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上限「15頭」が一人歩きする環境省犬猫数値規制⑦「条例制定なら自治体の独自基準もOK」か?「上限値」の強化と緩和の検討案は真っ黒け

1、環境省令案に採用せず

 環境省の動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会(武内ゆかり座長)は2020年8月12日にとりまとめた報告の中で、「繁殖犬15頭」等の従業員1人あたりの飼養頭数制限(上限値)について「課題のある事業者の上限値強化と優良な事業者の上限値緩和を検討する」としていました。

 しかし、環境省は2カ月後の10月7日、中央環境審議会動物愛護部会に「数値規制」を盛り込んだ環境省令案を諮問した際、上限値を強化したり緩和したりできる規定を盛り込んでいませんでした。
 
 検討会の事務局は環境省であり、専門家の目でチェックしてもらいながら環境省自身が自信をもって取りまとめた報告のはずです。

 さまざまな「数値」の多くは外国のルールなどを参考に寄せ集めたもので、それ自体に科学的にも明確な根拠があるわけでもないため、数値が一人歩きしないよう武内座長は報告とは別に「数値のみに頼ってはいけない」とする座長提言もまとめていて、報告書に盛り込まれている「上限値の強化や緩和」に加えて、「適切な準備期間」を設けるよう求めていました。

2、「自治体の間に不公平感生む」と環境省

 これへの対応について長田啓動物愛護管理室長は10月7日の審議会で以下のように報告しています。

「検討会報告の中では、ここに米印(※)がございますけれども、課題のある事業者の上限値強化と、優良な事業者の上限値緩和を検討するということがございました。検討した結果を率直に申し上げますと、どちらについても規定をしないということでございます」

 「まず、課題のある事業者の上限値強化でございますが、環境省令の中で具体的な数字を定めて、その数字を遵守している事業者に対して他の不適切な事項がある場合に、その数字をさらに縮めてそれを遵守させるというのが、他の事例等でもなかなかそういう制度はないということ。あるいは他の基準を満たさなければ当然、その他の基準を満たさないことによって、勧告や命令を速やかに出していくというのが、今回の基本的な考え方であるということ。こういったことを考えますと、課題のある事業者の上限値強化というのは法制的にも無理があるというふうに考えております」

 「また、優良な事業者の上限値緩和につきましても、どういった客観的な基準で上限値を緩和するのかと、これも自治体に委ねられるということになれば、自治体ごとに判断が分かれて、地域間の公平性が損なわれるというような課題も生じる可能性がある、あるいは自治体がこの判断をするために相当な負担が伴うということも考えますと、基本的にはこの15頭、20頭というもの、25頭、30頭というものは維持しつつ、先ほどご説明しました経過措置を適用する形で、基準に対応していただくということを基本的な考え方としております」

 私はこの説明に疑問を感じます。

 課題のある事業者向けに上限値を強化することは、例えば、「スタッフの経験不足により犬猫の世話が十分に行き届いていない業者に対し、改善されるまで経験者の受け入れなどにより一時的に人数を増やして問題を改善させる」という指導方法だってあるでしょう。

3、自治体は条例で独自基準設定も可能

 「地域間の公平性が損なわれる」ということも懸念しているようですが、そもそも動物愛護管理法第21条の基準遵守義務に関する条項では、環境省令で決める基準に代えて都道府県・政令指定都市は条例で独自の基準を定めることができることになっています。

「自然的、社会的条件」をもとに自治体が必要と判断すれば、独自基準を採用できる可能性は専門家の検討会でも議論されていました。

 環境省はいったいどんな調査、比較検討をして検討会報告にある「上限値の強化や緩和」を採用しないことにしたのでしょう?審議会当日の環境省の説明が疑問に思えたので、私は10月12日、環境省に上限値の強化や緩和を採用しないという結論に至るまでの検討資料を情報公開請求しました。

4、検討結果の行政文書開示を請求

 10月7日開催の中央環境審議会動物愛護部会提出資料3-1②の2ページ目 最上段の「従業員の員数」に関する条文案において、検討会報告が検討課題とした「上限値強化、上限値緩和」について採用しないことを決めた検討経過を示す検討資料、議事録、稟議書当の行政文書一式(国会における動物愛護議連、メディア等との質疑応答記録、電子メール等を含む)

