譲渡適性で犬を選別処分⑤ピースワンコ活動方針に影響必至、誠実に周知を


◆適性を考慮した譲渡

 動物愛護管理法の改正問題などを議論してきた中央環境審議会動物愛護部会は2018年12月に「動物愛護管理をめぐる主な課題への対応について」(論点整理)という全122ページに及ぶ資料集をまとめています。

 その31ページに「殺処分と譲渡の考え方」という項目があります。広島県での殺処分ゼロの実現を続けていると自賛するNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、神石高原町、大西健丞代表理事)の保護犬(ピースワンコ)事業を考える上で示唆に富む内容です。そこでの論点の1つとして、「譲渡適性を考慮した譲渡の促進」が挙げられているからです。

 「自治体が殺処分を避けることを優先するあまり、譲渡適性のない個体を譲渡しており、自治体が譲渡した犬による咬傷事故の発生やそのおそれ、また、団体譲渡した先の団体が譲渡困難犬を多く抱え込んで過密飼育により適正飼養が難しい状態になっているケースがあるとの指摘がある。こうしたトラブルは譲渡した自治体とは異なる自治体で発生することもある。自治体が譲渡に適さないと判断した個体の取扱いについては、どの程度まで全国的に方針を統一し、どの程度を各自治体の裁量に委ねるべきか」

 審議会の事務局(環境省)は委員たちに問いかけます。それに対する関係者の意見はどうでしょう。

 「保護犬・保護猫を飼うと大変だという悪評を立てないためにも、どうしても譲渡不適切と思われる犬猫を時に毅然と殺処分することも必要ではないか」(委員)

 「処分ゼロを目指して問題ある動物を譲渡し、咬傷事故や多頭飼育崩壊が生じている状況は適正譲渡とかけ離れ、適正飼養の推進に寄与せず、飼い主責任の考え方を台無しにする可能性があるため、自治体は問題ある動物を譲渡すべきでない」(自治体)

 「広域譲渡は譲渡後のフォローが行えない等、責任の所在が不明確であり、譲渡適性の判定を含むその後の処分を、譲渡先自治体で判断するのか等の整理が必要。動物の移送ストレスの問題等や公費で実施することも鑑み、災害対応等よほどの事情がない限り、実施は困難」(自治体)

 譲渡を支持する声はなく、問題のある動物は殺処分する、譲渡の対象にしない、とする意見が出てきています。また、引き取った犬を東京圏や関西圏まで運んで飼い主を探す行為についても、譲渡後のフォローの難しさなどを理由に慎重論があります。

 つまり、殺処分ゼロを継続するためにピースワンコが取り組んできたという殺処分対象の犬の全頭引き取りは、譲渡適性を問わずに引き受けるという点でも、その犬を県外にも運んで飼い主を探すという点でも歓迎されざる事業ということになります。

 さらに言えば、ピースワンコが消極的だった保護犬に対する不妊去勢手術についても適正飼養の観点から促進することを前提として議論が進められていて、ピースワンコによる全頭引き取りを前提に成り立つ広島式の「殺処分ゼロ」が浮いた存在であるかがよくわかります。

 広島県によると、ピースワンコが犬の引き取りにあたって「適正飼養」を考慮しはじめたのが2019年1月からということですから、彼らもこの審議会の論点メモを読んで、譲渡適性を問わず全頭引き取るという方針を実質的に放棄していたのかもしれません。

 殺処分対象を全頭引き取ると訴え続けてきて、巨額の寄付を集めてきた手前、そうした方針変更を躊躇しているのかもしれません。しかし、県が指摘するような方針転換があったのなら、寄付者らにもわかりやすく、真実の姿を説明する義務があると私は思います。

◆収容動物の適正な譲渡と殺処分

 21ページ「収容した動物の返還・適正な譲渡の推進と殺処分の考え方」という項目は、全国の動物愛護センターの責任者らが業務運営上、最も参考としている箇所で、環境省動物愛護管理行政事務提要の調査で試行している3区分の分類のうち①の「譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)」や③の「引き取り後の死亡」を除く個体(②)の譲渡を積極的に進めていく方向を示しています。

 譲渡しようがない③の「引き取り後の死亡」はともかく、これまで新しい飼い主に譲渡できる適性が乏しい①のような犬も対象にした殺処分ゼロは「引き取り個体がゼロにならない限り現実的に不可能」だとして、譲渡しないで安楽死させることを含めて対策を考えるよう推奨しています。

 つまり、以下のような方法を考えてはどうかというわけです。

・STEP3 の譲渡により殺処分を少なくしようとするのは困難。

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・STEP1 やSTEP2 の、飼い主の意識改革や無責任な餌やりの防止等により、引取り数を減少させること等により、結果として①に該当する動物の数を減少させることを目指す。**

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・譲渡を行う場合には、通常の個体ではないことを十分に譲受者に説明の上で、適切に飼養管理できることを確認の上で譲渡することが必要。また、咬傷事故発生のおそれ等ある場合等は、譲渡せずに安楽殺させることも必要な選択肢となる。**


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