【海のナンジャラホイ-4】動かないという選択
動かないという選択
街の真ん中で、ビルの壁に体を固定して、じっとしていたらどうでしょう? 寒かったり暑かったりして大変そう。お腹も空きそうです。何日くらい生きられるかな・・・っていう問題になりますよね。バカなことを聞いていると、思いますか?
陸上には、壁にひっついて動かない動物なんていうのは存在しません。ところが、海の中ではそんな「固着生活」が許されるのです。
エビやカニの仲間の甲殻類では、フジツボやカメノテは岩の上にしっかりくっついて動きません。ときどき蔓脚(まんきゃく)という熊手みたいなのを広げて伸ばして、海中のプランクトン(*)をキャッチして食べます。上手いものです。
アサリやハマグリの仲間の二枚貝類では、カキは左側の貝殻を下にして岩に固定して、右側の貝殻をそっと開けながら外のプランクトンを吸い込んで食べます。プランクトンを濾(こ)しとるのには、鰓(えら)を使っています。偉(えら)いものです。
巻貝の仲間でも動かないものがいます。ぐるぐる巻いた管が岩の上に張り付いていて、管の丸い開口部のところから、粘液のネットみたいのがモワッと広がって出てきます。粘液網にプランクトンを絡め取って、それをすすり込んで食べるのです。ズルズルっと。
われわれ人間に近い生物で、動くのをやめたのがホヤです。体から飛び出た2つの筒のうち、ひとつから海水を吸い込み、もう一つから出します。吸った海水は体の中の鰓かごで濾過(ろか)されて、貯まったプランクトンは粘液シートでかき集めて胃袋に送られます。
こんなふうに並べてみると、動物の仲間の大きなグループには、いずれも「動かないという生活」を選んだものたちがいるようです。まあ、その方がいろいろ面倒臭いことがなくて、楽そうですもんね。でも、そのためには大前提として、環境がある程度穏やかで快適であること、それに、じっとしていても容易にプランクトンという餌を摂ることができる、ということが満たされていなければならないわけです。
実は、こういう動かない動物たちも子供の時(幼生期)は、プランクトン暮らしです。海の中をずーっと漂ったり泳いだりしてきて、やがて海底にたどり着き、岩の表面に固着する時がやってきます。一回くっついてしまったら、おいそれとは動くことができません。大人暮らしをするためには、最高の居場所を選んでからくっつかなければならないのです。さあ、一世一代の大勝負です!
さて、人間のお話に戻ります。エアコンを使って住環境を快適にして、インターネットを使って居ながらにして食べ物を手に入れられるようになって。気がつけば、無理だと思っていた固着生活が、どうやら人間にもできそうな状況になってきましたね。
さて、皆さんも「動かないという選択」をしますか?
○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部 海洋生物科学コース
*注「プランクトン」
泳ぐ力がなかったり弱かったりで,水中を漂って生活する生き物のこと。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?