かったりするそうです。一般の人が飼うのはなかなか難しいのです。「長期間飼養すれば、ある程度馴れるものもいるが、行政機関が行うことは困難」とするのが広島県動物愛護センターの立場でした。
県では長く飼うという予算も人も捻出できません。だから、2015年度は704頭が殺処分されていました。
3、想定外という言い訳
その殺処分にNOといったのが、PWJ/ピースワンコです。2016年4月1日に「広島県の犬の殺処分ゼロ」を宣言し、殺処分対象になる犬の全頭引き取りを始めました。しかし、それは背伸び、勇み足でした。
ピースワンコは翌2017年度には早くも見込み違いに苦しみ、狂犬病予防法による犬の登録や予防接種を大量に滞らせてしまったのです。シェルターに収容された犬同士がストレスのためにケンカし、かみ殺すなどの事件も多発していたようで、のちに、「ピースワンコからのお知らせ」で釈明に追われています。
「私たちが16年度に保護した犬の総数は約1400頭、17年度はさらに増えて約1800頭でした。そうしたなか、過年度において、月に100-150頭という、想定を超える引き取りへの対応に追われ、一部の犬の狂犬病予防注射が一時的に追いつかない状況が発生しました」(2018年6月15日「狂犬病予防注射に関する現在の対応について」)
「早朝など人の目が届かないときに、野犬どうしがけんかをしたり、弱い犬がいじめられたりして、残念なことに死に至るケースもありました」「野犬化した犬たちを1頭ずつ隔離するという理想的な状態でないことは、私たちも認めざるを得ません。しかし、それは、殺処分を防ぐためにすべての犬を引き取ってきた結果、やむを得ず生じている状況です」(2018年9月14日「週刊新潮9月12日発売号の記事について」)
彼らの言い訳は「想定を超えた」とか「すべての犬を引き取っているからやむを得ず生じた」ということです。すでに「殺処分ゼロ」を達成しているほかの県や市では、法令違反をおかしてまで実現したわけではありません。
「『野犬は殺処分されても仕方がない』とか、『引き取りを制限するべきだ』などというご意見もあり、そうすれば私たち自身が楽になるのはわかっています。しかし、野犬も飼い犬と同じ、命ある生き物です。引き取りを止めた瞬間に犬たちが残らずガス室に送られ、その尊い命を奪われることがわかっている以上、たとえ現状が100点満点でなくても最善を尽くすことが、私たちの使命だと考えています」
目標のためならコンプライアンス違反も容認するというに等しい言い訳です。そんな態度、ふるまいは、いまどき金もうけを目的とする株式会社でさえ慎んでいます。非営利、社会貢献を目的とするNPOなのですからもっと素直に自分たちの非を認めるべきだと私は思います。
広島県動物愛護センターが指摘するように、犬を引き取ってシェルターに隔離することで「殺処分ゼロ」をうたっても動物愛護センターへの犬の収容が減らない要因である「野良犬の繁殖」を減らすという根本目標の達成とは程遠いのです。狂犬病予防法違反は、ピースワンコの準備不足が引き起こした失態であり、その危険に気づいたときに中止する勇気がなかった大西健丞代表理事らの不見識というべきでしょう。(続く)