まぼろしの優良ペット業者認定制度②愛護団体のハガキ・アクションを恐れて不採用案を伏せた環境省動物愛護管理室
どんな議論を経て、環境省案から犬猫飼養頭数の上限値の強化・緩和という弾力運用の考え方が消されたのだろう?
筆者は10月12日、環境省内の議論を確かめるため、関係行政文書の開示請求をしました。中央環境審議会動物愛護部会が開催された5日後のことです。
ボツになった案を開示するよう請求
すると、直ちに長田啓環境省動物愛護管理室長(当時)から筆者の携帯電話に連絡があり、直接会って説明したいので、情報公開請求を取り下げて欲しいという打診がありました。
「検討途中の段階なので、請求されても開示できないものばかりだから」という理由でしたが、環境省は上限値の弾力運用をしないという結論をすでに出しているわけですから、その検討途中という説明は通用しません。
私は室長に会いましたが、情報公開請求は取り下げませんでした。この経緯は昨年、詳しくnoteに書いていますのでご興味のある方はお読みください。
請求後、普通なら1カ月以内に開示決定が下されます。数値規制案について環境省が実施したパブリックコメントの募集期間(10月16日から11月17日まで)より前に公開して、環境省の判断の是非について、国民に意見を問うべきだと思っていました。
「国民の知る権利を狭める」
しかし、環境省は開示決定期限を延長して、開示する文書を決定したのはパブリックコメント終了後の12月2日でした。そしてその内容もわずか2枚、しかも肝心な部分を黒く塗りつぶしたメモでした。
「環境省は隠し事をしていて、決定過程の検証を拒もうとしている」
そう判断した私はただちに政府の情報公開・個人情報保護審査会による審査を請求しました。審査会が答申、つまり結論をまとめるのに半年かかりましたが、2021年6月3日に出た結論は「不開示とされた部分を開示すべきである」という私の主張を認めた内容でした。
私は審査請求書に以下のようなことを書きました。
「パブリックコメント募集にあたって、むしろ開示されるべき情報である。不開示は環境省による恣意的な裁量の誤りだ。員数規定(上限値の強化と緩和)について採用されなかった案やその理由を検証する際に欠かせぬ情報である。パブリックコメントに十数万通の意見が寄せられた事実を考えれば、一部不開示は国民の知る権利や建設的な意見提出の機会を不当に狭め、公益に反する」
これに対し、環境省は以下のような弁明をしました。
「一部不開示(黒塗り)文書は、適正飼養検討会報告で留保事項である「員数規定の上限値強化と緩和」の扱いについて環境省内で検討する際の作業に説明用資料として活用したものである」
環境省「意見交換妨げる」と反論
「社会的にも大きな関心がある分野であり、動物愛護活動に携わる方々を中心に環境省への電話や通称「ハガキアクション」と呼ばれる活動が精力的に行われ、飼養管理基準の省令を審議する中央環境審議会動物愛護部会の委員の職場にも連日大量のハガキが届いたり、業界寄りの規制にすべきでないといった電話が一般の方から頻繁に入ったり事案が確認されたことなどから、不開示部分については法5条5項に定める不開示情報に該当すると判断した」
環境省が引用する情報公開法5条5項とは「公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」を開示対象から外せるという規定です。
文面から推測するに、環境省はハガキアクションを展開する動物愛護団体からの攻撃を警戒したのでしょうか?しかし、動物愛護団体が反対するだろうということは、逆にペット業界は切望している案だったかも知れず。ペット業界がその内容をもとに上限値の弾力運用の採用を求める意見を出す機会を不当に妨げた可能性さえあると思います。
審査会、環境省の弁明を一蹴
国の審査会はこうした環境省の主張を一蹴しました。上限値の弾力運用を採用しないとした中央環境審議会動物愛護部会での環境省の説明は議事録に残されて公開されていますので、審査会の答申は、検討に用いた文書を公開したからといって、審議会の委員らに対する「外部からの不当な圧力や干渉等により、率直な意見の交換や意思決定の中立性が不当に損なわれる恐れがあるとは認められない」と指摘したのです。
審査会は「パブリックコメントでは不採用となった案までを示さなければならないものではない」として、私の主張も「失当」と指摘しました。黒塗りが剥がれたことでよしとしなければなりませんが、残念なのは、弾力運用案を採用しない理由について、審議会で「法制的な観点、公平性の観点から明確に説明しており、採用されなかった案やその理由の検証のために開示されるべき」という主張には「理由がない」と審査会が断じた点です。
訴訟を起こしてまで争うつもりはありませんが、法制的な観点、公平性の観点から検討したことを示す行政文書こそ私が探し求めていたものですが、審査請求の結果、黒塗りを解かれて開示された2枚のメモでは、どのような法律、規則を参考に議論をしたとか、公平性がどのように損なわれるのかという点について具体的な事例などをもとに議論されたかはさっぱりつかめません。
むしろ、運動スペース一体型のケージで収容すれば、動物の世話をする手間がかからないので、1人あたりの飼養頭数を多くしてもよいという、わかりやすい上限値緩和案が示されているだけです。法制上の問題や公平性を損なうという点について具体的な説明を環境省は一切していないのです。
動物愛護団体からの攻撃をかわしたい。国の審査会を通じての環境省とのやり取りで筆者が確信したのは、環境省動物愛護管理室は動物愛護団体から攻撃されることを何としても避けたいのだ、ということでした。
次回は、数値規制に関して環境に寄せられた要望や提案を紹介します。公明党の大物代議士の事務所からFAXで環境省に要望を送った愛護団体もありました。
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