 環境省動物愛護管理室幹部たちは、特定の動物愛護議連関係者と頻繁に意見交換をしているらしいとの情報もありますので、そうした人物との接触がどのように政策決定に影響を及ぼしているかを明らかにすることは非常に重要です。

 しかし、環境省は文書の特定に時間がかかるからといって決定の期限を一度延長しながら、12月1日付で開示決定されたのがこの文書「犬猫の飼養管理基準に係る答申案」です。たった2枚のメモです。

 経過措置と員数規定の2つは「検討会取りまとめにおいて留保した事項」とされていて、特にこの員数規定に関しては(案1)(案2)の2つを用意して検討をした様子がわかりますが、その内容は黒く塗りつぶされて、非開示となっていました。

5、黒塗りこそ率直な意見交換の妨げ

 開示しない理由は「国の機関における審議検討に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見交換もしくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある」からだといいます。
 
 しかし、この決定には問題があります。

 なぜなら、上限値の強化・緩和の問題については環境省が省令案には採用しないと決定した後です。この行政文書を公にしたとしても率直な意見交換などが妨げられるはずはありません。むしろ、率直に議論するためには開示されていなければならない情報だといってもいいくらいです。

 経過措置の内容を示さずにパブリックコメントを実施したことにも批判が出ています。むしろ、環境大臣は率直な意見交換を進めるため、これらの情報を積極的に公開していたほうがよかったはずです。迷惑を被るひとはどこにもいません。

 環境省と頻繁に情報交換しているという噂のある動物愛護議連の特定の関係者とのやり取りも含めて開示決定を見直すよう審査請求します。

6、超党派議連、強化・緩和に反対論

 この2枚の文書に作成日付はありません。私が記憶するこの問題をめぐる議論は、検討会報告が公表されてしばらくたった9月4日に超党派の犬猫殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟のプロジェクトチーム会合くらいしかありません。

 その時の様子を以前の記事から引用して紹介します。

 ある出席者から環境省に対して「優良事業者への上限値緩和は必要ではない。20頭、30頭認めてしまうと、優良な飼い主は5頭とか6頭がせいぜいだと皆さんおっしゃっているときに上限値規制の意味がなくなってしまう」と質問をしていました。


 その時、環境省の長田啓動物愛護管理室長は「制度的な難しさがある。緩和もどういう基準で緩和をするか、緩やかな基準なら意味をなさなくなってしまう。いまはまだ具体的な検討はできていないが、(意見を踏まえながら)検討をしていきたい」と答えました。

 ある出席者がだれだったか手元のメモに残っておらず、特定できません。愛護議連のアドバイザーとしてPT会合ではいつも活発に意見をいう女優・杉本彩さん率いる公益財団法人動物環境・福祉協会Evaに上限値問題についての意見を尋ねたところ、事務局から以下の回答がありました。

 Evaの意見としては優良な事業者をどのように判断するのか不明確であること、運用面での自治体の負担も考え「優良な事業者の上限値緩和」は設けるべきでないと思います。

 環境省がこうした声に耳を傾けた結果、上限値の強化・緩和という専門家検討会の提言を退けることになったのでしょう。

 しかし、経過措置の導入を考慮に入れれば、優良事業者の基準作りや認定はこれからもう半年~1年かけて議論しても十分に間に合うはずです。

 環境省は非開示とした員数規定に関する資料の内容を、動物愛護議連のメンバーやアドバイザーらに説明したでしょうか?

 あるいは、ペット業界が組織する犬猫適正飼養推進協議会からこの件で意見を聴取したでしょうか?

 法律上も独自基準の作成を認められている地方自治体にも意見を聞いてみる必要があったはずです。

 案外、黒塗りの部分には、地方自治体が必要と認めるときは環境省の省令による数値基準とは異なる基準を条例により定めることができる、という一文があったりしたのかもしれません。法律で認められた権利でもありますから。

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