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【海のナンジャラホイ-32】ミノヒラムシは上昇志向?

ミノヒラムシは上昇志向?


海産無脊椎動物には「~ ムシ」と名のつくものがいろいろあります。細長くて紐みたいな「ヒモムシ」は紐形動物、岩や海藻の上にべっとりと苔みたいに広がっている「コケムシ」は苔虫動物(=外肛動物)、磯を駆け回るゴキブリみたいな「フナムシ」やミニチュア靴べらみたいな「ヘラムシ」は節足動物・・・といくらでも挙げられます。
多くは、形状に由来した名付けが行われていますね。扁形動物の「ヒラムシ」も、薄くて平たい形が名前の由来です。薄くて平たい体は、海底の岩の上にぴったりと張り付くのに適しています。種類によっては、岩の上にいるものもあるし、岩の裏側に隠れているものもあります。岩の上に住むものには周りの環境に色を似せたものもあり、暖かな海に住むヒラムシたちには、ものすごく色彩豊かな美しいものもあって、ダイバーには人気があります。ヒラムシに特化した図鑑まで発売されているくらいです。

私たちが調査を行う南三陸沿岸の海の生物は、色彩が全体的に地味です。また、種数は少ないけれど、1種類あたりの個体数がやたらに多いのも、北の海の特徴です。キタムラサキウニも巻貝のコシダカガンガラも探す必要がないくらいにたくさん居ます。やたらに見かけるイトマキヒトデは、青や緑の体に赤やオレンジの斑点があって、ほんの少し、海底に彩りを添えています。こちらでは、ヒラムシもずいぶんと色が地味です。よく見かける「ミノヒラムシ」は茶色っぽくて、背中に小さな突起がたくさんあって、見ようによっては「蓑(みの)」のような感じにも見えそうです。藻場のある海底の岩場に潜めば良いカモフラージュになって、見つけ難いだろうと思われるような姿をしています。

でも、実はミノヒラムシはずいぶんと目立つ行動をとるのです。ひたすら上に向かって泳ぎ続けるのです(図1・2参照)。

図1
図2
図1・図2:ヨレモクの藻場を背景に泳ぎ続けるミノヒラムシ(体長3センチくらいの同じ個体)

頭部を上に向けて、止むことなく海面の方向へと泳ぎ続けます。全身をくねらせて体の両縁を波打たせながら、フラメンコのダンスのように泳ぐのです。1個体がどれくらい泳ぎ続けるのかはわかりませんが、私たちが見ている間はずっと泳いでいるし、泳ぎ疲れて海底に沈んでゆくような状況は見たことがありません。でも、海面に到達して水面に浮いているところも見たことがないので、沈まない程度に泳いで海の中層に留まるようにしているのかもしれません。ミノヒラムシが泳ぐ様子は、海岸の防波堤などを歩いているときに、海面からでも見つけることができますし、同時に数個体が泳いでいるのを見かけることも珍しくありません。

分からないのは、彼らが泳いでいる理由です。海底のすみ場所から一時的に追い出されて、逃げるために泳いでいるような状況には見えません。私たちの知る限りでは、ミノヒラムシは肉食性の種類で、海底で小動物を飲み込んで生きているはずなので、餌を取るために泳いでいるとも思えません。あるいは、動物プランクトンなどを食べることもできるのでしょうか? かなり激しい水泳を何時間にもわたって続けているので、それがどうして可能なのか、エネルギーの供給源は何なのか、それも疑問です。共生藻類が居て光合成をしてくれているのでしょうか? 沿岸には、捕食魚もいるし、潜水して餌を取る鴨や鵜などの鳥類だっています。目立つ泳ぎをしていてそれらに食べられることはないのでしょうか?

ミノヒラムシが真っ直ぐ上に向かって泳ぎ続けるのを見かけるたびに私の頭の中はハテナでいっぱいになります。理解不能なことや説明不能なことを目にするのはストレスです。いつか機会を見つけて真相を探ってやりたいと思います! でも、とりあえずは「上昇志向のヒラムシなのだな」「そのうちヒラムシでなくて、重役ムシや社長ムシになっているかもしれないな」くらいに思って納得しておくことにします。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。

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