見出し画像

【海のナンジャラホイ-11】チャック袋は私たちの強力な味方です

チャック袋は私たちの強力な味方です


チャック袋はご存知ですよね? 開口部にファスナーがついたプラスチック袋です。チャック袋の代表格であるセイニチの「ユニパック」シリーズのパッケージには、小さな文字で「はたらくチャック袋たち」と記されています。私たちの研究室でも、チャック袋は働き者で、いろいろな大きさのものが常備されています。ユニパックより大きくて頑丈な、チャック袋の親玉格は、ジップロックです。

これらのチャック袋たちの私たちの研究室での役割は、ちょっと変わっています。海辺での観察会や生物採集に役立つのです。主な役割は3つあります。
まず第1は、海辺で生物観察を行う際の「ミニ水槽」としての役割です。
磯などで面白そうな動物を見つけたら、その動物よりひと回り大きなチャック袋に海水と共に入れます。そのチャック袋の中の空気と余分な海水を追い出してからファスナーを閉じると、ミニ水槽が完成するのです。チャック袋のミニ水槽にはいくつかのメリットがあります。
水中から取り出した動物をそのまま観察しようとすると、濡れた表面に光が乱反射して見にくいのですが、チャック袋の水槽内ではそれが解消されます。また、元気の良いカニ類などはハサミでアタックしてきたりしますが、ミニ水槽内では、挟まれる心配もなく、裏(腹側)も表(背側)もじっくり観察できます。ウミウシやヒザラガイやカサガイなどはチャック袋の内側に張り付いてくれれば、裏側(腹側)の様子をじっくり観察することもできます。野外でならルーペを、実験室内でなら実体顕微鏡(解剖顕微鏡)を使って、袋の外側から生きた動物の細部を詳しく観察することができるのです。

チャック袋の「ミニ水槽」で観察する


第2は海中での小型生物の採集での役割です。
スノーケリングやスキューバ潜水で生物採集を行う際に、捕まえた生物を袋に収納するのは、実はなかなか難しいのです。網袋に放り込む方法がありますが、小さな動物だと網目に詰まったり、他の動物に紛れて見失ったりすることが多いのです。では、プラスチック袋はどうかというと、袋の口をいちいち閉じるのが厄介で、ことに水中ではかなり煩わしいのです。口を閉じようとすると中身が逆流して出てしまうのも、困りものです。
そこで、チャック袋が活躍するのです。透明で中身が確認しやすいうえに、冬に厚手のゴム手袋をしている時にでもファスナーを閉じることができます。でも、海中作業の時には、ファスナーを閉じるときに中身が逆流して出てしまうのは、普通のプラスチック袋と変わりませんね。そんな時に登場するのが2つの剣山です。チャック袋の下半分を2つの剣山で挟んでぎゅっと押すと、均一な穴を開けることができるのです(この方法は山梨大学におられた平田徹先生に30年以上前に教わったのですが、随分と感心して、今でも使っています)。私たちの使っている剣山では、直径がほぼ0.1 mm の穴を開けることができます。この穴サイズより大きな生物であれば、もれなく採集できるということです。
この穴空きチャック袋に海中で採集生物を入れると、チャック袋を閉じた時に余分な海水は穴から抜けてくれるので、生物を1匹も逃さずに、上手に袋の口を閉じることができるのです。しかも、海中で袋の中の生物の観察を行うこともできます。
前にお話しした葉上動物の採集の時には、この採集袋の上端の隅に布ガムテープで補強をした上に一つ穴パンチャーで穴を開け、そこにシリコンチューブを通して束ねて持って出かけるのです。対象生物の大きさに合わせて採集袋を準備してゆくこともできて、応用範囲がとても広い方法です。

海中採集用の穴空きチャック袋(何度も活躍した強者たち)


第3は採集した生物サンプルの保存での役割です。
前述の穴空きチャック袋で、採集生物を陸揚げして海水を切った後に海水で湿したペーパータオルに包んで冷蔵しておくと、多くの小型動物が2~3日は生きています。
また、私たちは採集した生物をフォルマリンやアルコールに浸して保存することが多いのですが、プラスチックのコンテナ容器などにそれらの保存液を容器の7~8割くらい満たしておいて、穴あきチャック袋に入れた生物サンプルをそのまま容器に入れれば、複数のサンプルをまとめて液浸保存することができるのです。個別の容器に少しずつ保存液を分け入れたりする必要がなくて、とても便利な方法です。

保存溶液中の穴空きチャック袋(撮影用なので生物サンプルは入っていません)


そんなわけで、もはや、私たちの生物観察や研究調査は、チャック袋なしでは成り立ちません。チャック袋の本来の使い方からしたら、亜流というか相当変わった使い方をしていると思います。でも、チャック袋は、私たちの調査研究における強力な味方なのです。


○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。


*海洋生物の研究者,青木優和さんがユニパックを駆使して実際にどんな海の中の生物を研究しているのか? その一端をお知りになりたい方は,下記の本を手にとってみてください。

『われから』

『わかめ』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?