【海のナンジャラホイ-24】熱帯で海藻の養殖ってどうよ?
熱帯で海藻の養殖ってどうよ?
海で行う水産養殖では、餌を与える必要があるものと必要のないものとがあります。前者は主にハマチやギンザケなどの魚類養殖です。そして、後者はカキやホタテやホヤなどの水産動物の養殖とワカメやコンブなどの海藻養殖です。カキやホタテなどの二枚貝類やホヤは海中のプランクトンを濾過(ろか)して食べる動物なので給餌の必要がありません。また、海藻は海中から栄養塩を取り込みながら光合成を行うので、やはり給餌の必要がありません。
餌をやらなくて良い養殖というのは、とても便利の良い感じがします。実際のところは、途中で付着物の掃除をしたり、間引いて密度調整したり、色々と手間がかかるのですが。海藻の場合、小さな個体を海の中のよく日の光の当たるところに吊るしておけば大きく成長するわけで、ワカメやコンブの海面養殖では、実際にそれが行われています。
前回お話ししたのは、熱帯で行われている紅藻類の海藻キリンサイ類の養殖についてでした。世界の熱帯域で特に1980年代以降あたりから養殖が行われるようになり、最初はフィリピンが第1位の生産国でした。しかし、現在ではインドネシアがダントツ第1位で、2位がフィリピンになっています。
これらの国々では、かつては魚介類の漁獲による漁業が行われていましたが、多くの海域で資源枯渇が生じ、ダイナマイトを使った違法漁業まで行われるような状況もありました。ここに、キリンサイ類の養殖技術が導入されて、安定的な海藻の生産ができるようになったのです。また、食用のみでなく、カラギーナン原料としてのキリンサイ類の需要が拡大することによって、2000年以降には生産量が急拡大し、これらの熱帯海域の沿岸漁業が、漁獲漁業から養殖漁業に大きくシフトすることになりました。
キリンサイ類の養殖では、海藻の小さな株を海中に吊るしておいて、1〜2ヶ月したら収穫して、藻体の一部を残してまた海中に吊るせば増えるという、海藻の栄養成長を利用しています。とても自然環境への負荷の少ない「自然に優しい」養殖であるようです。でも、実際のところは、沿岸の環境にいろいろな影響が生じているという報告があるのです(図参照)。
キリンサイ類の養殖場所としては、アマモ場の上がよく選ばれるようです。経験的にその場所が、養殖の成績が良いようなのです。キリンサイ類を密に養殖すると、その下のアマモ場には日光が当たりにくくなってしまい、アマモ場の衰退が生じます。アマモ場は熱帯域での漁業資源のゆりかごであるため、その衰退は漁獲漁業に影響してしまうのです。魚類相が変化した海域もあるようです。アマモ場が衰退すると、その周囲の海底の底生生物相も変化してしまいます。
また、養殖場から抜け落ちたキリンサイ類が海底で増えて、在来の海藻類に影響を与えたり、サンゴを覆って被害を与えたりするようなことも起きているのです。一方、養殖されているキリンサイを狙ってアオウミガメや植食性魚類が食べにやってくるため、アオウミガメを敵に回さなくてはならないような状況も生じているようです。
海藻養殖の導入によって熱帯域の水産業に大きな変革が起こったのは喜ばしいことですが、人間活動は、常に何かしら自然環境への影響を与えずにはおかないようです。でも、沿岸の生態系システムのバランスをよく理解しながら色々な工夫を積み重ねてゆけば、だんだんと状況は良くなってゆくはずです。キリンサイ類の養殖でも、アマモ場のない沖側での養殖の実施なども工夫されているようです。熱帯域での海藻養殖の今後のさらなる発展に期待したいですね。
○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?