【海のナンジャラホイ-7】流れ藻になる前に脱出する!
流れ藻になる前に脱出する!
前回、ホンダワラ類の旅路についてのお話をしました。そのホンダワラ類の海藻は細かく枝分かれしているものが多く、立体構造がかなり複雑です。ミクロな目で見れば、ジャングルみたいになっているわけです。熱帯のジャングルにたくさんの動物が隠れ住んでいるみたいに、この海のジャングルの中にも、ものすごく多くの動物が住み込んでいます。
海の中で、ホンダワラ類の先端を片手いっぱいくらいちぎって調べると、100匹以上の動物がいることも普通にあります。1株全体なら、数万の動物が隠れ住んでいることになります。すごいですねー。ただし、どの動物もとても小さいのが特徴です。大きくても2~3センチくらいで、1センチに満たないものがほとんどです。どうしてでしょう? たいていのホンダワラ類は、毎年冬から春にものすごい勢いで成長して、夏前にはほとんどが流されて消えてしまいます。そんな1年以内に著しく増減する極端な住み場所は、ゆっくり成長して大きくなるような動物の住み場所にはなることができないのです。海藻が大きくなったら、さっと加入してきて、短い時間にどんどん子供を増やすことができるような動物にこそ、グッドな住み場所なのです。
それらは、海藻の上に住んでいるので「葉上動物」と呼ばれます。どんな動物がいるかというと、コケムシ・ヒラムシ・ヒドロチュウ・センチュウ・ソコミジンコ・ウミグモ・ゴカイ・ウミウシ・カイミジンコ・ヘラムシ・ジュウモンジクラゲ・ユウコウチュウ・・・(大雑把かつ順不同)など、変な動物がたくさん居ます。
海の場所が違えば、動物の種類もいろいろ組み合わせが違っていて、なかなか面白いですよ。そんな中で、どこで調べても大抵たくさんいるのが、ヨコエビ類・ワレカラ類・巻貝類です。
海のジャングルの中でひしめき合って暮らして行けるのは、けっこう餌が豊富だから。小さな動物を捕まえて食べるものもいますが、プランクトンを食べることもできるし、すみ場所であるホンダワラ類の表面に生えてくる小さな藻類(珪藻など)を食べていれば、すみかの掃除にもなって一石二鳥ですよね。
前回、ホンダワラ類が海底から離れて、流れ藻になるというお話をしました。では、流れ藻になる時、そこに住んでいる葉上動物はどうなるのでしょうか? これは、試してみればわかります。スキューバダイビングで 3~4メートルくらいの深さに潜って、ホンダワラ類の海藻を海底から切り離して、海中に放ってみます。海藻の体は、海面に向かってゆっくりと浮かび上がってゆきます。すると、どうでしょう! 浮かび上がる海藻から、巻貝が離れてポロポロとこぼれ落ち始めます。ゴカイやヨコエビは、海藻を離れて泳ぎだし、海底をまっしぐらに目指します。ワレカラ(*)も、海藻を離れてたくさん降ってきます。彼らはまるで、海藻の枝になったようにじっとして、ゆらりゆらりと海底に落ちてゆきます。時々触角を振ったりして、身じろぎするのはご愛嬌です。
そうです! 葉上動物たちの多くが、流れ藻になる前に脱出を図るのです。でも、この脱出は危険な賭けでもあります。周りには魚がたくさんいる場合が多いのです。私が、かつてワレカラの脱出について調べてみたところ、海底にいたワレカラの3分の2が海面に達するまでに脱出し、脱出したうちの3分の2が、海底に戻る前に魚に食べられてしまいました。そんなリスクを負ってでも、逃げなければならないほど、流れ藻は厳しい住み場所なのかな? もっとも、流れ藻に居残って住み続けることができる種類もいるようなので、ワレカラたちにもいろいろな事情があるのかもしれません。
じつは、葉上動物たちのこの脱出習性は、私たち研究者の採集には結構便利です。ふつう、葉上動物たちを手に入れるためには、海藻ごと採集して、実験室に持って帰ってから海藻から葉上動物を分離します。海藻ごと真水に浸すと動物はびっくりして泳ぎ出てくるので、それを集めると効率が良いのです。でも、結構な手間だし、すぐに海水に戻しても、動物は弱ってしまうことが多いのです。
だから、海底に潜って、ホンダワラ類の海藻を海底から切り離して、片手に小瓶など小さな容器を持って待つのです。すると、上からいろいろな動物が雨のように降ってくるので、その中から、目的の動物を容器に受け止めれば良いのです。あらかじめ海藻の枝の小片を容器の中に入れておいて、動物のつかまり場所にしてやるのが肝心です。
慣れると、かなり正確に狙った種類だけを採集することができるようになります。なんだか3次元のインベーダーゲーム(知らない?)みたいです。ある程度採集したら、容器にフタをして、陸に揚げます。
このやり方だと、動物への負担も少なくて、持ち帰ってからの飼育などにも便利なのです。なかなか楽しいのですよ! 春から夏に葉上動物の多くなる時期がオススメです。もし機会があったら、チャレンジしてみてくださいね。
○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。
*「ワレカラ」について詳しくお知りになりたい方は,ぜひこの本をお読みください。
『われから かいそうのもりにすむちいさないきもの』
https://www.kasetu.co.jp/products/detail/1172
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